第3話 いや…嘘電番号かと思ってた

秋男「三月!お前、速見の何が不満なんだ!?」


久しぶりの悪友の秋男とのサシ飲み…怒ってるなあ。

社員総代の夜の席、楽しかったのか速見さんは連絡先の交換に応じてくれたんだけど。


秋男「あれから二ヶ月以上、ただの一度も連絡を入れてないってのは、どういう了見なんだ。速見、落ち込んで泣いてるぞ」

「……嘘だね」

秋男「…嘘だよ。良く分かったな」


速見沙織ちゃんは大卒入社二年目だった。だからストレートに来たとしても最低今年度中には24歳にはなるはず。

「(全くそうは見えないんだけど)」


秋男曰く、本社営業部初めての女性キャリアの肩書きは伊達ではなく、ペラッペラの英語力を武器に今まで手付かずだった外資系企業相手に太いルートを構築…二年目にして部下三人を抱える女傑とのこと。

……そんな女がこんなことで泣くもんか!


秋男「落ち込んでいたのは本当だぞ?女に関しては鬼のように手が速い桂木さんが何やってるやら」

こいつには言われたくないなあ……それと

「いや…実は結構電話してるんだけどね」

秋男「何時に掛けた?あの残業バカは早い時間は繋がらないって伝えたよな」

「だけどさ…夜22時を越えると、流石に初対面に近い妙齢の女性には電話しにくいよ」

秋男「……」

「それにさ、彼女んとこ全然留守番電話にならないんだよね。着信自体認識して貰ってるやら」

秋男「…そうなの?」

「土日は俺のほうに余裕が無いのは知ってるだろ?会社から掛ける訳にもいかないしさ」

秋男「…う~ん」

「正直、ちょっとお手上げでさ…しまいにはあれ嘘番号じゃないかと疑ってた」

秋男「それは無いと思うぞ?あいつ結構お前のこと気に入ってたみたいだし。あの夜も相当面白かったみたいだぞ」

「ははっ、それは光栄だ」


秋男「……どうした?三月、何があった?」

秋男が口調を変えてきた。こいつとの付き合いは大学時代にまで遡る。相変わらず人の心の機微に聡い。

「やっとなんだよな」

秋男「何が?」

「やっとさ…女と一緒に飯食っても吐かなくなったんだ」

秋男「…それって社員総代の」

「…直後だったんだよなあ、あの事件」

「まだ治ってないのかお前」

秋男と俺は、最近までホストと言うか…有閑マダム相手のデートクラブスタッフをやっていた。

あれで奥様を満足させる裏稼業。

こういうものは、事前調査でスタッフとお客に接点が全く無いことを予め確認するんだけど…このときはそれが怠られていて、あろうことかそのときの奥様は高校の先輩…それも俺の初体験の相手…

年の離れたご主人にその場で俺からのSM調教を強要された彼女は錯乱したまま精神を病んでしまい…その業の深さは俺に酷いトラウマを植え付けたんだ。

一時はスーパーの女性パートさんが触れた惣菜でも吐いていた。女性に近寄れなくなっていたんだ。


秋男「オーナーが死ぬほど気にしていたよ」

「…結局、逃げるようにクラブを辞めちゃったからなあ」

秋男「お前人気あったからなあ。でもまあ潮時だったかもな。お互い表の仕事も忙しくなってるし…で?トラウマが残った三月さんは速見のことは諦めるのか?」

「…やだ」

秋男「あっそう(笑)…作戦は?」

「お前に任せた」

秋男「また頭脳労働は丸投げかよ…ほれ!」

「…オーケストラのチラシ?」


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