第7話 二人で
俺は高輪先輩のアドバイスを受けて、休日にどこか出かけないか、と唯にスマホでメッセージを送った。連絡先はこの前のゼミで交換していたので、スムーズに話も進み、映画を観に行くことになった。
最初に渋谷先輩の事を話題に出さなかったのは、唯が警戒しない為である。俺と同じように、一人で抱え込もうとして誘いを断る可能性もあるからな。
てか、形はどうであれ……これってデートなのでは? というか、高輪先輩と二人で食事してたのやばくね?
新にちょっと話したら、めちゃくちゃ楽しそうに弄ってきたし。それどころじゃない、っての。
こうして、休日に電車で広島駅に集合した俺と唯は、そのまま在来線に乗り継いで映画館に向かう。
広島には、俺の地元の香川とは比べ物にならないぐらい大きな映画館もあって、非常にオタクとしてはテンションが上がる。
「らっくん、今日はありがとね」
「いやいや。今年はアニメ映画の神年だし、どうせなら一緒に観た方が楽しいだろ?」
まぁ映画は口実なんだけどな、と思いつつ、電車が映画館の最寄りの駅についたので、駅の階段を下りて歩いて映画館に向かう。
「急に誘うんだもん。私、びっくりしちゃったよ」
「悪い悪い、久しぶりに再会したんだから、別にいいだろ」
「そうだね。前のゼミは、本当にビックリしたよね……」
そう楽しそうに話しながらも、俺の目にはどこか無理をしている様子の唯が映る。
今度は俺が救う番だよな、と俺は強く思った。
◇◇◇
「らっくん、どうだった?」
「やっぱり神アニメですわ。マジ神。天上天下、唯我独尊!」
「私も今回のは興奮したなぁ。大きい伏線も回収されたしね」
「SNSの評判通りだったな」
俺と唯は、たっぷりと二時間の映画を満喫し、感想を言いながら映画館を出る。
最近は一人で配信で観る、という人も多いだろう。だが、映画館と自宅とかでは迫力が段違いだ。
それに、こうして誰かときていると、終わった後にすぐ感想を話せるのが良いのだ。何気に映画が始まる前の予告を観るのも、好きなんだよな。
ちなみに今回観たのは、毎年の映画が恒例となっている、大人気ミステリー漫画が原作のアニメである。今回の映画は例年よりも評判が良く、特に観に行きたいと思っていた。
他にも候補はあったのだが、男性向けだと唯が楽しめない可能性もあるし、ラブコメだと何か気まずくなるという脳内シミュレーションのもと、この映画を選んだ。
映画効果でかなり唯も明るくなったので、ここからは俺のターンだ。俺も映画で観た主人公のように、カッコ良くありたいものだな、と思う。
「唯、今日は楽しめたか?」
「うん。らっくんのおかげで、本当に楽しかったよ」
「じゃあ、そんな顔すんなよ。まるで、転校を隠そうとしたあの頃みたいだぜ」
俺はそう言いながら、唯の手首をつかむ。唯は多少動揺したものの、
「らっくん? 一体どうしたの?」
すぐに明るい表情を作って誤魔化す。そういうところ、昔から変わっていないな。
高輪先輩の言った通り、俺たちは似てるのかもしれない。
人間に同じタイプの人はいない。百人いれば、百通りの人間が存在する。
でも同じ人間でもあるので、似ている部分もある。性格に限らず、声や顔とかが似ている人だっている。
俺と唯は、一人で色々と抱え込んで苦しむタイプだろう。不安、恐怖、どう思われるか……考えすぎと周りに言われるほど、考え込んでしまう。意外と人間は、似たり寄ったりなのだ。
だから俺は、先輩を参考にして救いの手を差し伸べる。
「唯が悩んでるの、渋谷先輩の事だろ?」
「……っ、渋谷先輩とは何もないよ。良い人そうに見えるでしょ?」
「まっ、良い人そうには見えるな。ははは」
もっと周りを頼っていい、俺は、そう先輩に教わったから。
「俺にも背負わせてくれよ、その重荷。俺たちは、大事な仲間だろ?」
俺がそう言うと、唯は今にも泣きだしそうな顔で、俺を真っ直ぐ見て
「私、らっくんに頼ってもいいのかな。大切な人に迷惑かけても、いいのかなぁっ!」
と大きく叫ぶ。高輪先輩が、俺の事を真面目でお人好しと言っていたけど、その理由が少し分かった気がした。
全く、俺も唯も不器用すぎじゃないかってね。新なら、もっと上手くやれたんだろうか?
