悠_ユウ



俺は1人だった。



___悠6歳。


俺は親に捨てられた。

自分の親ながらろくでもなかったんだと思う。


出て行けと言われ、俺は行く当てもなく家を出た。

数日間食べるものもなく、まだ寝れる様な場所を探し放浪していた。

行き交う人を眺めながら、あー、俺はもうきっとダメなんだな。なんてことを思いながら瞼を閉じる。



 

「おい、あんた!おい、聞こえるか?」

肩を揺すられ誰かの声がする。

目を少し開くとボヤッと銀朱色の髪。

声は少し低めの女の声。


「あ、意識はあるみたいだね。影!手伝っておくれ!」

「はい!」


すると体が少し軽くなって不思議な感覚に陥る。


「先にそのまま病院へ連れて行ってくれ。私はすぐ追いかける。頼むよ。」

「お任せください!」


そんな会話を聞きながら、再び瞼が閉じた。



再び目を覚ますと知らない天井。

何があったのかをまだ頭の重い中思い出す。

 

「誰かに病院に連れてかれて……ここは、病院?ではないよな……」


襖がが開く。

「あ、起きたんだ!」

そこにいたのは俺と同じくらいの子供。

先程もうろうとしてる中聞こえた声同じと気づく。


「身体はどうだ?」

「……少しだるいが、大丈夫。」

「そうか、良かった!医者が安静にしてよく食べればじきに元気になるといっていたから、心配ないぞ!」


「あの……ここは?」


「急に知らないところに連れてこられてびっくりするよな!ここは、加賀美亭っていうお茶屋だ!俺もここで世話になってる!あ、名前がまだだったな、俺は御影!お前は?」

「……悠」

「悠か、よろしくな!お腹空いたろ!何か食べ物を持ってくる!あと環さんにも起きた事伝えねぇーと!ちょっと待ってろ!」


ドタバタと出ていく御影というやつ。

御影にお腹の心配をされ、自分が凄く空腹な事を思い出す。


少しすると、入るぞと、襖の前から声がした。

襖が再び開き、綺麗な女が入ってきた。

「顔色が良くなって良かった。私はここの主人の環という。影から聞いた、お前は悠と言うんだな。」

 

「……えっと……助けてくれてありがとうございます。」


「お礼が言えるのか、偉いじゃないかい!」

そう環は俺の髪をぐしゃっと豪快に撫でた。


「……悠。帰る家はあるのかい?」

環の声のトーンが少し優しく低くなる。


ない。ということを言葉にすると胸が痛くなり、口からでずに俺は横に首を振ることしか出来なかった。


「そうかい。……分かった。困ってるんならうちに世話になると良い。影、今日からお前の子分さ。」

 

「!!!!子分!?……悠が、俺の……!」


勝手に進む話に頭がついていかなくて目を見開いていた。


「異論はないな?」

そう得意げに、けれども目は優しく環は俺に言ってきた。


「……ここに、いてもいいのか?」


「もちろんだ。今日からここがお前の家だ。ただし!働かざる者食うべからず!……元気になったら、きっちり手伝って貰うからな!分からない事があれば、この影に聞くと良い。」


「なんでも聞いてくれてよな!」


俺がいて良い場所。

心が少し暖かくなる。

久しぶりに人の温かさに触れた様な気がした。


その後、環は仕事に戻り御影が持ってきてくれたお粥を食べながら御影とたわいも無い話をしていた。




数日間経ち、俺はとても元気になった。

加賀美亭の手伝いを御影に教えてもらっているのだが…


「なんだ……この過労働は……ハァハァ」

「なんだ?もうへばってるのか?割と悠は根性なしなんだな!」

 

あはっじゃねぇーよ!お前がおかしいんだよ!

頭の中で御影に言い返しながら、"根性なしなんだな!"の言葉に燃え、俺はひたすら働いた。


御影は浮遊の魔法をつかえるらしく、俺が大変に思う仕事も簡単にこなす。

「魔力つかえるってどんなんなの。」

「ん?これ?…………うーん。そうだなー。俺の浮遊は操る物が自分の一部になる様なもんかな?悠は魔力ないの?」

「魔力なんて気にしたこともない。急に現れるもんなの?」

「俺は気づいたら物浮かせてたから、なんとも。」

「ふーーん。」

「悠も魔力ほしいの?」

「わかんね。けど、あったら良いなとは思う。自分だけで生きていける力が欲しい。」

「…………力ねー。俺は赤子の時に親に捨てられて、お前と同じく環さんに拾われた人間だ。……お前も、きっとそんなんだろ?」

「……あぁ。」

「だよなー。何となく同じよしみってやつ?悠とは同じ様な気がしたんだ俺!だから悠は弟見たいで可愛いや!」


俺からすると御影はいつも明るくおれの前を歩いてて、少しかっこいい存在だった。

そんな御影に、同じ様な気がしたと言われて少し嬉しかった。血の繋がらない言葉だけの兄弟も悪くない様な気がした。

 

