プラスチックの夜

押見げばげば

プラスチックの夜

春遅々と羊の肉が噛みきれぬ


鳥雲に入る帆のいろの薬包紙


蛇出づやすつからかんの昇降機


花冷や遺失届にわが名記す


われに背を向く逃水のマリア像


都合よき人になりたし薔薇を剪る


薄荷飴みたいな夕べ夏の鴨


清貧譚繰る金魚みな生きいそぐ


洗ひ髪にほふ斎場でありにけり


夏果てのビデオテープの爪折りぬ


陰口の町にましろき明けの月


兄のゐぬ部屋に聲なき虫籠かな


約束はときに醜し檸檬切る


希死の波さしづめ月に濡れてゐる


閻王のうしろを歩く花野かな


ピアノ弾く指に冬の蚊潰しけり


眠れぬ眠れぬセーターの毛玉摘む


プラスチックみたいな夜ね手套脱ぐ


狐火や便箋に切るくすり指


ひとを赦すやうに雪踏む夜の駅

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プラスチックの夜 押見げばげば @gebageba0524

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