嵐山嵐

 それから二人で嵐山を、特に渡月橋付近を捜索した。

 加筆するなら、男女が、二人で、時間を過ごしている。

 過失するなら、二人とも、場に似つかわしくない風貌で、デートをしていない。

 甲冑姿のわたしは観光客の前を行ったり来たりするものだがら、なにかのイベントかとぞろぞろニュルニュルぬらぬらと、どこからともなく外国人旅行者が写真を撮りに近寄ってくる。

 時には「アイエエエ! サムライ⁉ サムライナンデ⁉」「テンノウヘイカ、バンザイ!」「ブシノ、ナカオレ・・・・・・」「パンツ、ハイテルノ?」と外国人からの片言の日本語が飛んでくる。

 ちなみにわたしは穿かない派のフリースタイルだが、決して露出狂などと一緒にしないでほしい。

「サボってないで、ヤマアラシを探してください。バイト代出さないですよ」

 河川敷から荒木榧あらきかやの声がした。

 まだ、熱心にヤマアラシという空想の生き物を探しているのであろう。

 バカらしい、全身の毛が棘な生物などいやしないに決まっている。

 もしそんな生き物がいるとすれば、母親の母体にいるときに棘が内側から刺さって、この世の恨みを凝縮した怒りが襲うであろう。たとえるなら、陰嚢袋にハッカ油を塗るのと同義である。

 ゆえにわたしはヤマアラシはドラゴンとタヌキとオタクに優しいギャルと同じぐらい空想上の生物だと仮定している。

 外国人旅行者へのファンサービスを終え、荒木のいる方へかけていく。

 そこには背負いかごいっぱいのヌートリアとカピバラがひしめき合っていた。

 女子大生ならかわいいと答えるであろうが、金のない学生なら非常食にしか見えないであろう。わたしもそのひとりだ。

「荒木さん。見たところヤマアラシではない外来種を捕獲しているようなのだが」

「これは非常食です」

 彼女もまた金のない大人なのである。


「そういえば理由を聞いてませんでしたが、なにゆえヤマアラシをお探しで?」

「大学で飼育していたのが逃げたからです」

「脱走ですか?」

「いえ、第三者による犯行です。飼育小屋のカギが何者かに壊されていたのです」

 荒木は新たにヌートリアを見つけてはトングでつかみ、ポイっとかごに放り投げる。

「しかし、犯人はヤマアラシをどうするつもりだろうか? 食するも棘が邪魔であろう」

「ヤマアラシを食う人種などいませんよ」

 げっ歯類を非常食というあなたが言えたセリフではなかろう。

「ではなにゆえであろうか?」

「秀才の私が阿呆の考えることなんてわろかりなむ」

 今度はカピバラをトングでつかみ、またかごにいれる。

 ここらの生態系は一体どうなっているのだ。外来種でいっぱいではないか。

 もはや、藪から何が出てきてもおかしくない、嵐山はアマゾンと化しているのだ。

 わたしも負けじと、藪をトングで探ると三匹のかまいたちを捕まえ、籠に放り投げる。

「そういえばなぜ、ヤマアラシが嵐山にいると分かっているのだ? なにか確固たるなにかがあるのか」

 荒木は不思議な表情? いや、これは「なに言ってまんの? くたばりやす」というバカにした視線を向けてくる。

「そんなの嵐山なのだからヤマアラシがいても可笑しくないでしょう」

 ここに阿保がひとりありけり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る