第二話
「今の君では
「これで本当に
水風呂の中で寿司を握り初めて早四時間。暖かい温泉が恋しくなってくる。サウナでもいい。
「テスラは新大陸に来る前、地元でこれやっていたらしいよ」
鎧を脱いだ
「じゃあ続けるか」
「明日は休憩時間以外ずっとサウナに入ってもらうから今のうちに涼んでね」
サウナと水風呂を交互に浴びる生活を六日続けると、俺の血中寿司ニウムの保有上限はだいぶ上がっていた。
「
鎧姿の黒騎士が玉子を出してくれた。
俺は
修行の成果確認として占拠されたロンドン塔に襲撃を仕掛けたのだ。門を突破したところで大勢の寿司師の待ち伏せを受け、全部俺が
今日の天候はロンドンにしては珍しい晴れで絶好の襲撃日和だった。
「旨い」
「でしょー。じゃあ僕は
一人に戻ったわけだが、俺の体調は万全。革命親衛隊の寿司師相手でも十分握り合えるだろう。
ホワイトタワーに入り、有象無象の寿司師を撃破し、屋上に上がる。
「活きの良い侵入者が来たと聞いたけど、細長いだけじゃん」
ホワイトタワーの屋上には犬耳の生えた銀髪ショートカットの
「俺が細長いだけか、試してみようぜ」
俺は両手でそれぞれ寿司を握る。巻きで行く。右手に鉄火巻き。左手に納豆巻き。
「アタシは一級寿司師ライカ。さあアンタも名乗りなさい」
ライカの小っちゃい掌にはすでに玉子が乗っている。いつの間に握ったんだ。見えなかった。
「無等級寿司師ジャック・W・ガルだ」
寿司師は最高位である特級から数えて一級、二級、三級がある。上の等級になるほど寿司で実現可能な現象が多いとされている。ここ
「えっ、マジ?そんなのにうちの寿司師削られたの!?」
俺が無等級の
左手の納豆巻きを投げつけ、右手の鉄火巻きを両手で保持し間合いを詰める。
「なかなかの
ライカが納豆巻きを事もなげに完食する。これは想定内だ。俺の技量じゃあ一貫満腹は狙えない。だがあれはなんだ?ライカの掌の玉子が回転している!?
「
空間が何かに浸食され、変貌する。黒一色の空間。地面は巨大なフライパンに変わり、ライカは宙に浮いている。
「そうね。アンタはしっかり両面焼いて上げる」
フライパンは高熱を発し、俺は焼かれる。タダで死ねるか。お前も道連れだ。
鉄火巻きを握り直す。寿司ニウムを鉄火巻きに集中する。一貫入魂。
「無駄よ。分かってないわね」
ライカは俺の鉄火巻きを奪い取り、何ということもなく食べきった。並みの寿司師なら頭が吹き飛ぶ量の寿司ニウムを握ったはずなのに。
「
そして玉子が飛んでくる。
「
ライカが
全身が燃えてきた。万事休すだな。この状況で俺は寿司を握れるのか。
いや握る。
「山わさび巻きッ!!」
「辛ッ!!」
寿司ニウムによる爆発死が狙えないなら、山わさびで感覚器官を攻撃し、できた隙で普通に殺す。寿司を喉につめて窒息死を狙う。
だがしかしそんな簡単な話じゃない。フライパンが動き、俺を宙に飛ばす。頭から焼き殺すつもりか?
「ゴホゴホ!!だけどここは!ゴホッ!アタシの
俺はフライパンから飛ばされ、落下しまた飛ばされる。態勢を立て直す暇もない。けっこうむせているようだが、フライパンの動きは激しい。少しでも受け方をミスると首の骨が折れて死ぬ。
「あれ?けっこう押されている?」
宙に亀裂が入り
ライカの注意が
「死ね」
山ほどワサビを塗ったシャリ玉を口いっぱいに詰める。
そのちっせえ体格からは有り得ない腕力で吹き飛ばされる。フライパンの上に逆戻りになった。だが、フライパンも空間も霞んでいく。
元の空間、ホワイトタワーの屋上に戻った。
「時間切れだね」
「まだまだ俺は元気一杯だぜ!!」
焼かれたり、フライパンの上で転がされたがまだ戦える。えづいているライカにゆっくりと近寄る。もう立って歩くだけでもかなり根性がいる。視界も揺れている。
空が光って俺とライカの間に何かが落ちてきた。
「ここは引くぞ、ライカ」
赤い宇宙服に身を包んだ奴がやって来た。なんだ?相手の寿司ニウムが感じられない。俺の寿司ニウム感知は大して感度がないが、この距離で感じられないことがあるか?
「ゴホゴホ!!ゴホ!ゴホッ!……ここから勝ちます!まだ戦わせてください!」
ライカも強がりを言っているが、たぶん俺がこのまま寿司を食わせ続ければ殺せる。宇宙服の奴はライカの強がりを無視する。
「僕は追撃する気ないから帰っていいよ、
「俺は……スタァリンだ。お前だって今は
スタァリンはライカを抱えて飛んで行った。
俺の意識はそこで途絶えた。
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