第八話 

 ワシントンD.C.に早々にたどり着いた。世界大会予選の終了日まで二日早く着いたので一日中ホテルのベッドにいる。何千キロも徒歩で走破したら身体中が軋んできて、全てが億劫になる。なるんだよ。


「ジャック、プール行こうよ」


 黒騎士ブラックライダーが小脇にサイレンを抱えて俺の部屋にやって来た。黒騎士ブラックライダーはもうすでに黒いビキニ水着に着替えていて泳ぐ気が先走っている。そして小脇のサイレンは借りてきた猫のように大人しい。借りてきた猫って大人しいのか?


「えー」

「行くぞ!!」


 黒騎士ブラックライダーが折れている方の腕で俺を抱えようとし始めたので、俺が自主的に移動する気遣いをした。つまりはプールに行くことに。


「せっかくテスラの金でホテル貸し切ったんだからプールで楽しもうぜ!」


 黒騎士ブラックライダーは何処かで買ってきた水鉄砲を発射し、サイレンのスクール水着を濡らす。テスラはATMと思われているみたいだ。可哀想(一切そんなこと思っていない)


「楽しそうっスね」

「ああ。そしてお前苦労しているな」


 サイレンは黒騎士ブラックライダーに可愛がられていて着せ替え人形扱いされている感がある。なんかいつの間にか紺色のスクール水着着せられているし。


「僕は身長がデカすぎて服ほとんどないんだよ!だから良いじゃないか舎弟のサイレンに僕が買った服を着せても!」


 七十九インチ約二メートルの身長は着る服にも困るようだった。テスラの扱いがぞんざいな理由、もしかすると身長がデカすぎる器を製造したからなのかもしれない。


「まあふざけるのも休み休みやるか。これから真面目な話するから飽きたらプール泳いだりして」


 黒騎士ブラックライダーが本人も言いたくなさそうなトーンで言い、プールにダイブした。早速飽きてプールで泳ぐな。

 泳いで遠ざかっていくので俺たちもプールに飛び込み追いかける。

 サイレンは手や足に水搔きがあったり首にエラあったりする生き物なので普通に泳ぎが上手い。黒騎士ブラックライダーは直ぐにサイレンに捕まった。


「先日精霊馬が襲ってきたと思うけど、アレは先触れに過ぎなくて世界の終わりが

迫っている。本当にごめんね」

「なんで謝った?」

「僕たちが恐怖の大王に勝てていたらこんなことにはならなかったんだ。すまない」


 黒騎士ブラックライダー曰く、うんざりするくらい昔に恐怖の大王が襲来してきて地球の文明が一度崩壊したらしい。黒騎士ブラックライダーは先史文明の神として恐怖の大王と戦い負けて死んだ。

 テスラが神骸しんがいを発見し、中身を寿司人造人間の四騎士という肉体に移した。だからテスラに偉そうだったのか。いや命の恩人というか第二の生を与えてくれた相手に殊勝な態度取れよ。


「恐怖の大王に勝てなかったそうっスけど、恐怖の大王は地球を滅ぼしたあとどうしたんでスか」

「地球にもう一度文明が栄える頃、具体的に言うと二千年後に再び地球を食べるらしいよ」

「文明崩壊から何年経ったんだ?」

「千九百九十九年。来年にはまたやって来る」


 あと一年で一度世界を滅ぼした災厄が再びやって来る。その前に連邦USSRの親玉である書記長スタァリンを殺さないといけないな。


「でね。連邦USSRのスタァリンは弟で、同じように四騎士の肉体で現世に蘇った神仲間」

「じゃあなんで連邦USSRにいるんだよ」

「恐怖の大王に対する方向性の違いで別れた。あっちは恒星間移民船を作って逃げるらしい。僕は徹底抗戦派」


 ああ。方向性の違いで争っているから俺がスタァリン殺しても構わないのか。


「お前の弟を俺が殺していいのか?」

「人類の未来は身内の情より優先される」


 急に黒騎士ブラックライダーは感情が読めない表情になった。本人の中にも割り切れないところがあるけど、既に決心は固まっているんだろう。


「すまん。余計なこと聞いた」

「いいさ。僕と君の仲だろ」

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