【番外編 完】 ゆうこさんの訃報② ゆうこさんの娘 真夜ちゃん
【沙織 視点】
次の日の午後、私と実乃里さん・南ちゃんがパパたちと合流したときには、ゆうこさんは既に荼毘に付されていて、精進落としが行われていた。
大学からは主に九州を生活の拠点としていたゆうこさん。
横浜の高校時代の友人として荼毘に付き添っていたのは、パパたちだけだった。
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?「この度は…遠いところを…母の…ために…」
思わず息を飲んだ。実乃里さんや南ちゃんも驚愕の表情をしている。
パパや妹ちゃん、成井さんたちが平然としているのは…既にその段階を超えてしまっているからなのだろうか。
精進落としの宴席…わたしたちの前に挨拶に現れたその人は…
真夜「本日、母、錦野ゆうこの喪主を勤めさせていただきました『
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「…妹ちゃん…」
五月「!義姉さん、遠いところをお疲れ様です!」
パパと実乃里さん・南ちゃんが、真夜さんのところへ。
どうしても…どうしても気になったわたしは、成井さんご夫婦と歓談中の
意を決して話しかけた私に、妹ちゃんが笑顔を見せる。彼女も横浜を離れる前からすると大分落ち着いた雰囲気になっていた。
五月「お兄ってば、義姉さんの参加を途中から認めるなら、最初から付き添いを頼めば良いのに」
「…」
五月「…なんてね、兄の気持ちもわかるんですよ…少なくとも昨日はお兄…凄い顔していたから…義姉さんにはそんな顔を見せたく無かったんでしょうね」
「…あたしは!…見たかったかも」
五月「あはっ!でも見られるほうも辛いんですよ?…あたし、しばらくは
妹ちゃんにとってのゆうこさんは、一時は寝食までも共にした本当の姉に等しい存在だったと聞く。
その想いは…いかほどのものだったのか。
…でも、今は…もう一つの!
「…妹ちゃん、真夜さんって」
五月「ああ!錦野真夜さんですね。こんなときに何ですが、しっかりされたお嬢さんですよね」
「ええ…本当に」
五月「ゆう姉、大学時代に真夜さんを妊娠したみたいですね。お兄が大学三回生・ゆう姉が大学二回生の冬に「『大切なひとが出来た』って手紙が九州のゆうこちゃんから届いた」ってお兄から聞いていたから…その直後なのかな。真夜さん、若く見えるけど30代の筈ですよ?」
「それであんなしっかりした…」
五月「数え年で35歳と書いてありましたので、今は34歳なのかな。保育士さんをやられているとか…初めてお会いした際はびっくりしたんですよ!…本当にゆう姉が若返って現れたのかと」
「!…違がっ!!」
五月「?義姉さん?」
「いえ…ごめんなさい…」
いや…妹ちゃんやパパにはそう見えるのかも知れない。
だって、あたしは!…ゆうこさんの若い頃を…知らない。
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実乃里「沙織さん…」
南「…おねーさん」
ふと、パパのそばでパパたちのお話に耳を傾けていた実乃里さんから目配せを受けたような気がして…あたしはお座敷を離れた。会場にはお誂え向きの小さな空き部屋があって…あたしたち三人は。
実乃里「…沙織さん、驚きました…」
南「…あたしも…」
「…」
南「実乃里ちゃんとも確認しました。錦野真夜さんは…おにーさんにとても似ています!」
「…やっぱり…」
そうなんだ!
