第8話
翌朝、アイナ達は、家路に就こうとしていた。
アイナの周囲には、村人達が集まり、感謝の意を表していた。アイナとシンシアは、村人が手配していた馬車に乗り込もうとしていた。そこへ、ララが駆け寄って来る。
「帰るの?」
「なんだ、お前か。まぁ、仕事も無事終えたし、我が家に帰らせてもらうよ。お前にも世話になったな」
アイナは、そう言いながら、ララの頭を少しガサツに撫でまわした。
ララは、頭をくしゃくしゃにされながらも、まんざらでもなさげになでられている。
「ララさんのお陰で、私も助かりました」
「全くだ。しかし、私もまだまだだな。いざという時はと言ってはいたものの、お前達を本気で戦闘に参加させるつもりは無かったのだ。だが、奴の隠し
「ララさんも私も無事だったのですから、その事はもう良いじゃないですか」
「とは言え、一匹目の獣の死体をもう少し調べておけば、あのような失態は、防げていたのだ――」
「もう、昨日から、その話は何度も聞いているので、充分ですよ」
シンシアが、苦笑いを浮かべながら、アイナをなだめていると、ララが、アイナの裾を引っ張りながら、再び口を開いた。
「アイナ、ララいらないの?」
村に残るよう言われていたララが、不安げな表情でアイナに訴える。
「先程も言ったが、今回の件で、お前は十分、村に貢献した。もう、お前を悪く言う者は、おるまい。それにここには、お前の事を大切に思ってくれる人がいる」
アイナは、ララの家族の方を見ながら優しく諭した。彼女の両親の後ろには、兄弟姉妹であろう子供達も立っていた。
「アイナは、ララの事、大切に思ってないの?」
「う~、これは一本とられたな……」
「ふふふ」
アイナは、困り果てた表情を浮かべていた。
「めちゃ子、笑ってないで少しは助けろよ」
「うふふ、姫様は、ララさんの事を大切に思っているから、言ってるんですよ。大人になるまでは、家族と一緒に過ごした方が良いと――姫様は、そう考えているんです」
「そ、そうだぞ。私は、幼い子供が両親と離れて暮らす事を良しとはしていない。それ故、この村に残った方が良いと言っているのだ――」
アイナは、ララの頭にポンと手を置くと、少しだけ真剣な表情に戻して語り続けた。
「それにこの村には、お前の様な護り手が必要だ」
アイナは、ララに視線を合わせる為に、しゃがむと更に話を続けた。
「誰もが才能を持てる訳ではない。それ故に、私は、その才能を生かさないのは罪ではないかと考えている。お前は、まだ幼く未熟だが、成長すれば、もっと強くなれる。その時は、その才能を活かして、家族とこの村をしっかり護るんだ。出来るな?」
アイナは、そう言い終えると立ち上がり、今度は、村人達の方に視線を送った。
「とは言え、お前が、再び不当な扱いを受けるような事があれば、いつでも戻って来てやろう。そして、お前を館で引き取る。何せ、お前は、私にとって共に戦った大切な仲間なのだからな」
村人達とララの両親は、アイナの言わんとしている事を汲み取り、静かに頷いた。
「分かった。ララ、護り手になる」
「良く言った。それでは、この村は、お前に任せたぞ」
アイナは、ララの頭に再び手を置くと、乱暴に撫でまわした。
ララは、恥ずかしそうな表情を浮かべながらも、嬉しそうに笑っていた。
――ララの村からの帰還途中――
アイアとシンシアは、馬車に揺られながら、帰路に就いていた。ファルシオンは、村からのお礼の品を積んで馬車と並走している。賢い馬なのだろう。人も乗っておらず、紐に繋がれている訳でもなかったが、その状態でも素直に指示に従っている――もっとも、人を乗せる事も、紐を繋げる事も彼に激しく拒否され、仕方なくこの状況になっていた訳ではあるが……。
馬車の荷台の中、アイナとシンシアは、対面で座っていた。アイナは、窓枠に肘を乗せ、退屈そうに外を眺めていた。
アイナは、進行方向に背を向けて座っていた為、穏やかな闇夜の風景が、背後から前面へとゆっくりと流れていた。
「ふふ」
「何がおかしい?」
「今回は、無報酬で残念でしたね」
「何を言っている? 毎度、そんな感じじゃないか」
「そうですか? 前回の戦いでは、私という極上のメイドを得る事が出来たじゃないですか。破格の報酬ですよ」
「普通、それ、自分で言うかね? しかし、極上ね~。確かにお前が『勇者の盾』を使えた事には驚かされたが、それだけではなぁ~。元来、お前の役目は、メイドな訳だから、家事をまともにこなしてもらった方が、よっぽど役に立つというものだ」
「あっ、もしかして、バカにしてます?」
「事実を言ったまでだ」
「ふう、まぁ良いです。それはそうと、今回の件に、姫様を巻き込んでしまった責任は、私にもあります」
「ん? どうした急に」
「主犯は、勿論、ララさんですが、
「はぁ」
「なので、私から頑張ったご褒美を用意します」
「ご褒美?」
アイナが、不思議そうに首をかしげていると、シンシアは、得意げな表情を浮かべながら、自信の太腿をポンポンと叩いた。
「?」
「膝枕して、今回の労をねぎらってあげます」
「なっ! 何、馬鹿な事を言っているのだ。こんな狭い場所で膝枕等、出来る訳なかろう」
アイナは、言葉の意味を理解すると、顔を赤らめながら、窓の外に視線を向けた。
「ふふ。ふふふふ」
照れくさそうにしているアイナを、シンシアは、笑わずにはいられなかった。
アイナとシンシア乗せた馬車は、見知らぬ虫の合唱が響き渡る中を、館に向け静かに進んでいた。
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