第七話

 テオティワカンで合流の予定だったので一回メキシコシティの屋内で休もうと思ったが、街中に普通に居た。

 暑い日差しに焼かれる負け犬どもが干からびて地面に横たわっている。屋台の客席側に黒騎士ブラックライダーと知らん女が座り、知らん奴に寿司を握らせている。寿司連の刺客かもしれんが。


黒騎士ブラックライダー、腕どうした?」


 黒騎士ブラックライダーの左腕は石膏で固められている。


雷神中隊サンダーボルト・カンパニー相手にしていたとき良いのもらっちゃって折れた。あとこれは新しい舎弟のサイレンちゃん」

「あっし、一級寿司師サイレンっス。よろしくお願い致しやス」


 銀髪ツインテールで大きく名前の書かれた体操服にブルマの女が深々と頭を下げた。体操服、たぶん黒騎士ブラックライダーの趣味だな。


「妹かなんかくらいに似てないか?」

「四騎士の製造法がテスラ研から寿司連側に流れたからじゃないの?」


 ロブスターの寿司を喰らいながら、重要そうなことをサラッと言う黒騎士ブラックライダー。ロブスターの殻が周囲の地面に散乱しているので俺が来る前から寿司食っていたようだ。


「お前って人間じゃなかったのか」

「そうだよ」


 黒騎士ブラックライダー曰く、元々テスラ研の研究者が四騎士に因んだ名称の寿司人造人間を作ったが、そのうち二体を連邦USSRに盗られたらしい。それとは別口でエジソン牛耳る寿司連に情報が漏洩した結果が、サイレンらしい。


「身の上話するにしても何を何処まで話すか難しくて黙っていたんだ。なんかもういいかなって思って言ったけど」

「身の上話する理由がアバウトすぎだろ」


 そう言って俺は黒騎士ブラックライダーの隣に座る。俺もロブスター食べたくなってきた。俺がロブスターの握りを口に入れようとした瞬間、空から何かが振ってきた。


「恐怖の先触れ、精霊馬」

「恐怖の先触れ、精霊牛」


 巨大なキュウリやナスから人間の手足が生えている。しかも二対ずつ。北欧神話の神獣スレイプニルは八本脚と伝わっているが、もしかするとそれかもしれない。


「ナスの方二人掛かりでやって、僕キュウリの方片付けるから」


 そう言いつつ、黒騎士ブラックライダーがキュウリの方を蹴り飛ばしていた。

 キュウリは砕けながら地面を跳ねる。


「俺さあ。野菜と戦うことになると思ってなかったんだよ」

「あっしも同じ気持ちっスよ」


 俺は鉄火巻きを聖剣アロンダイトの形に握る。寿司で武器を作れるようになったのは便利だな。


「死霊の握り、続々握る。お前、死ぬまで」


 死霊がネタとして乗った寿司が次々と握られ、俺に投げつけられる。生乾きの雑巾みてえな匂いが口内に充満するし、絶対身体に悪い。ところでサイレンはどこ行ったんだよ?


「腕は人間の味っスよ。ジャックのあにさんはナスの部分任せます」

「俺の食う部分多くないか?」


 精霊牛ナスの腕が欠損し、死霊の握りが投げつけられる速度が下がる。

 距離を詰めて聖剣アロンダイトを叩きつける。ナスの身が締まっていて刃が通らない。硬すぎる。


「本気、出す」


 ナスが走り出す。人間サイズのナスが音速でぶつかるが、俺はサウナと水風呂で鍛えた肉体ガタイで耐えて逆に相手を捕まえる。細長から筋肉の塊に俺も変わったんだよ。


回転レボリューション:五大湖フルバースト」


 俺と取っ組み合いつつ、ナスは残りの掌の上で生ハムの握りを回転させる。

 来るか回転レボリューション。俺とナスの足元が土俵に変わり、周囲には観客席が広がる。観客はナスとキュウリしかいねえ。行司は居ない。


法則ルールその一、土俵外に出た者は満腹になる」


 足が四本ある方が安定するし、てめえに有利な法則ルールじゃねえかとは思うが回転レボリューションってそんなもんだよな。分かってきた。

 聖剣アロンダイトでナスの足を切り裂く。手足の強度はナス部分よりも柔らかいな。表面しか切れねえんだが。付け焼き刃ならこんなものか。


法則ルールその二、足の裏以外を土俵の上や土俵外に着けた者は満腹になる」


 特殊勝利条件が増えただけで、俺が特別不利になったような気がしない。

 相撲の禁じ手が無しだったら聖剣アロンダイト使った時点でアウトだろうし、なんでもありでやるか。

 俺は力を抜いて、相手の背後に回り込む。回り込む段階で相手が転んだり手を地につけたりしないのは流石だ。


「おら!!ジャーマンスープレックスだ!!」


 相手の腰を掴んで、後方に反り叩きつける。

 てめえの領分で普通に勝った。周囲の土俵は消えてなくなり元の空間に戻る。

 ナスは内側から破裂した。


「すいやせん。ほとんどジャックのあにさんに任したみたいで」

「分断されたんだからしゃあねえだろ」


 サイレンに謝られるが、腕一本奪ってくれたし俺は別に気にしていない。

 ライカや知らん熊の方が強敵だったな。


「キュウリは寿司ニウムの含有量が無くて全然食べた気しないよー」


 いつの間にか黒騎士ブラックライダーの方もキュウリを片付けていたようだった。キュウリの手足だけが転がっていた。



  


 

 




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