第8話 作戦会議
俺と新、唯と高輪先輩の四人は、ゼミスペースに集まっていた。ある程度広く、ホワイトボードも使えるという理由で、満場一致でここに決定した。
今日は、渋谷先輩率いるオタク同好会を潰す本会議だ。新が主導となって、皆で作戦を詰めていくといった流れを予定している。
「ご存じだと思いますが.改めて……仮のリーダーの宿毛 新です。名字で呼ばれるの嫌いなんで、名前で呼んでください。あと、楽はブレーン役な。いや、裏ボスか? それとも、暗躍者とか? そもそも、俺より楽の方がリーダーだと思うんだが」
「俺をどうするつもりなんだよ。頭脳担当は新で充分だし、俺がリーダーっていうのもなぁ」
「そんな事ないぜ? 楽も考えがこり固まっている時もあるが、かなり優秀だと思うぞ。ま、楽は表立つより、裏で努力する奴だからこのままでいっか」
何か自分より上の奴に言われても、あんま嬉しくないな……
「そうだよ。らっくんは凄いもん」
「そうそう。楽くんはさ、本当に凄いもんね」
このグループの女子二名から物凄い援護射撃が飛んできたのを楽しみながら、新は会議を進めていく。やめてくれ! 俺を公開処刑しないでくれ!
「作戦を考えるにあたってだが、かなり難しいな。できる限り渋谷先輩に近づく事や、渋谷先輩が全く知らない奴を仲間に加えられたら良いんだが……」
新が色々と考える中で呟いたのは、証拠を掴むことと、渋谷先輩が認知していない人を仲間に入れることの二点だった。この二つが達成できれば、かなり優位に立てるという。
「でも、渋谷先輩に脅される危険があるし……証拠はなかなか難しいよね」
唯が経験を交えながら、改めてかなり難しいんじゃないか? と自分の気持ちを吐露する。
唯の言う通りであり、渋谷先輩の統率力と情報統制は見事なものである。
「そうだよなぁ。実際に悪い事をするというシチュエーションを作るしかないか。難しいなぁ」
新がこれはリスクが大きい、とかこれじゃ弱い、とかで行き詰っている中、俺はシンプルな案を一つ思いついた。
「なぁ新。俺がオタク同好会に入れば良いんじゃないか?」
「何言ってんだよ楽。いや、待てよ……?」
そう、この案にはエビデンスもしっかりとある。それに俺の事をモブだと思って、渋谷先輩は警戒していない。
「渋谷先輩が話しかけてきた、という点で動機はクリア。俺の事はあまり目に入っていないから、新をより警戒して俺は自由に動けるし、唯を短い期間なら守る事も出来る。それに証拠を撮影出来たら、ラッキー」
「ありすぎるな。これはでかいぞ。やっぱ、楽も頭が切れるんだよなぁ。大体悪い事の時だけど」
「うるせぇ新。お前も似たようなものじゃねぇか」
俺と新がお互いを認めつつ話していると、唯が不安そうな目で俺を見ていたのに気が付いた。
確かに、リスクを減らせたとはいっても、完全にリスクがないわけじゃない。
「大丈夫。慎重に行動するし、二人でいる方が安心するだろ?」
今はこうして気休め程度の声しかかけられないが、唯は少し安心した表情に変わる。ここまで一人で頑張ってきたんだ、と思うと色々な感情があふれ出てくる。
「俺は警戒されているから、ここは楽に任せてと。じゃあ、俺はネットを活用するわ」
「ネットって言っても、どう使うんだ?」
いまいち新の考えている意図が分からず、俺は新に問いかける。
「この渋谷先輩の噂を、裏垢や掲示板で拡散するのさ。これで少しは事を大きく出来るだろ」
「なるほどな。新のその案に、高輪先輩が活きてくるのか」
「ご明察」
高輪先輩はまだ何が何だか分かっていない様子だが、それはそれで可愛いので良しとする。一生そのままでいてくださいね、高輪先輩。
多少唯に睨まれている気もするが、ここもスルーして、俺は新の案の考えを説明する。
