第3章 開店
1.令嬢の悲劇 1
翌日、朝 9時頃
目の下に隈を作ったシェズが店に立っていた。
見たことの無い銃型の魔法具と格闘していたら、いつの間にか朝になっていたのだ。
使われてる素材を確認する事が出来たのは良かったが、歯車とは違って複雑な形をした部品ばかりだった。
また、壊れたら直して欲しいと依頼されたものの…壊れ方が人の手による破損粉砕…
「(あの野郎!絶対に許さない!!)」
シェズを捕まえる為だけに自分で魔法具を壊して直させると言う…最悪な依頼だったのだ。
しかも厄介な事に希少素材が使われている。魔法具なので魔鉱石も必要、幸いなのかアッシュロードの懐中時計を直したのに使う希少素材『フランティスア』が必要ともわかった、在庫があるので採掘しなくていい、この依頼が終わったら採りに行こう。
「(参ったなぁ…依頼を完了させても死が待ってる…出来なかったらデマを流すかも知れないからな…あちらは私を魔女だと気付いてる、警戒してる事を顔に出したら面倒だ…)
はぁ…落ち込んでても仕方がない、仕事に集中だ」
シェズは勢い良く両頬を叩いて活を入れて、店を開店させた。
客の前で赤くなった両頬を見せる訳にもいかないので速やかに癒していた時だった。
「いらっしゃ「今すぐコレを直してちょうだい!」へ?」
華やかな赤いドレスを着た貴族の女性が慌てた様子で入ってきた。慌ててると言うよりは焦ってるようだった。長い金髪に紫色の瞳をした美しい女性だ。
「落ち着いてくれ、取り敢えずこの紙に記入を」
「そんな事してる場合じゃないの!早く!早く直して!」
あまりにも急かして来るのでシェズは道具を取り出してその場で修理を始めた。
「これは少し時間がかかるな…明日「1時間よ」は?」
「1時間で終わらせて、倍で払うから1時間で終わらせてちょうだい」
「(昨日から無茶ぶりが多いな…これも仕事だ、仕方がない)わかった…その代わり貴方も事情を話してもらう」
「わ、わかったわ…」
彼女の名は『クレア』、ラナリア帝国の公爵令嬢とのこと。
今日は城で皇族が主催するパーティーがあるが、案内された部屋から怪しい者が出てきて、彼女を見て怪しく嗤いながら出てきたらしい。
そして中に入ると、ドレッサーの前に壊れたら懐中時計が置かれてた、クレアは青ざめて、大急ぎでシェズの店に来たのだ。パーティーは1時間後に始まってしまう、だから大急ぎで直して欲しいと言っていたのだった。
事情を知ったシェズは気の毒そうに思いながらも作業を早めた。
どうしようどうしようと呟くクレア、聞けば彼女は皇太子の婚約者らしい。
その懐中時計も彼の物のようだが、壊れた状態で置かれていた事に心当たりがあるらしく…
クレアは小さく「あの女に嵌められた…」と言った。
クレアと皇太子が一緒にいる時に必ず一人の令嬢が邪魔するように現れるとか…
また、皇太子が居ない時はクレアの近くで一人で転んだり、モノを落としたり、わざと泣いたりと…周りにクレアが彼女を虐めてると思わせるような行動をしていたとか…
クレアとその令嬢は親しい人物ではなかった。しかしあちらはクレアを最初から知ってるような様子で、何かとクレアと皇太子に絡んできた。クレア一人の時は不思議に思いながらも避けていた…
令嬢は皇太子の身体に勝手に触れたり、腕を組もうとしたり、婚約者でもないのに我が儘を言ったりしていた…流石のクレアもそれは許せなかった。
令嬢に戸惑いながらも許す皇太子も許せなかった…しかし変に動けば彼の場合は人々からの信頼を失ってしまう…クレアはわかっていたが許せないと言った。
まるで若者に流行ってる恋愛モノのような出来事…身近な所でも発生してたとは…
そんな事を思いながら作業をしていたら、いつの間にか終わっていた。しかしあくまで応急措置なので後からまた壊れてしまう可能性は十分ある。
一応直った懐中時計をクレアに渡してシェズは説明した。
「クレア令嬢、私がやったのはあくまでも応急措置だ。今は大丈夫だが、パーティーが終わった後に動かなくなったり、後から壊れたりする可能性は十分ある。だからパーティーが終わったらまた来てくれ、支払いはその時の状況で決めよう」
「わかったわ…ありがとう」
心クレアは懐中時計を見て落ち着いた様子で礼を言い店を出た。店の前にはクレアの家の馬車が停まっていたが、少しすると動き出した。
かかった時間は40分、なんとか間に合って良かった。
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