10.依頼人は魔女狩り?

 数日後、朝

 クリスティナとアッシュロードがやって来た。

 開店はしていなので客はいない。


 前回言われた通り、クリスティナは窓を叩いてシェズを呼んだ。彼女に気付いたシェズは扉を開けて2人を中に入れた。


 クリスティナから話を聞いたであろうアッシュロードは…意外にも落ち着いていた。というか、今まで通りだ。無理してる様子は一切無い。



「それで、彼に話したんだろ?」


「えぇ、話したわ」


「反応は?」


「えっと…」


「シェズが強い理由がわかった、それだけだ」


「!?!?」


「ね?反応に困るでしょ?」



 確かに反応に困る答えだ。

 アッシュロードは優しいが敵には厳しい。しかし彼から魔女を侮辱するような発言は一度も聞いたことがない。



「実はな、前に話したお世話になった婆さんなんだけど、その人…魔女なんだ」


「「!?!?」」


「結構長生きしてる魔女でな、オレのいた村を守ってくれてた良い魔女なんだ。アイツらグラン達も知ってると思う…

 この国から結構遠くにある小さな土地だから魔女狩りに見つかってるかどうかはわからない…。

 アイツらが魔女狩りに婆さんの事を話してるかも知れないから…安心も出来ない。でも故郷からの手紙で婆さんが亡くなったとかも知らされてないから無事だと思う」


「なるほど…」


「すぐ近くに魔女がいたから危険性は誰よりも知ってるって事ね。アンタが出会った魔女は皆良い人だったから良かったけど…」


「もちろん悪い魔女に会ったこと有るし倒した事もある」


「へぇ~…」



 意外にも沢山の魔女と会ってきてたようだ。

 それでシェズは良い魔女と判断とされ…魔女狩りに伝えてないのだろう。


 

「魔女狩りに私を報告すれば大金が貰えるぞ?良いのか?」


「グラン達ならそうした。でもオレは魔女が全部悪って訳じゃ無いのを知ってる。

 オレが良い魔女の婆さんに世話になったみたいに、魔女に助けられた人間も居るはずだ。

 その関係を壊す為に大金を与えるとかの制度なんだろう…


 オレは金なんて要らない、欲しかったらとっくに婆さんを売って大金を貰ってる。


 シェズは強くて良い魔女…だと思う。今は魔女は身を隠してるから本性を見抜くのが難しいから上手くは言えない…けど、良い魔女なのは確かだ。

 人を傷付けるのを好む魔女ならとっくにオレとクリスティナは殺られてるから…」


「確かに」


「……」



 魔女に助けられたアッシュロード、事情を知っても友人でいる事を選んだクリスティナ…

 魔女狩りがいる世界でも…魔女を守ろうとする人間がいた…


 確かに悪しき魔女ばかりじゃない、良い魔女も中立する魔女…見習い魔女とかも…


 アッシュロードは本当に良い人だ…そして優しすぎる…そこが気に入らなかった元仲間は彼を侮辱したが周りからの反感を買うだけだった。



「ホント、私を売れば大金が手に入ると言うのに、君たちは大金よりも魔女を庇うのか」


「魔女でも一人のヒトでしょ?ヒトを売ってまでして得たいモノって有る?」


「オレは魔女に世話になった人間だし、魔女の危険さを誰よりも知ってるつもりだ。

 オレは自分の目と心で判断する。人生が変わる金なんかいらない」


「…ありがとう」



 しかし人間の優しさを否定するように魔女狩りは最悪な取引を持ち掛ける…

 ウィアと人間でありながらもライバルだったウォルドレ…魔女狩りは2人の仲を壊すようにウォルドレの借金と大金を持ち掛けて魔女ウィアを売らせた。


 この2人が目をつけられなければ良いが…


 その後、アッシュロードとクリスティナは笑顔で店を出て行った。

 店にはシェズ一人、開店の準備を再開させた。


 ☆★☆★☆

 数時間後、客足が落ち着いた頃だった。

 誰かが店に入ってきた。扉に着けた鈴の音に気付いたシェズは扉を見た。


 そこには…黒い髪に赤い瞳をした若い男性が居た。

 こちらをジッと見てるが、シェズは気にせず手元にあった書類を片付けて接客を始めた。



「いらっしゃい、此処は魔法具と時計専門の修理屋だ。依頼ならこの紙に記入を」


「……」


「……」



 シェズの手元には赤ペンで印を付けられた書類が数枚、どれも修理が終わり依頼人が取りに来たモノだった。

 男は記入をしながらシェズを見ている。睨まれてる訳ではなく探ってるようだ…

 クリスティナやウォルドレのような勘が鋭い者はすぐに此処が魔女の店だと気付く…魔女狩りもそうだろう。



 男は記入を終えるとシェズに紙を渡した。

 紙を受け取り確認をしてる時だった…



「(帝国の軍事組織の人間か、依頼のモノは銃型の魔法具、そうなると…)では1ヵ月後に「魔女か?」は?」



 此処は勘が鋭い者しか居ないのか…依頼人達の中で鋭い者はいなかったが… 


 どうする…正直にそうだと答えると魔女狩りに報告される、否定すると後が大変だ…

 …様子を見るしかない。



「…何故そう思う」


「ただの人間ではないみたいだな」


「答えになってない」


「依頼は2週間で終わらせてもらおう」


「無茶を言うな」


「魔女なら出来るだろ」


「…(なるほど出来たら魔女、出来なかったら二度と来ないと…これは難しいな)素材の事もある、3週間でどうだ?」


「2週間だ」


「(維持でも2週間でやらせて魔女かどうか判断したいのか。

 参ったな、依頼人の頼みは無理な事以外は引き受けてるが…これは厄介だ。出来たら魔女と見なされるし、出来なかったら客からの信頼を失う…

 一番良いのは(アッシュロード達は勝手についてきたが)素材集めに同行してもらう事だが、それを頼んだら余計に怪しまれるな…

 どうしても私を魔女にしたいみたいだ、大金狙いではないようだが……


 あぁ…なるほど…この男は一般人に扮した魔女狩りか…)」



 あの時襲いかかってきた魔女狩りも深紅の瞳をしていた。

 ハッキリとはわからなかったが、体格も目元も…似ている気がする。

 まさかの依頼人に扮した魔女狩りに遭遇してしまうとは…


 こうなると素材集めの同行をしてもらうのはかなり危険だ、魔物の討伐をしてる最中にシェズが殺られる可能性も高い…


 相手は気付かれて無いと思ってるようだ…これはチャンスではあるが、一歩間違えたら魔女狩りに処させる…


 どうしよう…ホントにヤバい…まさか魔女狩りが依頼人とは…


 常に冷静だったシェズだが…流石に今回は焦ってる。


 取り敢えず…彼の問いに答えなくては…



「(仕方がない…)わかった、では2週間後にまた来てくれ、支払いもその時に」


「答えるまで随分遅かったな」


「こちらにも事情があるからな(魔女狩り相手に平常でいられるか)」


「なら契約成立だ、2週間後にまた来る」


「あぁ…(借金取りか!流石裏世界の人間…あまり邪険に扱わない方が良いな…)」



 何とか難を逃れられたが…手元にある依頼の品を見て情けない声を出した…



「んだよこれぇ…2週間で直せる訳ないだろぉ~…」


 ガクンッと受付机で項垂れるシェズだった。

 幸いにもあれから客が来なかった。



 まさか魔女狩りが依頼人に扮して来るとは…これからが大変だ…

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