第11話

「全く、別動隊の兵隊達のフォローまでさせられるとはな……」

「『誰もが才能を持てる訳ではない。それ故に、私は、その才能を生かさないのは罪ではないか思う』って言うやつですよ」

 シンシアは、アイナの声色を真似つつ、少し傲慢ごうまんで大げさに演じて見せた。

「めちゃ子。もしかして、それは、私を真似て言っているのか?」

「ふふふ。才能は活かさなきゃですよ」

「お前は、私が困っている時、嬉しそうにしているな」

「それは、姫様が、いつも、私をからかって困らせているからです。そのお返しですよ」

「ふん、好きにしろ」

「カティアさん」

「はい?」

「ここは、姫様に任せて、私達は、そろそろ休みましょう」

「そうですね。暫くしたら、交代に参ります。それまでは、お願いします」

「ああ、任せておけ」

 アイナは、シンシアにしてやられた事が気に食わなかったのか、少しぶっきらぼうな返事を返した。

一方、シンシアは、焚火の傍で横になると、数秒も経たないうちに寝息を立て始めた。

「ふぅ~。コイツのこの才能だけは、見習いたくなるな……」

 アイナは、呆れたように呟いた。


 カティアは、二人の様子を見ながら、静かにその場を離れて行った。どうやら、テレサの方へ向かったようである。

 アイナは、その気配を感じつつも、あえて声をかける事はしなかった。


 そして、夜が明けた。


「では、我々はこれで。ご武運を」

「ああ、お前達もな」

 アイナ達を残し、偵察隊は撤収して行った。

 負傷した兵に肩を貸している者もいて、その足取りは、お世辞にも早いとは言えなかった。しかし、必要最低限の荷物以外は置いて行った事、精神的な負担が軽減された事等もあり、この場所へ退避した時と比べると、随分と軽やかになったように見えた。


「アイナ様。ここからは、テレサさん達と一緒に階層を降りてもらいます」

「ほぉ~。あいつは残るのか」

「ええ」

 どうやらカティアは、昨日、テレサと話し合い同行する約束までは取り付けたようである。

 しかし、どう見てもテレサの方は、納得しているようには見えなかった。その事は、直ぐに明らかとなる。

「付いて来るのは構わないけど、足だけは引っ張らないで頂戴ちょうだいね」

 テレサは、アイナの方を見ようともせず、自分の仲間を引き連れ、先に進んで行った。


 彼女は、小柄な体格には似つかない大きな斧を担いだ髭の爺さんと筋骨隆々の禿げ頭の大男。それに長髪のスカした感じのイケメン精霊使い、チャラそうな魔法剣士を引き連れていた。


 アイナ達の前を横切る時、イケメンの精霊使いは、アイナに向けてウインクし、チャラい魔法剣士は、おでこの前に二本指を揃え、軽く挨拶をしながら通り過ぎて行った。

 アイナは、それを当然のように無視した。

「お前か? 同行を提案したのは。まぁ、上手くいっている様には、とても思えんが……」

「ええ。どうしても放っておけなくて……。嫌な思いをさせますが、付き合っては、いただけないでしょうか?」

「全く、厄介事ばかり持ち込みおって。だが、これも給料のうちと思って諦めるさ」

 アイナは、お手上げといったような仕草をしながら、テレサ達の後を追った。

「すみません、ありがとうございます」

 カティアは、そう言いながら、アイナの後ろに付いて歩き始めた。

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