【番外編③】 ゆうこさんの訃報①

【沙織 目線】


錦野ゆうこさんの訃報が入ってきたのは、夏の暑さが少しだけ柔いだ9月の中旬。

さつきちゃん、50歳の誕生日の直後だった。

状況が何も分からないまま、主人パパさつきちゃんには正太郎おとうとくんが寄り添って、それにパパの高校時代からの親友である成井夫妻が九州に向かい…私たちは連絡を待っている。


「「かあさん…」」

秀世「お義母さま…」


家には、優と三里亜の兄妹。それに優の嫁ちゃんの秀世ちゃん、三里亜の親友の明美ちゃん、そして…両親が九州に向かってしまった和也いとこくん夫婦がこちらに向かっているという。

そして…もう一人。


実乃里「沙織さん…」

「実乃里さん…心強いわ」


実乃里「…いえ…私なんか何も」


たまたま、ヨーロッパから帰国していた実乃里さんが、渡欧予定を未定にして残ってくれていた。

そして…南ちゃんもこちらに向かってくれている。

わたしは…わたしたちは幸せものだ。


優「…あんな五月おばさんは…初めてみた…」


妹ちゃんは泣いていた。泣いて泣いて…あまりの状況に正太郎くんは妹ちゃんのそばを離れることが出来なくなった。

そして…パパは…


「あたしも付き添うからっ!」という我が決意はやんわりと…でも有無を言わせぬ強さで断られてしまった。


「親父!その言い方は…」言いかけた言葉を優が思わず引っ込めてしまうくらいに…パパの表情は見たことの無いもので…心配した子供たちがあたしに寄り添ってくれるなか、あたしたちは…パパたちの連絡を待っている。



実乃里「わたしは…錦野ゆうこさんのことを少しだけ先生から聞いたことがあります」


三里亜の実母である実乃里さんは、時が経った今でも三月パパさんのことを先生と呼ぶ。

その信頼に満ちた口調は…彼女が初めてをパパに捧げた中学三年生の頃から変わらないのだろう。


「錦野ゆうこさん…パパと妹ちゃんの恩人だと聞いているけれど」

実乃里「…命の恩人だと先生は話されてました。親友で…誰よりも優先するのだと」

「…」


実乃里「…実は…初めて先生に告白した際には…私は断られているのです。『ゆうこちゃんの返事待ちだから』って」

「…」


実乃里さんの昔の写真を南ちゃんに見せて貰ったことがある。

…信じられないような…美少女だった。

そんな彼女を袖にしてでも…パパはゆうこさんとの約束を守りたかったんだ。


私たちは知らない…錦野ゆうこさんのことを何も…知らない…



「…お通夜が終わったそうよ…」


待ちに待ったパパからの連絡…


「…死因は乳ガン。発覚時はステージⅢ、でも」

和也「…転移したんですね…」

「…」


「…それと…パパがやっと承諾してくれたわ。明日の朝一の飛行機で、あたしは九州に向かいます。告別式は間に合わないけれど」

実乃里「…わたしも行って良いですか?」

南「おねーさん…わたしも!」

「…ええ、一緒に行きましょう。わたしたちの知らないパパとゆうこさんを探しに!!」



この話は、時系列としては

「おれの嫁は高校一年生の箱入り娘」

https://kakuyomu.jp/works/16818093082453176757

の約一年後になります。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る