第五話

 黒騎士ブラックライダーとの別れから一週間が経った。時々黒騎士ブラックライダーからは時折眠れないとか言って電話が来る。あっちは無事らしい。

 俺はブエノスアイレスの街並みで寿司連からの刺客に追いかけられていた。というのも世界大会の本選に大勢参加者が残ると面倒なのでこの際ガッツリ減らそうと思っているようだ。今回の大会における寿司連の仕込みは過去と訳が違う。南北アメリカ大陸の一般人の被害も大勢出るだろう。戦争とも言える規模で。世界の寿司均衡が崩れるぞ。いや違うか。参加者を多く出している国ほど寿司師が減るから、おそらく全体的に減る方向で均衡は保てるのか。それでも南北アメリカ大陸は確実に荒れるだろう。俺の知ったことではないが。

 ブエノスアイレスは陸を走るサメ、空を飛ぶサメ、地を泳ぐサメ、サメばかりだ。そんな中で個人勢の寿司師も協力関係を結ぶようになっている。


「ここは一つ協力しない?」


 連邦USSRのライカが俺に協力を持ち掛けてくる。山わさびをキメ過ぎて頭がおかしくなったのか?


「絶対にNOッ!」


 俺は走りながら、ライカの提案を拒否する。

 俺とライカはブエノスアイレスをサメに追いかけられていた。それも二匹。


「サメサメサメ!!この二級寿司師サンドシャークにお前たちは美味しく食われるのだ!」

「のだ!」


 砂っぽいサメと小さい砂っぽいサメが後ろに迫っている。

 裏路地に入って巻くぞ。裏路地の中にもサメ。


「二級寿司師ダークシャーク。参る」

連邦USSR革命親衛隊、一級寿司師のライカよ。とりあえずまあぎょく


 ライカが玉子を投げて、黒っぽいサメの脳を爆発させる。

 裏路地をそのまま進む。行き止まりだ。


「どーも。二級寿司師ウォールシャークです」

「三級寿司師、ジャック・W・ガルだ。死ね」


 こんな感じで街中をちょっと歩くとサメがうろついていて流石に相手していられなくなっている。大会にかこつけて連邦USSRの寿司師を殺している余裕がない。

 ウォールシャークとかいう壁っぽいサメには鉄火巻を突っ込んだ。一貫満腹で始末していかないと寿司ニウムも体力も持たない。

 俺がウォールシャークを一貫満腹で片付けたら、ライカは何処かに消えていた。一段落ついて俺と握り合うのは避けたな。砂っぽいサメの死体は転がっているので、俺がウォールシャークを片付けている間に二体倒したんだろ。


 ブエノスアイレスを抜け、近くの森で寝ることにする。

 寝心地の良さそうな木の幹の上に背を預け、寝る。敵襲は直感で感じ取る。世界大会で得た技能だ。寿司師たる者、寝ていようが敵の寿司ニウムを感じなければならない。

 周囲はもう日が落ちきっていて暗い。寝ようと思っているのに連邦USSRの寿司師が近づいてきた。連中は魂まで冷たい寿司ニウムが染み付いているので分かる。

 じゃあなんで俺はあのときスタァリンの寿司ニウムを感知できなかったんだ?今は関係ないが。


「貴様がジャックか?」

 

 包帯ぐるぐる巻きの熊が俺の寝ている木を殴り飛ばした。俺は木から飛び降りる。随分な挨拶だ。


「ああ。寝込みの一撃は受けてやったからお前名乗れよ」


 熊はその巨大な手(前腕か)で一気に三貫の寿司を投げてきた。玉子、サーモン、海老。ご機嫌なラインナップだ。一気に三貫を喰らう。


「私はエフゲニー。連邦USSR、革命親衛隊二級寿司師だ」

「じゃあ死ね」


 鉄火巻と納豆巻の巻き寿司二刀流。俺の基本戦法だ。

 対してエフゲニーは何も握っていない。どういうつもりだ?とりあえずまあ鉄火巻を投げる。エフゲニーの口に鉄火巻が突っ込まれ、俺は相手の反応を伺う。


「良い寿司だ。その若さでよく握れている」


 当たり前だろ。巻き寿司は初めて母に握った寿司だ。ガキの頃から握っているんだから、一番得意に決まっているだろ。


「では私も本気を出すぞ」


 エフゲニーが何処かから注射器を取り出し、自らに突き刺す。注射器の中にはピンク色の液体が入っている。濃縮大トロか。


キワミの寿司:ザ・ワールド・イズ・マイン」


 エフゲニーの巨体が更に巨大になっていく。木の高さを越え、ちょっとした雑居ビルほどの高さまで大きくなっていく。そして巨大化は止まらない。

 濃縮大トロに含まれる多量の寿司ニウムを呼び水に空気中や周囲の植物が含有する寿司ニウムを吸収し単純に巨大化している。


「もうここまで巨大化すると怪獣タイタンと呼ぶべきだな」


 おそらくエフゲニーは寿司ニウムを消費して、無限に成長している。寿司を投げても成長で消費し切ってしまうだろう。何か対処法を考えねば。


「寿司になるのは、貴様だ!」


 エフゲニーの巨大な掌に握られる。全身の肉と骨が圧迫される。そしてエフゲニーの口内に放り込まれた。

 万事休す。生命の危機に周囲の様子がスローに見える。何か、何か対処法は無いのか。

 

 『キュウリのように冷静であれ』


 母が寝坊して開店準備が間に合わないときに言っていたな。冷静になって臨時休業の札を店前に掲げ、店の裏で悠々と煙草を吸っていた。

 そういえばキュウリはほとんど寿司ニウムを含有しない野菜だったな。これに同じ寿司ニウムを含有しないゼロの炭酸を合わせれば。


「河童巻き」

 

 遅く感じる時間の流れの中で、河童巻きを握る。シャリにはゼロの炭酸をかけ、更に寿司ニウムの含有量を絞る。

 喉を通り、胃袋に堕ちそうだが、食道に河童巻きを突き刺す。

 食道が溶け落ち、外の世界が見える。外に落下する。受け身を取っても全身が痛い。いや呼吸するだけで全身に苦痛がする。


「貴様、何をした!?」

「何の寿司ニウムも保持しない、ゼロの河童巻きを食わせただけだ。消化で消耗し肉が崩れたんだよ」


 お前は河童巻きを食べて、飢えて死ぬ。気力を振り絞ってゼロの河童巻きを握っていく。

 

「まだだ!!こんなところで終わるわけには」


 エフゲニーの肉は崩れ落ちた。どう見ても死んだ。

 そして俺を睡魔が襲う。一日中走り回り眠るとなったタイミングで襲われ全身を痛めつけられた。眠らなければ回復しないが、敵地のど真ん中で爆睡するのか。もう一度起き上がることができれば良いと希望を抱き、逃れられないまどろみに沈んでいく。

 

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