新谷が死んでから、七日が経った。解凍した身体はやはり全く朽ちていなかった。何となくほっとする。寿命も、元のままだ。新谷の奏でる調べは、依然として私を不快にさせるものだった。

「戻ってきなさい」

 両の手を翳し、力込める。

「戻れ!」

 脳内に響いていた鈴の壊れそうな音が、ぴたりと止んだ。成功した手ごたえはあったが、新谷の身体はなかなか動こうとしない。

「新谷……?起きなさい新谷!」

 その時、ぴくっと新谷の指先が動いた。

「くしゅんっ。……寒い」

「あんた、第一声がそれって。……私の心配を返せ」

 何だか損した気分だ。

「あ、待って深麗香ちゃん。毛布ない?ホントに寒いんだけど」

 長い黄泉の国の旅を経験してきたというのに、新谷は相変わらずだった。そのことに、何となく安堵している自分を確かに感じ気恥ずかしくなる。そのせいで、つい応答が雑になった。

「あーはいはい。持ってくるから待ってなさい」

 ピシャン、と後ろ手で戸を閉める。と、へなへなと崩れ落ちた。自分でも驚くほど緊張していたらしい。命を背負う重さ。


 私はこれからずっと、この力と共に生きていかなければならない。そして今まで逃げ続けてきたという新谷もまた、今回の件でその運命に巻き込まれた。

 人よりも多い苦しみを伴うだろう。しかし同時に、人には決して味わえない喜びも待っているだろう。

 まずは、普通なら決して知ることのできない、黄泉の国の土産話を聴くところから始めよう。




                   ―――――完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る