幕間 蟲毒のグルメ

 ジャックがエフゲニーと戦っていた同時刻。

 チリの首都サンティアゴは廃墟と化していた。世界大会の開催に伴い、ホワイトハウスまでの進路上に存在する都市から人々は強制的に疎開されているため、サンティアゴにおいては一般人の人的被害は無い。疎開が行われていない都市においては数千人規模で死傷者が発生している。

 黒騎士ブラックライダーは疎開された都市にまるで前から住民であるかのように待ち伏せていたサメたちを尽く撃破した。

 その瓦礫の山の上に一台の屋台があった。


「とにかく握って」

「はいッ!」

 

 客席には黒騎士ブラックライダーが座り、手に水搔きの付いた銀髪ツインテールの女が寿司を握っている。女の首筋にはエラがあり、人間とサメの超融合体ハイパー・ハイブリッドであることが見て取れた。

 女は寿司連より受けた指令により、世界大会の参加者に襲い掛かった。幾人もの寿司師を殺していくうちに黒騎士ブラックライダーと対峙し、惨めに命乞いをした。穴という穴から全ての液体を垂れ流し、土下座したのだ。

 そして黒騎士ブラックライダーに許され、シャワーを浴び着替えた後に屋台を用意して黒騎士ブラックライダーをもてなすことになった。現在、黒騎士ブラックライダーが良いというまで寿司を握っている。


「君……名前何だっけ?」

「あっしの名前はサイレンっス。食べないでください」


 サイレンは反射的に土下座した。黒騎士ブラックライダーと自らの間に存在する級位レベルの違いを生物的本能で認識しおそれていた。


「僕に襲い掛かった件は土下座で不問にしたから食べないって。でさ、人間とサメの融合体ハイブリッド?」

「技術者が言うには既存の融合体ハイブリッドを超えた超融合体ハイパー・ハイブリッドらしいっス」

「ああ……その辺のサメより上等な個体なのか」


 黒騎士ブラックライダーは殺したサメを使ったフカヒレ寿司を咀嚼しながら、サイレンを眺めた。黒騎士ブラックライダーの品定めをする目線でサイレンは怯える。またズボンを濡らすようなことになったら可哀想だと思い、威圧はしない。

 黒騎士ブラックライダーは途方もなく疲れていた。雷神中隊サンダーボルト・カンパニーとの激闘で血中寿司ニウムはほとんど枯渇し、渇き飢えながらもジャックとの合流を目指し歩き続け、その上でサンティアゴでの殲滅戦だった。

 サイレンが黒騎士ブラックライダーの圧倒的な級位レベルの差に怯え、寿司を交える前に土下座しなければ。黒騎士ブラックライダーは疲労と空腹で倒れていただろう。

 全盛期の性能ならばあるいは、と黒騎士ブラックライダーは考える。そしてないものねだりの考えを振り払った。飢えて渇くことこそが生物として自然なのだ。


「僕に降伏して、寿司連に居られなくなっただろう?僕について来いよ」


 黒騎士ブラックライダーは箸を置いた。黒騎士ブラックライダーの空腹は未だ満たされないが、サイレンの消耗を見て、これ以上寿司を握らせることはできないと判断したのだ。


「押忍!一生ついて行きまス!」


 サイレンは景気の良いことを言った。

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