あたしには…生前のゆうこさんを知らないあたしたちには…真夜さんはパパそっくりに見えたんだ。
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五月「…それって…真夜さんが、お兄の子供じゃないかって…こと?」
「…うん」
五月「…そんな…おかしいよ…」
妹ちゃんにも入って貰って…あたしたちは真夜さんへの違和感を
五月「…だって…お兄はあの頃九州には行っていない。それは実乃里ちゃん…あなたが一番分かっている筈…あの頃お兄は…あなたを本当に大切にしていた…」
実乃里「…うん…覚えてる。クリスマスの前…先生が『あはは…やっぱり…振られちゃったよ』って。ごめんなさい…わたしは嬉しくて嬉しくて…クリスマスイブの夜…わたしはわたしの全てを先生に捧げた」
「数え年から真夜さんが34歳ならば、一番可能性があるのはその頃ゆうこさんに新しく出来た彼氏との子供…」
五月「お兄も成井さんたちも、昨日はそう思って話していた…あたしも…だってそれくらい、彼女はゆう姉に似て見えたんだ」
実乃里「五月ちゃん、聞いて貰えるかな?あの頃一度だけ不思議なことがあったんだ」
五月「…うん、聞くよ。何があったの?」
実乃里「…わたしが先生の家庭教師を受け始めたのは中学三年生の春…一目惚れだった。でもね、始まって間も無く…先生が女性の匂いを纏ってきたことがあったの」
「…女性の匂いって」
南「おねーさん、実乃里ちゃんは物凄く匂いに敏感だったの」
実乃里「後にも先にも一度だけ。焦ったわたしは先生を問いただしちゃって、『浮気に気付いた彼女みたいな言い方すんな!』と言われてしまって」
「…」
実乃里「…今ならはっきり分かる。あれば本当に時間を掛けた生セ⚪クスの…」
五月「実乃里ちゃん、その日付…覚えてる?」
実乃里「覚えてる…あの家庭教師の日は、4月21日」
五月「…ゆう姉だ…」
「…」
五月「あの日二人は、幡ヶ谷のマンションで身体を合わせて…いたんだ…でも…それなら尚更…なんで!?なんでお兄を拒絶したの?ゆう姉…」
南「ねえ、
五月「…子供を授かったゆう姉は一人で育てることを決意した。お兄の結婚を知ったゆう姉は、シングルマザーてあることが万が一にもお兄に伝わらないように姿をくらました…」
「…数え年は…」
実乃里「…真夜さんが…早生まれなら…もう35歳。つじつまは…合うわ」
五月「…ゆう姉の…バカッ!!」
でも…この推察をパパに伝える勇気は…誰も持ち合わせていなかったんだ。
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―
精進落としの終わりが近づいていた。
喪主である真夜さんの最後の挨拶がもうすぐ。
三月「真夜ちゃんを誘ったんだ。横浜に出てこないか…とね」
「…え?」
三月「もちろん彼女の思い出は九州にあるのだから…無理にとは言えないんだけど…それでもお母さんの思い出の地に来てみないかって」
「…」
三月「彼女…前向きに考えてみるって」
「…そう」
三月「彼女が来たら、俺は真夜ちゃんを優たちと同じように…自分の子供のように接したい…良いかな」
「…いいよ」
三月「…沙織」
「…あたしも…手伝う!」
三月「…ありがとう、沙織」
宴の終わりに、真夜さんが再びこちらに。
真夜「皆さま、本日は母のためにありがとうございました。落ち着いたら私、横浜に行きたいと思います。どうか宜しくお願いいたします」
三月「そうか!」
成井「歓迎するよ!…なあ桂木」
三月「ああ!みんなで行ってみないか?…思い出の放送室に」
みなが満面の笑みでうなず中、いよいよ喪主の挨拶の直前、パパが真夜さんに話しかけた。
三月「ところで真夜ちゃん。君の誕生日は…1月かい?」
「「「「「……!!」」」」」
真夜「はい!よく分かりましたね。私の誕生日は1月17日ですよ」
気付いていた…多分パパは全て気付いて…
三月「真夜ちゃん、俺も成井も五月も全力で君をサポートする。安心しておいで!」
真夜「はい!…横浜の…おとうさん…」
そう言って離れていく真夜さんを見つめるパパの瞳は…慈愛に満ちて…いたんだ。
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