幕間 ライカ、吠えないのか?

 連邦USSRより世界大会に参加した寿司師はほぼ全滅した。

 雷神中隊サンダーボルト・カンパニーの襲撃やサメとの交戦により連邦USSRの二級寿司師六十名は全滅した。いや最後の一人であるエフゲニーが残っていたのだが、ジャックとの交戦に敗北し全滅した。残ったのは僅か二名の一級寿司師。ライカとラスプーチンだけである。ブリテンでの戦いで無等級寿司師であったジャックに退けられた黒星のある犬耳少女と何度も死んだはずの男だけが残りの人員だった。


「エフゲニーが死んだわね」

「ここまでは必要な犠牲です……」


 ライカとラスプーチンはエフゲニーの寿司ニウムを追って森の中を疾走している。

 エフゲニーを殺した相手を確認し、仇を取るつもりでライカは走っている。ラスプーチンはまた別の思惑があった。


「コイツがエフゲニー殺したのか。アタシのツラに泥塗った奴じゃん」

「殺しますか?」


 エフゲニーの寿司ニウムを追って走り、二人はジャックの倒れている地点に着いた。ジャックは気絶している。今なら喉に寿司を詰め込んで一方的に殺せるだろう。


「アタシを退けた相手をさ、寝込み襲うような倒し方したらアタシの品格が下がるし」

「それを聞けて安心しました」


 ラスプーチンはジャックの止血を行い、更に濃縮大トロ液を注射した。大トロに含まれる多量の寿司ニウムがジャックの身体の回復を促進する。


「なんでソイツを治療しているわけ?祖国に対する裏切り?」

「私は一度も裏切ったことなどありませぬ。神に誓って……」

「同志を大勢殺した相手をわざわざ助けることが祖国のため?ふざけてんの?」

「彼をここで助け、同志書記長閣下と対決させることこそが神の導きなのです」


 ラスプーチンは膝を地面に着き、ライカと視線を合わせた。仮面ごしに目で自分の誠実さを訴える。その瞳を覗いても何もないことが分かっているのでライカは視線を合わせない。


「アンタは腐っても聖職者だし、こんだけ神を引き合いに出すならアタシも引き下がるわよ」


 ラスプーチンは連邦USSR聖教の異端審問官であり、同時に革命親衛隊に所属していた。彼の忠誠が連邦USSR聖教に向いていることは明らかだった。

 

「感謝を……」

「一度は神の導きで同志書記長が決まったのに、また神の導きで取り除くのね」


 連邦USSRの現在の書記長スタァリンは連邦USSRの創始者が死去した後、混沌とした後継者争いに突如として現れた。彼は連邦USSR聖教という後ろ盾を背景に書記長に就任した。スタァリンが何者であるか、それは一般党員の間で永遠の謎だった。そしてラスプーチンはスタァリンの擁立に関わっているとも噂されている。


「それが神の意志であれば、人は従わなければなりませぬ。人は運命の奴隷故に」


 ライカの皮肉をラスプーチンは正面から受け止めた。


 


 

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