第四話

 WWⅡの勃発を防げなかっただらしのねえ国連の後継組織として成立した寿司連。  

 寿司連が四年に一度開催しているのが、世界寿司死屍累々大会。

 等級持ちの寿司師が各国から集まり半分くらい死ぬ。


 マイナス二十度の冷凍庫の中で俺は寿司を握っている。相も変わらず黒騎士ブラックライダーは俺の寿司を旨そうに食っていく。テスラは早々に飽きて冷凍庫の隅で地球を持ち上げている。暇なのか?


「世界大会に出るなら、等級を持たなきゃなんねえんじゃないか?」

「それは大丈夫」


 黒騎士ブラックライダーはテスラに視線を向ける。


「俺が手を回して三級の免許を手配した。最低限の出場資格だが」

「ご苦労」


 ご苦労って目上の者が目下の者に使う言葉じゃないかと思うが。テスラは何も気にしてないようだった。


「大会で俺の手は貸せんぞ。野暮用がある」


 テスラは逆立ちしたまま腕立て伏せをしている。こうして見ても百歳を超えているとは思えないほどの筋肉と寿司ニウムのオーラだ。俺はテスラサウナや冷凍庫テスラフリーザーで修行している内にテスラの技量を適切に把握できるようになっていた。だが俺に感じることができるのは氷山の一角に過ぎないとも思える。


「俺の復讐は俺が遂げる」

「手助けするよ。僕にも僕の事情があるからね」


 黒騎士ブラックライダーの底は見えない。俺の感覚ではテスラと同じ程度に感じるが、実力でどちらが上か見えない。


「でもね。最後の一歩は誰にも任せちゃダメだよ」


 初めて知ったが黒騎士ブラックライダーはウィンクができないらしい。



 またしても身体能力フィジカルを中心にした修行を済ませた俺は大会のスタート地点であるプンタ・アレーナスにたどり着いた。南米のチリ南部の都市だ。風が強く、寒い。俺のタッグ(マネージャー、あるいはサポーターともいう)の黒騎士ブラックライダーは例の鎧を脱いで、今回は紺色のドレスに身を包んでいる。背中と胸元がガッツリ開いていて、丈が短い。下にスパッツ履いているから大丈夫と本人が言っていたので良いんだろ。

 俺たちはそのプンタ・アレーナスに設営されたスタート地点にいる。集まった寿司師は出身国別に集まっている気がする。人数は約一万人。寿司師は全世界に三千万人とされているので、本当に等級持ちの上澄みの寿司師しかここには居ない。


「あー……この感じは来るね。大統領プレジデントが」


 黒騎士ブラックライダーの寿司ニウム感知は鋭敏で、十キロ半径程度の距離はカバーできるそうだ。ふかしなのかマジなのかは知らないが、俺より広いのは間違いない。


「なんだ?開会の挨拶でもすんのか?」

「さあ?偉い人間のお話って大抵つまんないよ。僕はかわや行ってくるから、帰ってくるまで待ってて」


 黒騎士ブラックライダーはそう言って走ってトイレに行った。クソほど人が来ているので仮設トイレも設置されているがもう既に混んでいる。あの調子だとトイレ行ったら大統領プレジデントの話が終わるまで帰って来なさそうだな。

 俺もお偉いさんのつまんない挨拶とか聞きたくないのでバックレたい。

 そう思っているとクソでかい鳥が会場の上に来ていた。影が差してスタート地点一帯が暗くなる。


紳士淑女諸君レディースアンドジェントルメン、儂が来たぞ」


 クソでかい鳥の上から何者かが落ちてきた。これが大統領プレジデントか?

 合衆国USA大統領プレジデントにして世界最大の発明王、トーマス・Aアポカリプス・エジソン。

 寿司蓄電池バッテリーの実用化等により巨万の富を築き上げた。なんとか財閥の主であり、そして特級寿司師。寿司連の裏の支配者。

 大統領プレジデントは銀の髪を短髪にしていて、浅黒い肌だった。通常ならば目の白い部分が黒くなっていて、虹彩の色素は薄い灰色だ。見た目は青年のように見える。ニコラ・テスラより年上のはずだが。


「儂は無駄話をしに来たのではない」


 会場を囲むように何かが空から落ちてくる。

 巨大な円柱状の物体だ。土煙が凄い。


「貴様らはこの世界寿司死屍累々大会を生き残り、儂と戦う権利を得るため死に物狂いで生き残らなくてはいけない」


 世界寿司死屍累々大会は予選と本選がある。スタート地点から生き残り、期日までにゴールに着くことが予選だ。そこから本選の開催地で最後の一人まで握り合うバトルロワイアルが繰り広げられる。最初から最後までバトルロワイアルじゃねえか。チームとして本選に進む寿司師連中もいるが、参加者の半分は個人だ。


「世界寿司死屍累々大会、開幕だ!!」


 大統領プレジデントの開幕宣言に合わせて円柱が開いていく。中からは同一のデザインの巨大な人型が現れる。なんだ?巨大ロボか?大小の直方体が合わさった角ばったロボだ。巨大な包丁を持っている。鯨でも解体するのか?


「まずはこの雷神中隊サンダーボルト・カンパニーから生き延びてもらおう」


 そう言うと大統領プレジデントはクソでかい鳥に飛び乗り空高く消えていった。マジ?これからこの巨大ロボどもと戦うの?


「早かったな」


 黒騎士ブラックライダーが俺の隣にいつの間にか帰ってきた。


「はしたないからやりたくなかったけど緊急避難野ションしたんだ。面倒なことになりそうだったからね」


 黒騎士ブラックライダーはそう言うといつの間にか握っていた両刃剣を振るい巨大ロボを攻撃した。巨大ロボが吹き飛ばされ尻餅をつく。だが装甲の表面に裂傷ができただけで機能を停止したようには見えない。


「寿司ニウムの溜め無しじゃこんな威力か」


 巨大ロボはお返しとばかりに胸部のレンズから光線を撃ち返してくる。

 また他のロボたちも会場を押し潰すつもりか進撃してくる。他の寿司師は逃げる者と立ち向かう者がごっちゃになって混乱している。

 俺は押し寄せる人波に逆らい、巨大ロボに鉄火巻を向ける。


「勇気と蛮勇は異なるよ」


 黒騎士ブラックライダーが俺の肩を掴む。


「これまでの修行の成果確認に一握りでもしておこうかと思う」


「アレを無礼なめるな。今の君だと一貫で満腹即死だし、君の寿司じゃ届かない」


 そう言う黒騎士ブラックライダーの掌で、マグロの赤身が回転していた。


「ここは僕に任して先に進めよ。テオティワカンでまた会おう」


 黒騎士ブラックライダー雷神中隊サンダーボルト・カンパニーは巨大な黒い球体に包まれた。どうやら黒騎士ブラックライダー回転レボリューションを展開したようだった。

 しかし。黒騎士ブラックライダー回転レボリューションを何処かで見たことがある気がする。なんだこの既視感は。






 




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