第2章

第15話 休日に那奈と①

 渋谷先輩の件が解決した事もあって、時間と気持ちに余裕ができた俺は、夜に小説を執筆していた。

 未だに書籍化作家という夢を諦めていない俺は、なんやかんやで書き続けている。人気が出ずに気持ちが折れる事もあるが、応援してくれる人もいるし、自分の夢のためにも頑張らないといけないという気持ちがある。


 実際、小説を書きはじめたことで色々な作家の人と繋がることができたし、交流も増えてきた。SNSの投稿で目にするように、いつか俺もオフ会とかしてみたいな……



 今日も一話分を執筆し、寝る前にスマホの通知を確認すると、那奈からのメッセージが何件か来ていた。


『もしよければ。今度の休みにカフェとか行かない……?』

『あ、そのまた色々と話したいし、楽も甘いもの好きでしょ?』

『ど、どう?』



 メッセージが3件連続で来ていた後に、可愛い何かのキャラがお願いしているスタンプが、俺の個人のトーク欄に時間差で送られていた。

 小説の執筆に集中していた俺は、那奈からのメッセージに気付いてなかったけど……時間差でスタンプが送られているのを見ると、那奈はしばらく返信が来なくて不安になってたのか、と思うと少し笑ってしまう。

 俺と同じで、那奈は気にしすぎる性格だから、凄く気持ちはわかるけどな。



『返信遅れて悪い。次の休みは特に予定もないし、全然大丈夫』



 俺が那奈からの誘いを承諾した旨のメッセージを送ると、すぐにメッセージが返ってきた。


『ほんと?』

『嬉しい! 絶対だよ!』

『メッセージが返ってくるか、めちゃくちゃ不安だった~!』


『俺を何だと思ってるんだよ。で、どこに行くんだ?』



 俺が那奈からのメッセージにツッコミを入れて返信すると、今度はどこかのカフェのURLが送られてくる。



『ここ! 新しく出来たみたいで、評判なんだよ~!』


『へぇ、知らなかった』


『じゃ、今度の休みはよろしくね!!』



 俺に何かよろしくされる事があるのかは分からないが、那奈と会って話す事は少し楽しみだ。この前の時も、そこまで深く話はできなかったしな。





 あれ、俺は何でこんなに楽しみな気持ちになってるんだ?



◇◇◇



 那奈とカフェに行く当日。現地集合だったので、俺は早めにカフェに着いて、カフェの前で那奈を待っていた。



「ごめん楽! 待った?」


「いや、俺もさっき来たところ」



 本当は当日になって少し緊張もしたからか、一時間前ぐらいにはもう着いてしまっていたのだが……ここは那奈には言わないでおこう。



「私も今日会う、ってなったら少し緊張して早めに着いちゃった。そういや楽って、遅刻とか絶対しないし、私よりいつも先に来てたよね」


「……まぁ、男にとって女の子と会うときに遅れてくるのは、ダサい以外の何ものでもないからな。今日は流石に早く着きすぎたけど」


「楽のそういうところ、本当に好き。じゃ、お店の中入ろっか!」



 何で俺の周りの奴らは、何でそんなストレートに褒めてくるんだよぉぉぉぉぉぉ! お前らに恥ずかしい気持ちはねぇのかぁぁぁぁ!

 おっと危ない。つい、奥手で控え目な自分自身を思い出して、ネガティブな気持ちに押しつぶされるとこでした。


 俺と那奈は店内に入り、奥の空いてる席に座る。俺はアイスコーヒーとチョコのパフェ、那奈はカフェオレとイチゴのパフェを注文し、俺は先に来たアイスコーヒーを飲みながら話し始める。



「それで、今日は何の用だ?」


「付き合ってた頃はさ、こんな感じで話す事なかったじゃん。徐々に離れていったからさ……今日は色々と話したいなって」


「色々って例えば?」


「付き合ってた頃の話とか、今後についてとか。あ、パフェ来たよ」



 俺と那奈はパフェが来たことで、一旦会話を中断してパフェに集中することにする。

 ちなみに俺は甘党なので、パフェはもちろん大好物だ。甘いものなら、めちゃめちゃ食べられますからね。バイキングとかで、一人でデザート全消ししちゃうタイプ。甘党から比例代表で出馬させてもらっていいですか?

 それに、甘いものとコーヒーがまた合うんですわ。マリアージュすぎるんですよね。


 俺が静かに興奮しているなか、那奈はじっと俺の方を見つめていた。いや、俺だけじゃない。俺が注文したチョコパフェも見ている……!? こ、これはまさか?



「楽は本当に甘いものが好きだよね。私もチョコの方食べてみたいし、少し交換しよ?」



 き、来てしまったこのイベント。付き合ってたとはいえ、今は別れているわけだし、これをどう受け止めればいいんだ? ここは素直に好感するのが、モテる男という奴なのか? いやいやいやいや、きっと俺が自意識過剰なだけだ。



「お、俺もイチゴの方も食べてみたいしな。少し食べ比べしてみるか」


「やった! じゃあ、これ!」



 那奈は平然としながら、俺の顔の前にスプーンを持ってくる。

 うわぁ、イチゴのパフェも美味しそう! なんて思うかボケェェェェェ! なんで食べさせようとしてくるの? これ、俗にいうあーんイベントだよねぇ。聞いていた話と違うねぇ。


 これじゃ、もうただのイチャイチャしているカップルじゃねぇか。というか、付き合ってた頃にもこんなイチャイチャしてねぇぞ。



「食べないの?」



 少し笑いながら、那奈が俺を挑発してくる。 てめぇ、俺がヘタレなのを馬鹿にしてやがるな!?



「はいはい、今から食べますよっと」



 もうどうにでもなれ、と俺は強く決意して、那奈から差し出されたイチゴパフェを無心で食べる。色々な感情があって、パフェの味を楽しむことはできなかった。味なんか楽しむ余裕、ありません。



「じ、じゃあ次は俺の番だな? ほら、こっちも美味しいぞ」



 俺は那奈に反撃のカウンターを食らわすべく、同じように那奈の顔の前にスプーンを持っていく。ははは! 那奈も恥ずかしい目にあえばいいんだ!



「ん、じゃあ一口もらうね」


「えっ」



 俺のそんな悪い考えは、一瞬にしてぶち壊されたのでした。いや、何で自然に食べてんねん! これじゃ、俺だけヘタレで経験がないみたいだろ!



「楽もまだまだだね。このパフェより、考えが甘すぎるよ」


「くっ、やられたっ……!」





 というか、休日に俺たちは何をしてるんだ? 一応、元恋人なんだけどな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る