三葉と環_ミツハトタマキ
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__数年前
〜〜〜
「環!見て、私の可愛い可愛い娘だ!」
「すごい小さいなー、少し額を跳ねてしまえば壊れてしまいそうだ。」
「んもう、可愛い娘になんてことをしようとするんだ!」
三葉と学生時代の友人であり、今でも交友が深い。
ただ1人の親友である。
「我が子っていうのは、そんなに可愛いものかねー。」
「……可愛いさ。……可愛くてたまらない。杠葉が笑うだけで私もとても幸せになる。不思議だろ?この笑顔を私が守らなければならないと思うと、自分も強くなれる気がするんだ。」
杠葉を愛おしく見つめ私にそう言う三葉。
子の愛おしさなんて、私には分からないがその光景はとても美しく目が離せなかった。
~~~
「たーまーきーぃー。」
「なんだ三葉か、こんな昼間にどうした。杠葉は?」
「悠くんと誠くんと遊びに出かけたさ。家に居たくないんだってさー。」
「また何でそんなこと。」
「父親の事を聞かれた。まだ幼い子に父親がだらしの無いなんて言ってあげたくなくて、天女と長い長い旅に出た〜なんてはぐらかしたら頬を膨らませて、口を聞いてくれないのさ。」
「はあ、三葉。子供は大人が思ってるより子供じゃないさ。」
「分かってるって!けど、杠葉に言ったことは実際間違っちゃいないだろ。それでも他に女がいて私と杠葉は捨てられたなんてそんな酷なこと言ってやりたくないんだよ。……あの子は幸せになってほしいんだ。
いーや!私が幸せにしてやるんだ!!!」
「……お前のもとに生まれて杠葉は幸せさ。」
「だろ?環だって、そうさ。
御影くんも優くんもお前に拾われてなに不自由なく暮らしてる。環がいたからきっと今幸せだろう。」
「影はともかく、悠は悪態ばっかりつくいつまで経ってもクソガキさ。そんなこと思ってるか私にはさっぱりだ。」
「思ってるさ。」
「また適当なことを。」
「私には分かるんだ!」
そう屈託のない笑顔を向ける親友。
「お前が友でよかったよ。」
三葉がいうならそうなんだろうと思ってしまうほど、私にとって三葉は偉大であった。
こんなたわいの無い日が続くと思っていたし、それを誰も疑ってはいなかった。
____あの日が来るまでは。
〜〜〜
「悠!働かざるもの食うべからずだよ!」
「あいよー、わかってるよー。」
「お前はいつまでたっても変わらないな。少しは影を見習いな。」
「影は別に関係ねーだろー!」
そんな会話を悠としていたある雨の日。
遠くからパシャパシャと走ってくる足音。
勢いよく戸が開く。
「環さん!!!」
「杠葉?」
「杠葉!どうしたんだい!」
「……お母さんが……お母さんが…………」
そう私の着物の裾をつよく握りしめて泣きじゃくる杠葉。
「三葉がどうしたんだい?喋れるかい?」
その時私も少し混乱していた、何があったのかは分からないが胸騒ぎがした。
「家に帰ろうとしたら……お母さんが家の前の道にいて…………倒れてて……困ったら環さんを頼りなさいって……お母さん死を助けて……」
辿々しい言葉を一生懸命紡ぐ小さな子。
ここからだと影の浮遊が1番早いが、影が私と杠葉2人は無理だ。
「悠、お医者様を呼んできて、杠葉と一緒に来なさい!杠葉、悠がいるから大丈夫ね?悠!頼んだわよ!」
「あぁ、杠葉いくぞ!」
悠は杠葉の手をぎゅっと握りふたたび雨の中走り出した。
「影!お願い。」
「はい!」
どこからともなく影が二つ返事で私を雨の中三葉の元へ連れて行く。
家に近くと確かに道に倒れている三葉がいた。
「影あそこよ!降りて!」
影が足を地につくと同時に私は着物の裾を持ち上げ駆け寄った。
三葉の身体を少し起こし呼ぶ。
「三葉!!!!聞こえる!?三葉!!!」
口もとに耳を近づけるとまだ息の根がする。
「………………環。」
「三葉!どうしたんだ!なんで、こんなことに!」
「……ちょっと……やり過ぎちゃったかも。…………もし私に何かあれば……あの子を……杠葉を…………頼んでもいいかな。」
「何かなんて起こるわけないだろ、しっかりしろ!」
「…………泣いてほしくないな。……私はあの子に……笑っていてほしい。……もし……もし………………あの子が……誰かを恨むことがあれば…………許してやってくれ……なんて…我儘…………だよね。」
「何を言ってる……?」
「……環、私の大切な友よ…………す……まな……い。」
ぱたんと地面に落ちる友の腕。
「……三葉!三葉!!!!!」
ほんの少しすると病院の先生達が到着し、すぐに家に運び出来る限りの治療を施すが、その治療は報われることなく三葉は還らぬ人となった。
何故あの様な事が起きたのか。
あの日三葉に何があったのか。
結局何も分からないまま。
引っかかるのは『誰かを恨む事があれば、許してやってくれ』の言葉だけだ。
幼き杠葉は数ヶ月泣き止む事はなく、私の元に引き取ろうとしたが家から離れないの一点張りだった。
見かねた私は影に見張りをお願いし、それ以降は何も言わなかった。
生活に関しても、三葉の決して多くはない貯蓄を確認し、母の残した金銭と説明し私がその後も工面している。
『___あの子を頼んでもいいかな。』
「あぁ、お前の大切な子は、私がしっかり見届けるさ。三葉。」
これが私と三葉の別れであった。
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