第14話 遅れた青春

 渋谷先輩の件を解決した俺たちは、明日も講義があるのでそろそろ解散する事になった。高輪先輩に解決したことの報告も、もちろん済ませている。



「流石楽くん! 私も念を送ってたよ~!」


「ははっ、ありがとうございます。今回は皆の協力があったので、また上手くいきました」


「楽くんのその優しい気持ち、私は大好きだよ。じゃ、また大学でね!」



 電話でも高輪先輩の破壊力は健在なんですね……あと、どうやって念を送ってたんだろう。何か想像すると萌えるな……



 高輪先輩に電話する関係で外に出ていた俺は、店内の席に戻って那奈と唯にそろそろ帰ろうか、と提案する。二人とも名残惜しそうだったが、二人も明日は講義があるため、俺の提案に賛成して帰る事となった。

 帰る、といっても那奈はまだ片付けなどの仕事があるので、俺と唯が先に帰らせてもらう形になるんだけど。


 ちなみに、渋谷先輩の仲間たちは起きて事の顛末てんまつに気付いたようで、絶望の表情をしながら帰っていった。あれは、今まで生きてきた中でもかなりの面白シーンでしたね。



「俺と唯は先に帰らせてもらうな。今日は本当に助かったよ。那奈、改めてありがとうな」

「那奈ちゃん、本当にありがとう。私もめちゃくちゃ感謝してる!」


 俺と唯は那奈に別れの挨拶を告げ、席を立って帰ろうとした時、那奈が少し俺たちを引き止めるような仕草が見えた。



「どうした那奈? 何かまだ俺たちに言う事があったか?」


「あ、え、いや……」



 俺の問いに、那奈は言うかどうか悩んでいるような仕草を見せる。



「らっくん、私は先に外に出てるね?」


「お、おう?」



 その那奈の様子をみてか、唯は先に店の外に出る。俺としてはいまいち理由が分からなかったが、那奈が何かホッとしたような表情になったのが見えた。

 そして那奈は、何か意を決したような真剣な表情で、俺の顔を見て話し出す。



「私、また楽と仲良くできるかな。楽はさ、私の事も大事と思ってくれるかな。また通話とか、一緒に遊んだりもしたいな……なんて。あはは、本当に面倒くさい女だよね。ごめん気にしないで!」



 そう言いながら去ろうとする那奈を、俺は那奈の手を掴んで引き止める。那奈の表情は、今にも涙が溢れそうな、悲しい表情をしていた。



「……付き合ってた時は、手を握る事も全然だったのにな。まぁ、俺がチキンだっただけなんけど」


「そんなことないよ。私から握れば良かっただけだし」


「問題が解決したのに、そんな暗い表情するなよ。俺は那奈の事を大事に思ってるし、また仲良くしたいと思ってるよ。元カノとか抜きにして、単純に俺はさ、那奈とまた仲良くしたいんだよ」


「何それ。やっぱり、女たらしじゃん」


「うるせぇ。別に俺は誘惑なんてしてねぇし。単純に素直な気持ちだよ」



 実際のところだと、俺はめちゃくちゃ気にしているんだけど……ここでは黙っておこう。

 別に、俺は渋谷先輩のように悪さしてないし? 股かけるとか女遊びなんて、俺は無縁だし? ただ美人な異性の知り合いが増えてきているだけだし?



