第6話

――数日後 ガイアの大穴 上空――


 アイナ達の空の旅も終わりを迎えようとしていた。目的地に近付くにつれ、『ガイアの大穴』の全貌が見えてきた。


「ここが『ガイナの大穴』ですか~」

 シンシアは、手の平を水平にし、おでこに当てながら遠くを眺めていた。


 『ガイナの大穴』は、アイナやシンシアの想像をはるかに上回る巨大さであり、その穴の口径は、一つの大きな街を丸々飲み込める程のものだった。

 そして、その深さも桁違いで、中央付近には、雲のような靄が出来ている。更に、穴を取り囲むように街が形成されており、空から米粒のように見える人工物が、自然の壮大さをより際立たせていた。


「おいおい、こんな広大な穴とは、聞いていないぞ。こんな広大な土地で探し物等、干し草の山から針を探す以上に難しいぞ」

 巨大な大穴を目の当たりにしたアイナが、思わず不平を漏らす。それに対し、透かさずカティアが、補足の説明を加える。

「今回の依頼では、穴全体を隅々まで探索する必要はありません。下層に降りるルートは、複数ありますが、彼女達の使ったルートも分かっております。それにパーティーが襲撃された場所も大方の見当がついております。ですから、その周辺に絞って捜索をして頂ければ良いかと思います。」

「なるほど、であれば、少しは、見込みもありそうだ。とは言え、絶対に見つけられる保証はしかねるぞ」

「ええ、その事は、重々承知しております。ですが、アイナ様であれば、何とかやり遂げてくれると――私はそう考えております。だからこそ、お屋敷に赴き、仕事を依頼したのです」

「ふん。都合の良い事を――。おだててたところで、成功確率が上がる訳じゃないぞ」

「それも分かっております」


 根拠無く期待を膨らませているカティアに対し、僅かな不安を覚えつつも、アイナは、改めて『ガイアの大穴』に目をやった。

「しかし、とんでもなくデカイな。近付くと飛行船ごと飲み込まれてしまいそうだ」

「ですね……」

 アイナとシンシアは、初めて見た『ガイアの大穴』に圧倒され、感嘆にも似た言葉を漏らしていた。

 こうして、アイナ達を乗せた飛行船は、『ガイアの大穴』を横断し、西側の国の空の港へとたどり着いた。


――西側 空の港――


「ふ~う。やっと着いたか」

 久しぶりに大地に足を付けたアイナが、大きく伸びをする。

「空も良いですけと、やっぱり地に足が付いているというのは、安心しますね。あれ?」

 アイナに続き、タラップを下りて来たシンシアが何かに気付く。


「どうした?」

「あそこの一番大きい船の所にいるの、メイフェア様ではないでしょうか?」

「うん? よく見えんな……」

「ほら、あそこ」


 シンシアの言葉にうながされ、アイナが目を凝らす。

 確かにメイフェアのような人物が、船の前で待機している。

「どうかなさいました?」

「ええ、あの船の前に知り合いの方がおりまして――」

 カティアは、シンシアの見ている方向を見やると、何か納得した表情を浮かべ話を続けた。

「ああ、あの船は、第二王女様の船ですね」

「それでアイツが同行していると言う訳か」


 そんな会話をしていると、その船の周囲が慌ただしくなり、一人の女性が姿を現した。彼女は、周囲の歓声に応えるように観衆に手を振りながらタラップを降りている。


「あれが、第二王女か。私とは大分違う歓迎ぶりだな」

 アイナが、嫌味ったらしく呟く。

「あの、それは、第二王女様が、この地の領主様であって、皆にお顔が知れ渡っているからだと思います。アイナ様もこの国の人達にお顔を知られるようになれば――」

「別に構わんよ。一々、あんな歓迎されてもかなわんからな」

「ハハハ……」

 カティアは、返す言葉が見当たらず、只々、乾いた笑いを浮かべていた。

「にしても、は、お冷たい。可愛い妹君が、こんなに近くにいるというのに、優しいお言葉の一つも掛けて下さらない」

「姫様っ! その位にして下さい」

「痛っ」

 シンシアは、アイナの脇腹付近を軽くツネった。

「ハハハハ……」

 カティアは、顔を歪め、再び乾いた笑いを浮かべた。


「もうっ、変な噂が立ったらどうするんですか」

 シンシアは、音量を抑えながら、アイナの耳元で小言を言った。

 アイナは、シンシアの心配事を気に留めずに、話を続ける。

「それはさておき、あの腹黒と第二王女。遠目で見ているせいもあるかもしれないが、結構、似てないか?」

「そう言われれば――、確かに」

 第二王女がタラップを降り、メイフェアに近付いた事で二人の比較が容易になっていた。髪の色や長さ、それに背格好。遠くから見ていると服装の違い位しか、その差を判別出来ないくらい二人は似ていた。


「アイツ、もしかして、影武者なのか」

「まさか……」

 シンシアは、アイナの本気とも取れる冗談に戸惑っていた。

「あの……そろそろ……」

 こそこそと喋っていた二人に、申し訳なさそうにカティアが声を掛ける。

「ああ、すまん。我々も移動しよう」

 アイナは、カティアの方へと歩み寄って行った。

 シンシアは、アイナの言葉が気になり、二人の後を歩きながらも、視線だけは第二王女とメイフェアの事を追っていた。

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