異世界嵐山嵐

無駄職人間

解放という名の地獄

 生前最後の記憶は、この仕事を辞めたいと言いながら職場に向かっていたことだ。

 そして今、わたしは異世界に来てまで、老人の糞尿で汚れた陰部をキレイに拭いている。


 一体なにをしているのだ・・・・・・。


 このようなプロローグが今まであったであろうか? いやない。

 あまりにも夢もなく、花もない。いや、目の前には異世界人の菊の花が見えているが、見るに堪えない。

 どうして異世界に来てこうなったのか?

 なぜ、お前は他人の尻を拭いているのか?

 そもそも、ここからわたしの異世界無双があるのだろうか?


 わろかりなむ!!


 さてそろそろ読者諸君も一体何がどうなって、なにがおっぱじまるのか理解が追い付いてないだろうから、まず自己紹介から始めよう。

 わたしこと真田康成さなだやすなりは、27歳独身男性である。

 好きなものは合併交渉(童貞である)。

 嫌いなものは性病。

 前世では職を転々とし、定職に就くことはなかった。

 そして現在、異世界に来てからも定職にありつけることなく、転職の果てに介護の仕事をしている。


 しかし待て、しばし待ってくれ・・・・・・。


 再度、読者諸君と己に問いただしたい。


 『なんぞ異世界に来てまでこのような仕事をしているのだ、お前は!』


 いや、この仕事エッセンシャルワーカーは大切なのは知っているし、わたしみたいな身元不明の来訪者でも働かせてもらえるありがたみを理解している。


 だが待ってくれ! よく考えてくれ諸君!!


 異世界まで行ってやることなのだろうか⁉

 普通なら冒険譚を繰り広げるなり、チートながらもスローライフを送りながらもヒロインたちと夜な夜な乳繰り合うはずなのに。

 なのになんだこれは!?

 毎日、老人たちを送迎して、排泄介助して、朝の会して、午前の活動して、二度目の排泄介助して、食事前の排泄介助して、食事介助して、食後の排泄介助して、午後の活動前の排泄介助して、午後の活動して、活動後の排泄介助して、ご家族への連絡帳を記入して、終わりの会前の排泄介助して、終わりの会をして、送迎前にイレギュラーで漏れた排泄介助して、送迎して、ご家族のクレームいを聞いて、戻ったら活動記録を書き、洗濯をして、明日の活動準備をする・・・・・・。


 もう限界だ! 辞めてやるッッ‼


 わたしが異世界に来てまでやりたいことは、こんなことではないですよ、お母さん!!




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