第4話

――一週間後 東側 空の港――


「うぁ~。大きい! 姫様、見て下さい。思ってたより、ずっと大きいですよ!」

 アイナとシンシアは、西側へと向かうべく、空の港を訪れていた。そこには、大小様々な飛行船が待機していた。巨大な飛行船の群れを前に、子供のようにはしゃぐシンシア。そんな彼女を、アイナは生暖かく、そして、優しい眼差しで見守っていた。


             *


 西側への交通手段の一つに飛行船がある。東側から西側への移動は、島を横断する形になる為、費用に余裕があるのであれば、空路を選ぶのが一般的である。

 この国の飛行船は、楕円形の大きな風船に空気より軽い気体を詰め、その下に木製の船を繋ぎ、旅行客や荷物を載せて運ぶ構造である。プロペラや舵を取るための帆が付いている他、風の魔法石による推進装置も保有している。

 飛行船が、魔法石を使いキラキラと光る粒子を蒔きながら航跡を描くその姿は、本体の形状も相まって、空を進む船の様にも見えた。


             *


「アイナ様、お待ちしておりました」

 先に空の港に到着していたカティアが、アイナとシンシアを出迎える。

「ああ、カティアさん。お久しぶりです」

「おお、ボインメガネか。元気そうだな」

「あ、あの、恥ずかしいので、そのあだ名で呼ぶのは止めていただけないでしょうか……」

 カティアが、顔を真っ赤にしながら、小声で抗議する。

「その気持ち、凄く分かります……。でも、直ぐに慣れますよ」

「どうしちゃったんですか、シンシアさん! 目から生気が無くなってますよ」

 既にアイナに何度も抗議し、それが無駄だと悟ったシンシアの目は、その輝きを失っており、死んだ魚の目の如き有様になっていた。


「そんな事より、私達が乗るのは、どの船だ?」

「え、ああ、あちらです」

 カティアの示す先には、一隻の白く美しい飛行船が停泊していた。

「うぁ~、すごいっ! 凄く綺麗な船じゃないですかっ!」

 シンシアのテンションは、再び上がった。


 カティアが用意していたのは、ギルドの専用船である。その船は、純白の気球と銀の装飾を施された船体を持ち合わせたとても気品溢れる美しい船だった。

「豪華なのは、外見だけではないですよ。船内の料理も、とっても美味しいんです」

「ほ、本当ですかっ! 今から楽しみです」

 カティアとシンシアは、楽しそうに談笑しながら、船の方へと歩いて行った。

「あ、あいつ……。めちゃ子を完全に取り込みに掛かりやがって……」

 楽しそうにギルドの船に乗り込む二人の背を見ながら、アイナは呟いた。

「姫様、何しているんですか? 早く中に入りましょうよ」

 シンシアは、タラップを登り切った場所で振り返りアイナに手を振っていた。

「今、行く」

 アイナは、片手を上げてシンシアに答えるとゆっくりと船に向って歩き出した。

「まぁ、いい。このところ、悪い事が続いていたからな、めちゃ子には、良い息抜きになるだろう」

 アイナは、自分にそう言い聞かせると、独り笑みを浮かべ穏やかな表情となって飛行船に乗船していった。

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