第11話 決行前!

 最後の作戦会議をするために集まった俺たちだったが……


「それで秋葉さん? だっけ? 楽とはどういう感じで付き合ったんですか? 俺に詳しく教えてくださいよ」

「私も詳しく知りたいなぁ。楽くん、先輩には色々と隠し事しそうだし」

「らっくんをどうやってたぶらかせたんですか!?」



「私、別に楽をたぶらかせたりしてないよ!?」



 新や高輪先輩、唯の三人が、俺の元カノの那奈に怒涛に質問するという予想された構図が、かれこれ十分ぐらい繰り広げられていた。まるで不祥事を起こした議員が、記者に質問攻めされているみたいだ。

 那奈は三人に質問攻めされて困っているようで、助けてくれという表情をして、俺にヘルプのサインを送ってくる。



「はいはいはい! 気になるのは分かるけど、まずは本題についてだ。この話は、渋谷先輩が解決した後とかにいくらでも話してやるから」


「そうだな」

「先輩もふざけすぎちゃった」

「らっくんが恋愛、ってなるとやっぱり気になっちゃって」



 俺の言葉で三人も少し反省したようで、真面目な表情に戻る。そうそう。俺たちは恋バナしに来たわけじゃないんだから。



「「「解決した後に、たっぷりと聞けるもんね」」」


 俺は、未来の俺に託して今まで生きてきたんだ。だから気にしないキニシナイ。頑張れよ、未来の俺。



◇◇◇



「楽がオタク同好会に上手く潜入できたこともあって、今のところは上手く計画が進行している。じゃ、改めて計画の流れを説明するぞ」



 新がそう言いながら、スマホで計画の流れをメモしたものをグループに共有する。



「まず俺が裏垢で、渋谷先輩の噂について拡散する。そうすることで、隠れていた渋谷先輩反発派も、何かと盛り上がるだろう。あとは影響力のある高輪先輩、それと秋葉さんもかな。二人には噂の信憑性を出してもらったり、拡散をお願いしたい」



 新が、計画について改めて順に説明していく。頭が切れる新、人気と影響力が大きい高輪先輩、男女ともに交友関係が広く、居酒屋で働いている那奈が協力してくれるからこそ、成り立つ戦法だ。俺と唯だけじゃ、どうにもならかっただろう。やっぱり交友関係って、大事なんだな。



「次に、噂が話題になってからの流れだ。楽が学生課に噂の件を報告した後、唯が渋谷先輩についての件を報告する。学生課は証拠がないため、すぐに対処することはできないが、渋谷先輩を要注意人物として認識するだろう。まぁここは、万が一の保険ってとこもある」



 おそらく噂はすぐに広まるし、大学としても由々しき事態なので、かなり効果は見込めるだろう。もし俺たちが何らかの危害を加えられたとしても、渋谷先輩が逃げられないようにするためでもある。



「最後に、ここで行われるオタク同好会の歓迎会で、渋谷先輩を完全に叩きのめす。俺を警戒してるらしく、誘ってきてくれたのは好都合だったな。楽と上野さんは誤魔化しながら証拠撮影、秋葉さんにはサポート役にまわってほしい」


「新くん、先輩は何すればいーいー?」


「あ、高輪先輩は家でゆっくりしててください。何か急にあったら、また連絡するかもですけど……歓迎会に参加するのは違和感ありすぎますし」


「むぅ~みんな頑張ってね……成功するように念送ってるから!」



 はい可愛い。高輪先輩、安定の癒し枠。流石天使。何か今日は唯に加えて、那奈からも冷たい視線がそそがれていますが、全然かまいません。



「こんな感じの計画でいくけど、楽はどう思う?」


「いいんじゃないか。何かイレギュラーなことが起きるかもしれないが……そこは臨機応変に対応していこう。那奈も、サポートの方をよろしく頼む」


「了解。急に連絡が来たからビックリしたけど、こんな大事とはねぇ……それに、まさか高輪先輩とまで仲良くなっているとはね。いつのまにか、女たらしになってるじゃん」


「誤解だ。ただ偶然仲良くなっただけだって」


「ふーん、ま、いいけど」



 元カノに追及されるのは慣れてねぇよ……まぁ元カレが、急に幼馴染を助けたい! って言って、その幼馴染と有名で美人な先輩連れてくるのが、意味不明な場面すぎるんだけどな。全然連絡もしてなかったくせに。



