第六話
霧に包まれた河川敷を歩いている。足には砂利の感覚が伝わる。
そのうちに川が見えてきた。どうやら俺は川を渡ろうとしているらしい。足がどちらに進むかどうかは身体の支配者である俺の領分のはずだが自然と川に向かっている。対岸に懐かしい人が立っていた。手を振ってみる。俺もここに来たんだと知らせるために。
「帰れ」
俺は拒絶される。相手の顔を見て理由を理解した。あれは母だ。
金糸の如き髪を短いポニーテールに纏めていて、衰えを知らぬ肌を持つ。見間違うことはない。
「久しぶりの再会でそれか?」
「ここはガキの来る場じゃねえんだよ」
「ガキ扱いかよ」
渋々と来た道を戻っていく。砂利を踏む足の感覚が俺に生きている感覚を教えてくれる。そのうちに俺の足は刺されるような痛みを覚え、身体は重荷を背負うように重くなっていく。
目が覚める。全身が熱い。空には日が登っている。
何者かが横たわる俺を覗き込む。
「おはようございます」
その顔を見たことがある。いや、その白く何の特徴も無い仮面を見たことがある。
母を殺した寿司師の被っていた仮面だ。俺は飛び起きる。
全身が重い。感覚は鈍く、焼けるような痛みがする。
「お前は誰だ」
「私は一級寿司師ラスプーチン……貴方の母を殺したものですよ」
煮える憎悪が腹より登ってくる。この憎悪の熱を火種に玉子を握る。
母と相討ったはずなのに何故生きているかという疑問を飲み込み、ただ相手を殺すことを考える。
「
「これではいけませんねえ。私は寿司を食べません。そんな相手を貴方はどう満たす?どう殺す?」
玉はラスプーチンの仮面にぶつかり、地面に落ちる。
ラスプーチンに言われるまでもない。寿司について抜本的な考え方の転換が必要だ。
寿司を拡大解釈する。母はどうやってラスプーチンを殺した?
「
ラスプーチンがチーズ巻き寿司を槍の形に握る。そうか。寿司の形を武器にすればいいのか。ならば俺は鉄火巻を剣の形に握る。
「
剣の形の寿司をラスプーチンの喉に向ける。ラスプーチンは弾く。寿司と寿司がぶつかり合い、火花が散る。
寿司の形が変わると、振るう感覚が変わる。握り合いの最中に調整をする他無い。
「私を見て学ぶことは無いのですかね?これでもだいぶ見せているのですが?」
ラスプーチンの
槍の如き形と鋭さ強度ではあるが、食えないことはない。味も美味い。
「ああ。分かった。お前は餓死する」
「ギリギリ合格ですね。ではまた会いましょう」
そう言うとラスプーチンは溶け死んだ。母の仇を殺したはずなのに釈然としない。というかコイツはどういう理屈で生き返ったんだ。
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