幕間 恐怖の大王

 連邦USSR首都モスクワに連邦USSR聖教と呼ばれる宗教団体の本拠地がある。それは世界最大である高さ六百六十六メートルの高層建築物『人民宮殿』の最上階にあった。かつて存在した救世主ハリストス大聖堂が爆破された跡地に『人民宮殿』は建てられた。連邦USSRという国家における連邦USSR聖教の地位は絶妙なバランスの上に成り立っていた。しかしながらその影響力は連邦USSRとしても無碍にはできない。

 モスクワ総主教の執務室にそれは居た。


「世界大会、どうなってんの?」


 モスクワ総主教と思しき物体には認識を阻害する偽装が覆い被さっている。偽造を通して見れば、黒髪の少女のように見える。見た目はアジア系で瞳は金色。

 その正面にラスプーチンが跪いている。


「敗北主義者たちは順調に潰し合っております。


 ラスプーチンはモスクワ総主教を大王陛下と呼んだ。


「結構。ところでキミの残機ってあと何体だっけ?足りなければ握っておくけど」

「まだ十二体残っておりますれば、大王陛下の御手を煩わせることはありません」


 ラスプーチンの肉体は大王によって握られた人間型の寿司である。大王の御業を以てすれば寿司に命を吹き込むことも容易い。ちなみにラスプーチンの被る白い仮面はシャリ用の米を使って作られている。


「スタァリンVSエジソンも楽しみだけど、ボクは断然こっちの握り合いが気になるんだよね。スタァリンVSジャック。今の力量じゃ一方的な展開になると思うけど、それでも見所はあると思うんだよね」

「質問よろしいでしょうか」

「なんだい?」

「ジャックとは何者でしょうか?」


 ラスプーチンはジャックを只者ではないと認識していた。認識していたが、その正体を理解していたわけではなかった。知りえぬことは知りえぬが知っているように振る舞うことが得意であった。


「スタァリンVSジャックを見れば分かるよ」


 大王はいたずらっぽい笑みを浮かべたように見えた。

 ラスプーチンは引き下がる。大王の勘気に触れればとびっきりの恐怖を与えられ死ねぬまま宇宙空間を彷徨うことになる。ラスプーチンはまな板の鯉であった。

 大王はノストラダムスに予言された『恐怖の大王』である。


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