第三話

「知らない天井だ」


 俺の目が覚めると貸切っていたサウナの天井ではなく知らない白い天井が広がっていた。点滴の濃縮大トロ液を引き抜き、俺がベッドから起き上がるとすぐそばに黒騎士ブラックライダーが居た。

 黒騎士ブラックライダーはマフラーを編んでいた。


「勝手に起きないでよ。まだマフラー出来上がってないんだから」

「誰がそのマフラーを巻くんだよ」

「君?」


 俺はあのロンドン塔でのライカとの戦いで全身を焼かれ、三日ほど寝ていたらしい。ミスカトニック大学の付属病院からタクシーに乗り、十分ほど走る。ミスカトニック大学構内にあるテスラ研まで来た。かの高名なニコラ・テスラが所長として寿司の未来を創造する発明をしているらしい。

 テスラ研の研究棟の一番上にある所長執務室でテスラと面を合わせた。


「これがテスラ」


 黒騎士ブラックライダーの紹介は雑だった。


「無等級寿司師ジャック・W・ガルです。どうも」


 テスラは今年で百四十を超える超ジジイのはずだが、外見年齢は二十代の青年のようだった。短めの黒髪を整髪剤で撫でつけていてオールバックにしている。寿司の研究を行っている施設の長であるためか調理服を着ていた。


「なんで俺ここまで来たの?」

「僕が君を育てたのはテスラ研にスカウトするためだったから?いや食べるため?」


 ここまで来てようやく俺は何故テスラ研まで来たのか黒騎士ブラックライダーに尋ねた。尋ねたが黒騎士ブラックライダーの返答は曖昧だった。あと俺を食べないで。


「まあテスラ見せたし修行するよ。修行」

「うっす」


 兎にも角にも修行だ。俺はまだまだ弱い。一級寿司師ライカ相手に勝ち切ることができなかった。あれはどうみても偶然に偶然が重なってなんとか薄い勝ち筋を掴めていただけだ。これでは復讐も糞もない。


待てステイ黒騎士ブラックライダー!」


 黒騎士ブラックライダーがテスラに対する興味を無くしたので俺たちはテスラに背を向けて修行場所に向かった。




 テスラ研の地下にあるテスラ式修行スペース(テスラ専用)。

 そこには冷凍庫とサウナがあった。俺たちは先ずサウナの方に入った。


「なんでバスタオル巻いているんだ?前の修行のときは全裸だったじゃん」

「テスラに見せるほど僕の裸体って安くないし」

「感謝しろテスラのサウナ、テスラサウナに」


 サウナの中、俺は黒騎士ブラックライダーとテスラに挟まれている。

 七十九インチ約二メートル近い黒騎士ブラックライダーが俺に寄りかかると威圧感が凄まじい。前回の修行で全裸を飽きるほど見たので、集中を乱される俺ではない。というか母親が爆発したときからモノが起たない。

 サウナの明らかに百度を超えた温度の中でも俺は常温の寿司を握る。


黒騎士ブラックライダーが拾ってきただけあってジャック君は見所がある。テスラサウナの中で程良い温度の寿司を握れるとは」


 俺の握った寿司をテスラが次々と食らっていく。


「で、君の中でまだ怨讐の焔は燃えている?君は連邦USSR書記長スタァリンの頭を吹き飛ばす?」

「当然だ」


 黒騎士ブラックライダーは当然のことを聞いてきたので、当然と返す。母がどうして死んだのか。俺はまだ納得していない。納得できなきゃ店に帰れない。

 というかあの赤い宇宙服の奴が連邦USSR書記長スタァリンだったのか


「じゃあ君は世界寿司死屍累々大会に出なきゃならないね」

連邦USSRは大会に革命親衛隊の精鋭を出場させてくるはずだ。ジャック君の復讐としてもちょうどいいのではないか?」


 世界大会、大会にかこつけて連邦USSRの寿司師を大勢殺させてもらう。





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る