異世界嵐山嵐

無駄職人間

ハロー異世界ワークス

「で、また辞めちゃったんですね?」

 市役所ギルドの受付嬢であるワコウは面倒くさそうに手続きを処理する。

 ついでに、わたしもこの世界から抹消されそうな雰囲気もする。

「だって、異世界に来てまで介護職するっておかしくないか? もっとこうあるだろ、普通勇者とか!?」

「普通の人は勇者に成れません」

「いやでもラノベとか漫画、アニメだと勇者なっているではないか!」

「現実とフィクションを同一視しないでください」

 ファンタジーの癖にらしからぬ発言だな、オイ。

 ちなみにこの異世界ではわたしのような来訪者により、アニメ、漫画、ラノベ文化が広まっているようなのだ。ちなみに出版されているそれらは無論オリジナル作品ではなく、完全なるモロパクリだった。

「前から気になってたんですが、なんで勇者になれないんですか⁉」

「異世界から来た人のほとんどが国家転覆、違法な独立国家の樹立、テロリズム、革命、ファシズムに走って、幾たびも我が国や近隣諸国を脅威におとしいれようとした過去がありますから、そういった要因になりそうな職を禁止しています」

「ちょと待て、一体どんな奴が異世界に来てるんだよ!! 俺の知っている異世界転生者はそんなことしねえよ!」

 ワコウはデスクの黒い引き出しから一枚の用紙を取り出し、読み上げていく。

「麻原〇晃、海江田〇郎、三島〇紀夫、アドル〇・ヒトラー、ム〇ソリーニ、スタ〇リン、チ〇ゲバラ、マフティ〇・ナビーユ・エリン・・・・・・」

 聞き覚えのある歴史上の人物名が絶え間なく列挙され続けていく。

 彼らは異世界に来てまで何をしとるんだ。

「もうそれ以上読み上げないでくれ、色々のところから怒られる」

「では、御納得していただけましたね」

「せめて――――つつましく、前世よりも一歩良き人生を送れるような仕事はありませんか?」

「言ってる意味がわろかりなむですが・・・・・・」

「楽して稼げる仕事がしたい」

「それでしたらございますよ」

 あるの⁉

「それはどんな仕事ですか!」

「ゲイポルノの仕事です」

「・・・・・・いま、なんとおっしゃいましたか?」

「アナルセックスを前提としたゲイポルノの仕事でございます」

「嫌じゃ! お断り申し上げる!!」

「どうしてですか? 履歴書にも合併交渉が好きであると記入されておりますが……」

「わたしはヤル側が好きであって、ヤラれる側になりたくはない! ましてや男とヤルなんて絶対嫌だ!」

 荒ぶる魂で抗議するが、ワコウは「まあ、最後まで聞いてくださいな」と話を続ける。

 ワコウは求人票の用紙を取り出し見せてくる。

「まず報酬を見てください。実際の勇者に支払われる金額の十倍ですよ。しかも勇者職にはない雇用保険と退職金などの福利厚生は充実していますし、勤務時間も他の職業よりも少ないのに時間給ではなく固定給なのです! 私も男に産まれていれば役所仕事ではなく、この仕事をやりますね! しかもですよ、前年度関わらず年二回のボーナスも確約だそうです」

「うん、聞こえは良いんですが支払う対価が大きすぎる」

「等価交換って知ってます?」

「失う尊厳と共にお尻の穴も大きく広がってしまうわ」

 てか、なんでゲイポルノの求人なんてあるんだよ。前世のハロワにもねえよ。

「もっとマシな仕事はないのか?」

 ワコウはあともう一歩だったのにとゲスな表情しながら、別の求人票を取り出した。

「他ですと剣を持つ仕事があります」

「剣を持つって、荷物持ちかなにか?」

「詳しいことはわかりませんが、何人かここからの紹介で行っているようですね。しかも結構な頻度で募集もかけているみたいですし」

 それだけ人が足りてない仕事なのだろうか?

「具体的な仕事内容はわからないんか?」

「えっとですね・・・・・・悪魔から取り出した半球状の核同士を剣で持ち上げたり、近づけたりするだけだそうです」

 わたしは丁寧にその仕事をお断りした。

 なんでマイナスドライバーの代わりに剣でデーモンコアの実験しているのだ。

 危なすぎるわ! マイナスドライバーよりもミス率大きすぎんだろ。

 てか、結構な頻度で募集かけてるって、紹介して行った奴死んでるだろ!

 再度、他にないかとワコウに伝えると、

「チィッ・・・・・・」

 うわ、めっちゃ嫌な顔するじゃん。てか、本当はわたしを殺そうとして、こんな嫌な仕事を押し付けているのではないかと思いたくもなる。

 ワコウは血塗られた用紙を無言でわたしの前に叩き出した。

 自分で読めと言わんばかりの眼差しを向けてくる。

 恐る恐る求人票を黙読すると、驚きのあまり声に出してしまった。

「モンスター退治ッ⁉ えっ、モンスター退治ではないか!」

 なんということだろうか、わたしが異世界で望んていたものが今、そこにあるではないか。

 モンスターを退治し、聴衆から喝采を受ける、これほどまでに求めていた天職があっただろうか? 転職だけに。

 いや、待って・・・・・・これまでの流れからして、なにか裏があるに違いない。

 どうせろくでもない欠点が隠されているのだろう。

 わたしは用紙の端から端まで隅々と確認するが気になる点が何もない。

 福利厚生のある国からの正式な職業であり、給料は今の仕事よりも良い。

 だからこそ、不安だ。目に見えない存在ほど怖いものはないように、良いことずくめしか書かれていない求人票もまた不安にさせるほどに怖い物なのだ。

 そもそもモンスター退治は勇者とやっていることと違うのだろうか?

「このモンスター退治って、勇者禁止のわたしでもやって良いのか?」

「勇者の仕事っていうのは軍人職だからダメであって、モンスター退治ってのは害獣駆除を目的とした猟師職の管轄だから問題ありません」

 ワコウは淡々と返答する。

 だが、それだけで不安材料はぬぐい切れない。

 わたしは単刀直入に聞いてみることにした。

「この仕事ってなにかヤバい理由とかないのか?」

「モンスター退治ですから、それは危険が伴う仕事です。でもそれは熊やティラノサウルスを狩るのも一緒のようなものです」

「そうか熊やティラノサウルスを狩るのと同じねえ・・・・・・? いるの恐竜⁉」

「グンマーにはドラゴンだっているんですから、恐竜ぐらい普通にいますよ」

 なんということであろうか、こちらの世界に来てから防壁内のことしか知らなかったのだが、まさか絶滅した恐竜がいるとは思いもよらなかった。

 ちなみにわたしが好きな恐竜はプレシオサウルスである。某国民的アニメの影響で(放送禁止用語ピー)介が好きになったからである。

 夢とロマンの世界が広がっている。『オラ、ワクワクすっぞ!』と言わんばかりの興奮するのだが、わたしの脳裏にひとつ不安材料が見つかった。というよりも当たり前のことに気づくのが遅すぎたのだ。

「ちなみにですが生存率はいかほどに・・・・・・」

「ゼロパーセントです」

 どうやら異世界では前世よりも天寿を全うすることは難しいみたいだ。

 そう思えば前世ではどうやって死んだのであろう。この世界に来てからまだ一度も思い出せないのである。

「で、どうするの? 死ぬのやるの?」




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