「御影の弟なんて絶対ごめんだね!!」


そんなガキながらの照れ隠しをしながら俺たちは肩を組み笑い合った。



加賀美亭で世話になって少しなれてきた頃、環に良く会いにくる女が、子供を連れてきた日があった。


「悠!ちょっとおいで!」

環からお呼びがくる。


「あら、この子が例の悠くん?可愛い顔して将来有望じゃない!」

「中身はいつまでたってもクソガキさ。」


そんな環の言葉にむっとする。


「悠、こいつは三葉、私の友人だ。そんで、その後ろに隠れてるのが杠葉だ。お前と同じ歳の子だ。」


慣れない同年代の女に俺は少し動揺する。


「あれれ、2人とも人見知りさんかなー?可愛いな〜♪ほら杠葉、悠くんに挨拶できる?」


杠葉という女は顔を出して

「杠葉です。はじめまして。」

と、一言。


「……悠。」


俺の簡単すぎる自己紹介に環とその友人がケラケラ笑う。

「なんだい悠、その淡白な挨拶はっ。」


「ねぇ、悠くん?私これから環とお話があるの。杠葉はこれから近所の誠くんと遊ぶんだけど、良かったら悠くんにも杠葉をお願いできるかな?いいわよね?環?」


「私は、構わないが……」


環の顔が心配そうに俺を見る。

自分でもなんとなくあまり気が乗らないのは分かる。

少し俯きどうしようかと思っていたら、俺の手は前に引かれる。


「いこう、悠!」

両手で手を引かれて杠葉は笑顔で俺にそう言った。

臆病な自分が嫌になる程こいつの小さな手は俺には大きく感じた。

俺はそのまま引かれ、加賀美亭を出た。



後ろかはいってらっしゃい〜と面白がる2人の声が聞こえた。



そのまま杠葉の後をついていく。


「誠!」


どうやら、やつが誠というらしい男のところについた様だ。

少し大人びた余裕のある雰囲気。

誠は俺に気付き杠葉に誰?と聞く。

「えっと、悠!環さんのとこにいた。」

「あー、僕らと同じ歳の子が加賀美亭に来たって環さん言ってたな。はじめまして、僕は桂木誠。そこの定食屋の次男。悠、よろしくね。」


当たり前の様に差し出された右手。

「誠、よろしく。」


そのまま追いかけっこやかくれんぼ石蹴りなどをして日が暮れるまで遊んだ。


おっちょこちょいでよく泣く杠葉。

面倒見がよく、気が回る誠。

特に誠とは妙にウマが合う様な気がした。

 


2人と遊んでいる時は御影とは少し違う楽しさがあった。

俺たちが仲良くなるのにそう時間はかからなかった。



 

__それから3年の月日がたった。


杠葉はよく加賀美亭に遊びにきていた。

環が、学校に通わせてくれ俺たち3人は学舎を共にした。


そんな普通の日が過ぎ去っていた、ある日。

それは突然の出来事だった。

 

「環さん!!!」

雨の中走ってきただろう、杠葉が勢いよく加賀美亭の扉を開けた。


「杠葉?」

「杠葉!どうしたんだい!」

「……お母さんが……お母さんが…………」


環に飛びつき裾をつよく握りしめて泣きじゃくる杠葉。


「三葉がどうしたんだい?喋れるかい?」


泣き虫の杠葉が泣くのは良く目にする光景だが

この時はとても胸騒ぎがした。


「家に帰ろうとしたら……お母さんが家の前の道にいて…………倒れてて……困ったら環さんを頼りなさいって……お母さん死を助けて……」


おばさんが?

わけもわからず俺は杠葉に声もかけれずにそこにただ立っていた。

 

「悠、お医者様を呼んできて、杠葉と一緒に後で来なさい!杠葉、悠がいるから大丈夫ね?悠!頼んだわよ!」


環の言葉に俺は、ハッとなり、俺は杠葉の手をぎゅっと握り再び雨の中に走り出した。

 

「あぁ、杠葉いくぞ!」

 

力が入ってない弱々しい腕。

俺がついてる。言葉にはしないが強くそう思った。

杠葉に初めて会ったあの日。

臆病な俺の手を引いてくれたお前。

今度は俺がお前の手を強く握ってやる。


杠葉____杠葉________。



俺達は医者のところまで走り、説明し、一緒におばさんのところまで急いで駆けつけた。


到着すると、環がおばさんを抱き泣いていた。

すぐに杠葉の家に連れて行き最善を尽くすも、その努力は報われなかった。


ずっと握っている手。少し杠葉の力が強くなる。

横を向くと、杠葉の目からは静かに涙が溢れこぼれ落ちている。

こんな状況に何も声をかけれない俺は、何も言わず杠葉を抱きしめた。俺の目からも涙が溢れた。



おばさんが亡くなってから数ヶ月

杠葉は笑わなくなった。家から出ず学校も休んでいた。


俺と誠は毎日杠葉の家を訪ねた。

毎日、そう毎日、毎日。


大丈夫か?元気出せ!そんな軽い言葉は俺たちは何も話さずとも一切口にしなかった。

ただ、いつも通りに。


だんだん杠葉が話せる様になり、ご飯も少しずつ食べてくれるようになった。

そんな少しの変化がとても嬉しかった。


「悠、誠。ありがとうね。私2人がいてくれて本当に幸せなんだと思う。ちゃんと頑張るから、ちゃんと立てるように頑張るから。」


ある日、杠葉が俺たちにそう言った。


「杠葉が頑張るなら、僕たちは応援する。必要ならいつでも手を貸すから、遠慮はしないで、友達なんだから。」

 

「そーだ。お前が頑張りすぎたら、逆に心配になるだろ?ほどほどにしてくれよー。別に頑張らなくなって、お前が頑張ってるのなんて俺らが1番分かってるっつーの。どんだけ一緒にいると思ってんだ。」


そんな俺らの言葉を聞いて杠葉は久しぶりに俺たちの前でとても笑って見せた。



俺を連れ出してくれた手。

とても小さく今にも無くなりそうな体。

頑張ろうと一生懸命笑った顔。


 

_____俺には昔からほっとけないやつがいる。




 







 

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