第三章 旅立ち
冒険者としての日常
「イレアもそろそろ様になってきたな。」
「うん! もうニードルラビットくらいなら簡単に仕留められるよ!」
そう言うとイレアはシュッシュッとナイフを素振りした。
シルバーヘイヴンの東側の森で、今日も狩猟というか、冒険者としての基本を教えていた。
王都から帰ってきた後、世界樹にいるエクトルには文句を言ってやった。
まさかあんな手を使うとは思っていなかったが、なかなかしたたかな奴らしい。
一応エクトルの依頼のとおり、イレアに冒険者としてのあれこれを教え始めてから、一年が経った。
意外とイレアは物覚えがよく器用だ。この調子なら春先には出発出来そうだ。
仕留めたニードルラビットを担いで、俺たちは街へと戻った。
冒険者ギルドに着くとそこには馴染みの冒険者の顔があった
「おう! イレアちゃん今日もいい獲物だな!」
大柄な体格に隆々とした筋肉の持ち主のキール。
「うまく仕留められました!」
イレアは自慢げに腰に手をあてている。
最初はキールの
「これなら銀級冒険者になるのもあっという間かもな! なあ、アルス!」
キールはこれでも子供好きで面倒見のいいやつだ。
「おい、あまりそんなこと言うと、また調子に乗って無茶をするから、ほどほどにしてくれ」
あきれた俺は、いつもイレアをおだてるキールに注意した。
「おまえは半年前に銅級冒険者になったばかりなんだから、調子に乗るんじゃないぞイレア」
「はーい」
そういうとイレアは受付のカミラのところに小走りで行った。
「カミラさん! 今日もニードルラビットを仕留めたよ!」
受付のカウンターに上半身を飛び乗らせ、カミラに報告した。
「イレアちゃん今日もお疲れ様です。順調ですね」
これほど冒険者ギルドの奴らとイレアが仲がいいのには理由がある。
王宮に行き、エクトルからの依頼を正式に受けることになった俺は、そのことをギルド長に話した。
何せ王からの直々のご命令だ。
冒険者ギルドとしても支援するとのことで、ひとまずイレアは冒険者登録をすることになったのだ。
一応イレアはまだ認識阻害のチョーカーを着けてはいるが、王からの命令内容を知るギルドの者は多い。
当然イレアがエルフだということも知られているのだが、王命に関連する重要人物をわざわざ攫って、この国から追われるような事になりたい奴なんていない。
そのため、今は普通にこの街を拠点に冒険者として修行する日々を過ごせている。
「はい、ではイレアさん冒険者プレートを確認しますね」
「お願いします!」
そういうとイレアは左手首につけた革の腕輪についている冒険者プレートをカミラに見せた。
冒険者プレートの上に小さな魔法陣が展開する。
そこに狩猟依頼達成の情報をカミラは書き込んだ。
冒険者は最初、石級冒険者から始まる。イレアも半年以上前は
その上に
そのさらに上には、
だが、金級冒険者に関しては、貴族や、王都の騎士などが金級となるのがほとんどで、中には黒鋼級冒険者から、爵位を貰って金級になるものも僅かにいるくらいだ。つまり、社会的地位が高い者しかなれない。
ミスリル級冒険者については、大陸を代表するような英雄に送られる勲章のような物だという。
オリハルコン級冒険者に至っては伝説級だ。物語でしか聞いたことがない。今実在するのかも怪しい。
冒険者ランクの見分け方は、冒険者ギルドから発行される階級ごとのプレートを見ればわかる。
一応偽造防止のためプレートにはそれぞれの階級ごとに違うデザインの彫刻が施されており、さらに偽造防止の魔法がかけられている。
このプレートには冒険者としての情報も魔法で書き込まれており、身分証明書にもなる。
基本的にこの世界では、国が違っていてもギルドに所属する冒険者の階級制度は同じ仕組みとなっている。
国ごとに違うのは彫刻のデザインくらいだろう。
このプレートは各階級の名称通りの素材を使用して作られており、
銅級なら銅素材、銀級なら銀素材を使用して作られている。
これは身分証明書としてのプレートに、強度を持たせる為、金属にしているのと同時に、文字が読めない人物に対してもその階級が分かるようにしてあるのだ。
石級に関してだけは、川辺に落ちているような平べったい石に魔法でギルドの紋章を彫刻しただけの簡素なつくりになっている。
その流れで行くとオリハルコン級冒険者のプレートはオリハルコンで出来ているはずなのだが、そもそもオリハルコンという素材自体も極めて珍しく、一度も目にすることなく死んでゆく者がほとんどだ。本当にあるのか? と基本的に俺は疑っていた。
冒険者ランクのプレートは、ブローチにして衣服や装備品に着けるような者もいるが、俺はペンダント状にしており、イレアは革の腕輪に取り付けている。
ウルアラがイレアの腕に合わせて、革の紐を編み込んで腕輪を作ってくれたので、それに銅級冒険者のプレートを取り付けた。
「はい、ではニードルラビット3匹の報酬がこちらです」
カミラはトレイに銀貨1枚と銅貨10枚を並べた。
「アルス! 屋台行こ!」
イレアは報酬を革袋に詰め込んで、アルスの手を取り走り出した。
イレアの屋台飯のお気に入りは、ブラックボアのバラ肉の串焼きだ。
甘辛いタレがついており、香ばしく焼けたその香りは食欲をそそる。
しかも最近、やわらかいパンに挟んで食べるのを思いついたようで、一つのパンに贅沢に二本串焼きの肉を挟んで食べる。
「アルス! おいしいね!」
口の端にタレを付けながらニコニコと笑うイレア。
エクトルには野菜も食べさせてくださいと、この前注意されたので、市場で買った赤く瑞々しい、少し甘酸っぱい香りが特徴のクレラの実も一緒に食べさせている。
この街でこうやって好きな屋台の飯を食うのも残りわずかだ。
そのあとは旅に出て、色々な街や村を巡るのだろう。
旅するときの食事は、そうだな、行く先々で狩猟してそれを料理しないといけない。
ウルアラに料理の仕方を少し習っておくかな。
出発の時が近づいてくるのを感じながら、俺も串焼きを挟んでいるパンにかぶりついた。
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