「楽、俺は仕切って本題を終わらせたぞ? 楽も詳しく聞かせてくれるんだよなぁ?」


「まぁ俺はいいけど……那奈はどうだ?」


「別にいいよ。皆気になってるみたいだし、仲良くなるのに隠し事はなしだよね」



 那奈からの許可も出たし、俺としてもここまで来て、何か色々と隠すのもムズムズするので、那奈との関係について、俺はゆっくりと話し始めた。



「那奈とは……まぁご存じの通りだけど、一年の前期の二ヶ月間ぐらいに付き合ってたよ。仲良くなって、流れでな」



 俺の言葉を受けてか、那奈も補足するように話し始める。



「楽とは結構話すようになって、友達かなぁぐらいの感じになってね。それぐらいの時、周りが大学生になって浮足立つようになってさ、私の友達も皆付き合い始めてね? 私も取り残されるのが嫌で、楽に告白したんだよ。そうして付き合い始めたの」


「何だよ那奈。そういう理由だったのか」


「でも別に嫌、とかさ、しょうがなく告白したわけじゃないよ? 楽は本当に印象良かったし、付き合うなら楽だなと思ったし。でも、それがダメだったんだよね」


「仲もいい感じだったし、俺も最初は楽しかったよ。けど、恋愛経験とか、お互いの価値観の違いとか、趣味の違いとか……色々なことが噛み合わなくて、徐々にズレていって……自然消滅したみたいな感じかな。過去の事だし、もう気にしてはないけどさ」


「あの頃はさ、私も悪かったよ。改めてごめんね、楽」



 俺と那奈は恋人関係になったからこそ、また色々と違う景色が見えて、上手くいかなかった。そこの壁を乗り越える者もいれば、別れてから気づく者もいるし、一生気づかない者もいる。恋愛は、楽しくもあり、美しくもあり、難しくもある。なんて、毒なんだろう。



「でも、こうして楽と秋葉さんは再会したわけだろ? また仲良くすればいいんじゃねーの? 別によりを戻すとかじゃなくてさ。お互いに分かり合おうとすれば、関係もまた変化するだろ」


「新って、本当に優しいよな。俺、お前と仲良くなれて良かったわ」


「……別に、俺は思ったことを言ったまでだ」



 新は、俺の求めている言葉や率直な意見をいつもストレートに言ってくれる。つくづく、俺は周りの人に恵まれている。



「楽はさ、私とまた仲良くしてくれる?」


「俺なんかでよければ、もちろん。那奈が良ければ、俺は何も言うことはないよ」


「楽、ありがとね」



 こうして那奈とも仲直りできて、よかったよかった……と安堵していると、蚊帳の外にいた女の子が二人。



「楽くんと仲良くするには、まず先輩の私を倒さないとね!」

「昔のらっくんを知っているのは、私だけだから!」



 いや何を張り合ってるんですかあなたたち? 何でそんな二人ともドヤ顔なの? 唯はまだしも、高輪先輩も知り合ったばっかりだよね?



「はははははっ! モテモテでさぞ羨ましいこった。楽も徐々に大学生っぽくなってきたなぁ!」


「何で新はそんなに楽しそうなんだよ。褒めたの、間違いだったわ」



 徐々に俺の大学生活は、変わりつつあった。こんな楽しい日常、クソ野郎に壊されてたまるか、ってな。


 



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