「大丈夫だよ。俺も唯の事は大切だしな」
俺がそう言うと、唯は昔の時のように俺の胸に身体を預けて、しばらく泣き続けた。
周りの通行人の目も気にしないで、子供のように――
◇◇◇
「唯、泣き止んだか?」
映画館近くのカフェに避難した俺と唯は、アイスコーヒーを飲みながら少し落ち着いていた。
唯があまりにも泣いたことによって、俺が唯に変な事をした、とかそもそも不審者では? と変な声が大きくなって、俺は急いで近くのカフェに避難したのであった。なんか警察呼ばれそうになってたし……
「あ、あのごめんね?」
今度はゆでだこのように赤くなっている唯が、恥ずかしながらに謝ってくる。色々と冷静になった今では、めちゃくちゃ恥ずかしくなってるみたいだ。
まぁ……それは俺も一緒なんだけど。映画の影響か、何だか俺もイケメン主人公気分になっていたし、できることなら時を戻したい。
「ま、まぁそれはしょうがないとして。本題に戻そう」
俺はこの恥ずかしい事をあまり考えたくないので、さっさと本題に移ろうとする。
強敵である渋谷先輩を、どう倒すのか。
「そ、そうだね。私はある日、渋谷先輩に話し掛けられてオタク同好会に入ったの。けど、そこは全然オタク同好会ではなくて。渋谷先輩たちが好き勝手にやっている、いわゆる無法地帯だったの」
唯も真剣な表情に戻り、過去をさかのぼって、ことの経緯を話してくれる。
アニメも好きで話し掛けられたのが渋谷先輩となると、同好会に入るのは自然な流れだ。
「それから距離を取ってたんだけど、サークルを辞めるに辞められなくて。部長である渋谷先輩に話をして了承をもらわないといけないし、渋谷先輩は部員を管理していたからね」
信頼できる仲間に、自分が気に入った女の子、同じクズ友達……といったところだろうか。
少し調べた感じだと、オタク同好会としては人も多く、渋谷先輩の力の巨大さと異様さを感じた。
「渋谷先輩は慎重に色々な女の子に手を出しながら、今は私の順番が回ってきた感じ。かなり酷い事をされて、立ち直れなくなった子もいたって聞く……」
渋谷先輩は色々な女の子と遊びながら、復讐されないように完全にメンタルを折っていたらしい。最初に渋谷先輩が手を出し、飽きたら仲間たちに渡すという何とも酷いやり方で。
「で、でも本当に大丈夫? あのサークルは、手を出しちゃいけないんだよ」
まさしく大学のサークルの域を超えて、犯罪集団のようになっているオタク同好会。渋谷先輩について、唯を傷つけたこと、オタクというのを悪用している事……全てに腹が立つ。
「俺の親友の新と、この前歓迎会で会った高輪先輩も協力してくれるみたいだ。唯もあと少し、我慢してくれ。完璧な計画を立てて、渋谷先輩を倒す」
「……そういやらっくんってさ、高輪先輩と何か良い雰囲気になってたよね?」
あれ、今度は唯の表情が何だか怖くなってるんだが? 何か浮気者みたいな目してるし、めちゃくちゃ怖いんだが? てか感情の動き激しすぎるだろ。今日、色々オーバーヒートしちゃうよ?
「いや、まぁ、あの、なんだ。色々とアドバイスもらってな」
すると唯が何か閃いたような表情をする。まさしく、今日観た映画の主人公のように。
「ははーん。高輪先輩に優しくされて、アドバイス貰って。それで、今日誘ったんだね?」
「あ、はい……」
この時の唯は、渋谷先輩と同じぐらいの狂気を感じました。女の子には、絶対服従! 隠し事、絶対ダメ!
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