報告
出発してから20日ほどで王都オーリアスにつき、ギルドに寄った俺たちは、支度金をもらった。
その日は王都に泊まり、早速次の日から、ここからさらに西にある港街サフィロポートへと向かう。
王都の近くにはサフィロポートへと続く川が流れており、街や村がその川に沿って点在している。そのため移動は、川を下る小型の貨物船の隅に乗せてもらうことにした。
道のりは比較的安全であったが、途中、船の荷物の積み下ろしを手伝った際に、グラススネークやスカイハンターに遭遇しイレアと二人で倒した。
連携も良くとれるようになっている。旅は順調だ。
そして今夜はサフィロポートの手前の街で休むことになった。
「あ、そうだった。マメに手紙を出さないとな」
ウルアラに何度も言われていたことを思い出した俺は、郵便配達詰所に向かった。
ひとまず王都を出て港街手前まで来た旨を手紙に書いた後、銅貨と手紙を受付に渡した。
「すみません、この手紙をシルバーヘイブンのクレインの宿にいるウルアラ宛てでお願いします」
「はい、承りました」
そう言うと青年は手紙を受け取り、受付の印を押すと、丁寧にシルバーヘイブン行きの箱の中に入れた。
この各所にある郵便配達
そこそこ大きい街には大体あるのだが、詰所がない村などは近くの街から人力で配達を行う。
手紙や小包はある程度溜めて、調教したワイバーンで運ぶ
ただ、送れるサイズには制限があり、あまり大きいものは送ることができない。しかも魔力をかなり使うので、料金が高いのだ。
イレアが着けている転送魔法が付与された腕輪については、エクトルが時間をかけて魔力を込めた特別製で、エクトルの魔法使いとしての優れた才能がうかがえる。
手紙を送った後、宿屋に戻った俺はイレアと一緒に、エクトルから頼まれていた報告を行うことにした。
「えっと、ここを回せばいいんだったよな」
俺の手のひらに収まるサイズの円筒形というか円盤状のその金属は、大体指二本分くらいの厚みがある。
中央に丸い魔石が留まっており、その周りの金属部分には見たことのない文字が並んでいる。魔法陣の文字のようにも見える。
この円盤状の金属の上下をひねるように回すと、魔石のある辺りからエクトルの姿が浮かび上がった。
「ああ、ちゃんと使えたようですね。よかった」
「エクトルだ! これ、すごいねアルス!」
「確かにすごいな、本当に映るんだな」
「えぇ、何せわたくしが作りましたので」
そう言うとエクトルは笑っていた。
――旅が始まる数日前、妖精を使ってエクトルから呼び出しがあった。
世界樹に向かってみると、この謎の円盤状の金属製アイテムを渡してきたのだ。
「アルス様、これを使って定期的にご連絡をください。イレア様の様子や、原初結晶の収集状況などを報告していただきたいのです」とのことで、エクトルは使い方の簡単な説明をしてくれた。
このエクトルの作ったアイテムは、周囲の魔力を少しずつ自動的に取り込み、蓄えておき、その魔力を利用して数十分も映像や音声で連絡ができる優れ物だ。
普通、一般的な
発生した魔法は周りの魔力に影響され、多少威力の増減はするのだが、完全に外部の力だけで動く魔道具なんて大発明だ。
ただ、この原理を解析されて、その他の魔道具に活用されてしまうと、世界に拡散している魔力がどんどん吸収されてしまうため、盗まれないように注意してほしいとのことだった。
正直、盗まれるリスクを考えると持ち運ぶのはどうかとも思ったが、この手の通信魔法は魔力をかなり使うので、魔力量がそこまでない俺にとってはとても助かる。しかも、魔力が溜まってさえいれば、いつでも博識なエクトルのアドバイスがもらえるので、この旅の安全性も高まるだろう。そのため、このアイテムを持っていくことにしたのだ。
「それで、もう少しでサフィロポートにつくんだが、最初の原初結晶はその近くに感じるらしい」
「そうなの! 結構近づいてきている気がするよ」
イレアはそう言うと、映像サイズの都合で人形のように小さくなっているエクトルをまじまじと近くで見ている。まるで猫が小さい獲物を狙っているようで面白かった。
イレアは原初結晶のある場所を、何となくだが感じ取ることができるらしい。
大まかな距離や、方角などが分かるそうだ。
『原初の子』とか王には言われていたが、その辺の能力が関係しているのだろうか? あれ? エクトルもイレアのことを『原初の子』と言っていたような?
まあ、この能力を持っていることが、イレア本人が原初結晶を探す旅に出ないといけない理由だったのだろう。
俺とイレアはエクトルへの旅の報告を終えて眠りについた。
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