「高輪先輩の人気と知名度は大きなものです。噂が大きくなった時、必ず会話の話題に出るでしょう。その時に先輩が、渋谷先輩に言い寄られたとか嫌な感じに思っている事を言えば、どうなると思いますか?」
俺が説明すると、高輪先輩や唯もこの考えの意図に気づいたようだった。
火のない所に煙は立たぬ、という言葉もある。噂を流すことで不穏な空気にし、高輪先輩の証言で本当かもしれない、と大多数の人に思わせるという作戦だ。
加えて、元から渋谷先輩を嫌っている人たちにも効果がある。このように混沌とした空気にする事が、新の一番の狙いだ。
「あとは、普通に大人の力を使う事だな。楽が学生課に渋谷先輩の噂の投稿について連絡し、その後に上野さんが、学生課に渋谷先輩の件を相談する。もちろん匿名でお願いしてな。楽なら、もうお分かりだろ?」
「噂の信憑性が上がり、大人も渋谷先輩の良い学生の印象を少し改めるよな。それに、混沌としている空気になってるからこそ、唯も安全だ。誰がリークしたか、分からない状況になるしな」
「そうそう。渋谷先輩を倒しても、報復されたら台無しだからな」
新もまたずる賢い手を考えるな。それがこいつの良いところであり、人生を上手く楽しんでいる要因なんだろうが……
それから会議はだいぶ進み、もう計画もかなり固まってきたが、まだ大きな懸念点が残っていた。俺と新は、このまま計画を実行するかどうかで話し合うが、なかなかまとまらない。
「楽がこのままでも安心、というのは分かる。けど、相手は渋谷先輩。減らせるリスクは、最大限に減らしたいんだよ」
残っていた大きな懸念点は、計画を実行したときの事だ。どうすればリスクを最大限に減らして計画を実行できるか、新は悩んでいた。
計画を実行する際で、もしイレギュラーな事が起きれば、全て台無しになる。渋谷先輩も頭が切れるし、俺らの上を行く可能性もある、と新は考えているらしい。
実は少し前から一つ案が浮かんでいるんだが、少し俺にとって言いづらいので、言うか悩んでいた。
ただそれでは唯が助けられないかもしれないし、俺は意を決して言う事にした。
「新が言う、リスクを最大限に減らす方法が一つあるんだけどさ……」
「なんだよ楽。何か思いついたか?」
「歓迎会で使った、よく使う居酒屋あるじゃん? あそこで飲み会をセッティングするのはどう? 俺がサークルに入った歓迎会的な」
「それはできそうだけど、何であの居酒屋なんだ? まぁ人通りも多いし、良い案ではあるが」
「新がさっき言っていたさ、渋谷先輩がまだ認知していない人がいるというか……
「
ただの知り合いよりは、関係が深いというか何というか……色々と複雑で難しいというか何というか。
「そういえば、らっくんが歓迎会来た時も何か周りも気にしていた気がする!」
「楽くんとこの前食べに行った時も、周りを気にしていたよね?」
新の他に高輪先輩と唯も気づいたようで、俺を問い詰めてくる。
やっぱり、あの時も誤魔化しきれてなかったか。自分自身でも、少し挙動不審になった自覚があるぐらいだしな。
「楽、高輪先輩と食事したって、俺は聞いてないぞ?」
「あ~そう言う事。らっくん、年上好きそうだもんね」
別の事で何か問題が起きているが、ここは新や唯を無視しても良い。これから俺が言う事で、話題が上書きされるからである。
「あ~実はあの居酒屋、俺の元カノがバイトで働いているんだよね」
「「「え……えぇぇぇぇええええええええぇえええええええええええええええええ!?」」」
俺が少し軽い感じで言ったのも無駄だったようで、新と唯と高輪先輩の三人は、めちゃくちゃ迷惑になるレベルの声量で、めちゃくちゃ叫んだのであった。
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