第17話

「終わったのですか?」

「ああ。何とかな」

 決着を見届けたシンシアが、アイナの方へと歩み寄って来た。

 カティアは、テレサの連れていた仲間達の方へ駆け寄り安否を確認した。

「生存者は?」

 カティアは、アイナと目が合うと無言で首を振った。

「そうか……」


 カティアは、彼らの分の指輪も回収すると、無言のまま、二人の元へと歩み寄って来た。

「大丈夫か?」

「ええ……」

 カティアは、集めた指輪を見つめながら、気の抜けたような返事をした。全く大丈夫とは感じられないその姿に、アイナは、暫く何かを考えていたようだったが、覚悟を決め重い口を開いた。

「私達は、奴にまんまと踊らされていたようだ」

「えっ?」

 カティアが、思わずアイナの方へ視線を向ける。

「大穴の潜る前、アイツがお前に向けていた冷たい視線。あれは、お前の罪悪感をあおる為のモノだったのかもしれない。事件は、まだ終わっていない――そう思わせる事で、お前が何らかのアクションを起こすであろう事を想定していたのかもしれない。アイツ一人の呼びかけで集められる人間等、たかが知れているからな。そして、私達は、アイツの思惑おもわく通りにここに誘い込まれた。だが、結果的には、ご覧の通りだ。獲物を見誤り自分が狩られてしまったという訳だ」

「…………」

「自分が踊らされていた事。テレサが既に死んでいた事。こんな結末は、お前が想定していたモノとは、かけ離れていたかもしれないが、未完よりは、だいぶマシな結末だ」

「…………」

 カティアの目からは、大粒の涙が溢れていた。流した涙が、雨粒のように掌の上の指輪達を濡らす。


「これで契約は果たした。お前は、まだ若い。全てを受け入れ前に進め」

 アイナは、カティアの肩にポンと手を置いた後、そのまま彼女の横を通り抜け、出口の方へと歩いて行った。

「めちゃ子、帰るぞ」

「え? で、でも……」

 シンシアは、アイナとカティアの双方を交互に見ながら、オロオロとする事しか出来ずにいた。


「アイナ様の方が、はるかに若いじゃないですか……」

 カティアは、胸の前で指輪を強く握りしめると、小さな声で呟いた。


――数日後、飛行船内――


 アイナとシンシアは、既に西方の地を離れ、飛行船で帰路に就いていた。二人は、食堂の窓側の席に座り、何の気なしに外を眺めていた。

「カティアさんは、大丈夫だったのでしょうか……」

「まぁ、大丈夫ではないだろうな。テレサも死んでいた訳だし、あいつの心中は複雑だろう」

「今日、遺族の方に報告に行くとの事だったのですが、先に帰って来てしまって良かったのでしょうか……」

「やむを得まい。私の仕事は指輪を持ち帰るまでだ。何より、残っていたとて出来る事は無かっただろう」

「そうですが……」

「この先は、あいつ自身で決着を付けなければならない話だ。あまり、他人が踏み込むべき話でもない」

「それは、少し冷た過ぎではありませんか?」

「私なら、こういう状況の時は、あれこれと心配されるより放って置いて欲しいと考えるがな。もし、出来る事があるとすれば、遺族からの許しを得られるよう祈る事ぐらいしか思いつかん」

「…………」

「少なくとも事件を解決し、真相は解明されたんだ。あとは収束に向かうだけだろう。時間はかかるかもしれんが――」

「それは、そうかもしれませんね……」

 シンシアの心は、後ろ髪を引かれるようなモヤモヤとした思いで包まれていた。


 シンシアの心とは対照的に、空は晴れ渡り、飛行船は大海原を行く鯨の如く、ゆっくりと東方へと進んでいた。

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