モンスター退治

 モンスター退治初日、わたしは京都の駅前で朝飯を済ませ、始発の阪急電車で揺らされること一時間足らずで目的地である嵐山に到着した。

 目の前には山、山、山と大きな川に架かる渡月橋。

 観光客でにぎわうこの場所に果たしてモンスターなどいるのであろうか?

 わたしは武器であるトング片手に辺りを散策。

 はたから見たら、お前はモンスター退治ではなく毬栗いがぐりでも採取しに来たのかと思われるであろう。わたしもそう思う。

 だが求人票に記載内容には、動きやすく汚れてもいい服装と軍手、あればトングも持参してきてのことだった。

 なのでわたしは四条烏丸で入手した日本武士の甲冑を身にまとい、刀の代わりにトングを装備。

 それと現地には雇い主が来ているらしく、現地集合が指定されていた。

 集合場所である渡月橋に向かうと既に雇い主であろう姿があった。

 なぜ、それが雇い主だと分かったのかというと、彼女もまたトングを片手に持っていたからだ。

 だが彼女の姿は想像していたのと違った。

 なぜなら赤色のジャージに軍手、しまいには身の丈よりも大きな背負いかごをしょっている。

 これでは本当に栗拾いではないか。

 ガシャガシャと注意を引くほどのやかましい金具音を鳴らしながら、彼女の元に行き、

「つかぬ事をお聞きしますが、雇い主である神山大学の荒木榧あらきかや教授でしょうか?」

「ええそうですが・・・・・・」

 前髪で目がうっすらしか見えないが、侮蔑の眼差しだった。

 容姿からして学生にしか思えないが、求人票の雇い主には教授と記載されている。

「まさかとは思いますが応募者の真田康成さなだやすなりさんでお間違いないでしょうか?」

 荒木榧は疑問形とは異なる、僕が募集者であると信じたくない眼差しで拒絶している。

 残念だがわたしだ。

「無論、わたしが真田康成である」

「はぁ・・・・・・」

 なぜため息をつく。わたしが何か期待を裏切るようなことしたであろうか? いやない。

「ひとつ聞きたいのですが、なんですかその甲冑は・・・・・・」

「モンスター退治には不可欠かと」

「それ――――動きやすいでしょうか」

「動きにくいです」

「でしょうねえ」

「でも、防御には自信があります」

「真田さん、あなたは一体何と戦うつもりなんですか」

「モンスターでしょ?」

「違います。逃げたヤマアラシの捕獲です」

 早速、わたしのモンスター退治の夢はついえた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る