「……ほんと? 私とまた、仲良くしてくれる?」


「俺と同じで、那奈も気にしすぎなんだよ。前も言ったろ? こんな俺でよければ、また仲良くしてくれよ。俺はまだ大学の友達が少ないんだからよ」


「うんっ……! また楽と仲良くするっ……!」



 那奈は俺の自虐的な言葉に少し笑った後、那奈を引き止めるために掴んでちた俺の手を、優しく握ってくる。



「じゃあ仲直りした記念に、今だけは少しこうしても良いよね?」



 俺は何も言えずに、那奈の手を握り返す事しかできなかった。こうして握ってみると、指も細くて小さい那奈の手は、何だか可愛いな、と思ってしまう。



 こうしてただ手を握っているだけの時間が続いていたが、ほどなくして戻ってきた唯と居酒屋の店長に注意されたことで、俺と那奈は冷静な気持ちを取り戻した。



「ちょっと、いつまでイチャついてるのっ?」

「もう問題も解決したし、そろそろ那奈ちゃんも通常業務に戻ってくれないかな?」


「「ごめんなさい!!」」



 俺と那奈は赤面しながら、唯と店長に誠心誠意謝罪したのであった。



◇◇◇



 渋谷先輩の件が解決した次の日、大学に来てみるとこれまた異様な空気が流れていた。しかも、今日は何だかやけに視線も感じる気がする。



「おう、楽! 何やら凄いことになってるぞ!」



 俺を発見した新が、いつもの冷静な感じとは打って変わって、少し興奮した様子で駆け寄ってくる。



「何か今日は視線を感じるし、どうなってるんだ?」


「とりあえず、ここは人目につくから場所を変えて説明するわ。楽、とりあえずオタク同好会で使われていた部室に行くぞ」


「オタク同好会の部室にか? まぁ全然大丈夫だけど、ちゃんと説明してくれよ」



 俺は、新に誘導されながらオタク同好会の部室に向かった。

 ドアを開けると、渋谷先輩とその仲間達……ではなく、唯に那奈、高輪先輩といった俺と仲が良い奴らばかり集まっていた。



「あれ、何でみんな集まってるんだ?」


「まぁまぁ。楽にも順に説明するから、座ってしばし聞け」



 新は俺に座るように促し、俺が座ったのを見て説明を始める。



「渋谷先輩はちゃんと罪を認めて、学生課に全て話したらしい。それで仲間もろとも退学処分になったんだけど、それが今日の学生の話題になっているな」


「渋谷先輩の影響力は凄かったし、当然っちゃ当然か」


「それでこのオタク同好会なんだけど、楽に部長権限が譲渡される形になってな。自由に部室も使えるし、活動次第によっては部費も貰えるから、俺らもオタク同好会に入ったわけ」


「なるほどなるほど。って、何で俺が部長になっているんだよ!?」


「渋谷先輩のプレゼントじゃね? どちらにしろ、楽と上野さんしかオタク同好会に残ってなかったから、部長はどっちかになる予定だったけどな」


「一旦オタク同好会の事は置いといて、何だか視線を感じる理由は?」


「渋谷先輩の闇を暴いた、ってことでさ、なぜか俺がリーダーとして活躍したって事になってるんだわ。で、俺が協力者もいたと言えば、皆もその存在が気になるだろ? それで、お前が暗躍者候補に挙がっているって話。楽くん、アンダースタンド?」


 いや、何で今度は俺が注目を浴びないといけないんだよ。新が余計な事言ったせいで、めちゃくちゃ注目されてるじゃねぇか。平穏だった俺の学生生活は消え去った……



「分かるぜ。本当は英雄として称えられたいよな」


「違うわ! 俺は新と違って。目立つのはあまり好きじゃないんだよ」


「分かってるって。俺は名前を伏せたし、皆の予想が鋭いとしか」


「新は俺とばっかいるし、俺が注目されるの分かってるだろうが」



 新に油断すると、痛い目を見る事をすっかり忘れていた。こいつも、本当に意地悪な性格なんだよな。



「まぁいいじゃねぇか。知名度も地位も向上、部室も使いたい放題! でもオタク同好会っていう名前は、古のイメージだし変えるか。部長が決めていいぞ~!」



 新の奴、俺が部長になったことをいい事に色々とさせる気だな?

 ただオタク同好会という名前のイメージは悪くなってしまったし、心機一転で変更する案については、俺も賛成だった。

 新しい名前、か。俺たちは運命でたまたま会っただけだし、皆の趣味も同じじゃないんだよな。じゃあ。俺はいったい何をしたい? この仲間たちと、何をして楽しみたい?



「楽しみたいという気持ちを出す感じで、青春同好会とかはど、どうですかね?」



 俺は恥ずかしい気持ちを何とか押さえつけ、考えた案を皆に発表する、こういうのは苦手だし、何か変な汗をかく。



「いいんじゃね? 青春、って中高生のイメージだけど、俺らだってまだギリ学生なわけだし」



 新の言葉を皮切りに、


「らっくんらしくて、私は好き!」

「先輩も賛成するよ~! 私も、高校時代とかはあまり青春を過ごせなかったし、まだまだ大学生活を楽しみたいしね!」

「私も賛成! 楽のこれから楽しみたいって気持ちが溢れてて、いいんじゃない?」



 唯や高輪先輩、那奈も俺の案に賛成してくれる。新の言うように、青春は中高生のイメージがあるけど、俺らもまだまだ学生だ。青春を楽しむ権利は残されているはずに違いない。



「じゃ、じゃあ青春同好会で決定で。ちょっと遅れたけど、これからまた楽しい日常を過ごしていこう!」



 俺の大学生活は、昔の俺が想像もつかないところまで変わってしまったと思う。ほぼ虚無だった大学生活は、今はこんなにも楽しい。

 きっとこの楽しい感情が、俺の答えなんだろう。俺はもう少し、学生の特権を使って楽しい日常を過ごさせてもらう――



◇◇◇


 


 これにて、長かった第一章は終わりになります! これからの楽たちの日常はどう変わっていくのか……まだまだ話は続く予定なので、是非お楽しみに!!


 渋谷先輩の問題が解決した後は、色々なキャラの深堀りがされていくかもね? もしかしたら、また新たなキャラも少し登場するかも!?


 また、感想や評価、レビューなどお待ちしています! 面白いと思ってくれた方は、是非何卒宜しくお願い致します……その応援が、めちゃくちゃ作者の励みになるので……


 それでは、また!







 

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