第2話

 シンシアは、メイフェアを見送った後、再びアイナがいる客間へと戻って来た。

「それにしても、ほんと、姫様は、ああ言う怖い事件の話、大好きですよね」

「何だ? お前、耳をふさいで聞かないようにしていたんじゃなかったのか?」

「だって、途中まで聞いちゃったら……、気になるじゃないですか……」

「結局のところ、お前も好きなんじゃないか」

「違いますよ」

「まぁ、怪奇な事件とか、都市伝説とか、不安をあおる様な話に耳を傾けずにはいられない――それが人のさがというものだからな」


「ねぇねぇ、何の話?」

 二人が、そんな会話をしていると、それまで部屋から遠ざけられていた子供達が、わらわらと集まって来ていた。メイフェアが居た時から、興味津々で様子を伺っていたのだろう――彼女が帰った途端、我慢しきれずに集まって来たのだ。

 子供の好奇心は抑えられないと判断したアイナは、不適切な部分を省き、彼らに事件のあらましを話してやる事にした。


「――という訳で、王都の周辺には、切裂き悪魔が出没中な訳だ。お前達も悪い事ばかりしていると、切裂きの悪魔に切り裂かれてしまうかもしれないぞ」

 アイナは、王都で起こっている事件を童話風にアレンジし、子供達に話してやった。アイナ的には、大分、マイルドにして話していたつもりではあったが、子供達に与えたインパクトは大きく、皆、怯え切り、涙目になっていた。


「もうっ! 姫様、いい加減にしてください! 子供達が怯えているじゃないですか」

 シンシアは、子供達を庇いながら、アイナに対し、厳しい視線を向けていた。

「みんな、大丈夫ですよ。ここは王都から遠いですし、そんな罰を受ける程の悪い子も、ここにはいませんからね~」

「もう、俺、今日の夜、寝れないよ~」

「私も怖くてトイレに行けないかも」

 子供達が一斉に不安の声を上げる中、シンシアは、相変わらず、その元凶を作ったアイナに厳しい視線を向けていた。


「まぁ、あれだ。切り裂き悪魔と言っても所詮しょせんは人間だ。そこまで心配する必要もないだろう」

 アイナも少しやり過ぎたと反省したのか、子供達をなだめるような発言をした。しかし、その言葉はあまり効果が無く、皆、納得していないように見えた。


「こうなったら、アイナ様にその悪魔を退治してもらいましょう!」

「ちょ、おま、何言ってるんだ?」

 シンシアの突拍子もない発言に、アイナは、激しく動揺した。


「そうだ! そうしてもらおうよ」

「そうよ、アイナ様なら退治出来るわ」

「そうすれば、もう怖くないね」

 子供達は、不安から逃れようとしたのか、自分達に言い聞かせるように口々に話し始めた。


「おい、おい、おい、おい。お前達、何、バカな事言ってるんだ? 何故、私がそいつを退治しに行かにゃあならんのだ? そんなクソ面倒臭い事するはずなかろう?」

「でも、退治出来るんでしょう?」

「そうだよ。前にも、悪い奴をぶった斬って、僕達の事を助けてくれたじゃんか」

「まあ。私の実力なら~。恐らくは、楽勝とは思われるが~」

 アイナは、子供達にあおらてられ、少し得意げになりながら言った。


「やっぱり、退治できるんだ~」

「紅い悪魔と呼ばれるアイナ様なら、絶対、勝てるわよ!」

「おい、この可憐な乙女に向かって悪魔は、失礼だろう?」

「あっ……」

 失言をした女の子が、思わず口を塞ぐ。

「そもそも、私の地毛は、赤毛ではなく銀なのだ。根元をよく見てみろ」

 アイナは、そう言いながら、頭を下げると、子供達に髪の毛の付け根が見えるよう、分け目を広げて見せた。

「ホントだ、白だ」

「だろ~。故に、紅い悪魔では、決してないのだ」

「じゃぁ、何で赤いの? 染めてるの?」

「ああ、それか。自分でも不思議なのだが、定期的に血を吸って紅く染まっている……よう……なの……だ?」

「やっぱり悪魔じゃん……」

 子供達の冷たい視線が、アイナに向けられる。途中で自分の発言の矛盾に気付いたアイナは、返す言葉も無く、しくじったと言わんばかりの表情を浮かべるだけだった。


「では、この話は、姫様が、犯人を捕まえに行くという事で良いですね」

「賛成~~~!」

 子供達が、一斉に声を上げる。

「ちょっと待て、私は、まだ、行くとは言っていないぞ!」


 この後、アイナは、いろいろと子供達の説得を試みたが、結局のところ聞き入れて貰えず、切裂き悪魔の退治に向かうはめとなった。

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