7.まもなく開店…のはずが

 あの騒動から数日後

 シェズは【西エリア】に移って開店の準備をしていた。

 看板、装飾、ライトの確認をしていると街行く人々に声をかけられたりした。


 使用人を連れた黄色いドレスを着た貴婦人が声をかけた。



「あら?初めて見る店ね、何の店かしら?」


「時計と魔法具専門の修理屋です。数日後に開店いたします」


「まぁそうなの。いつかはお願いするかもしれないわ」


「お待ちしてます」


「フフッ」



 流石貴族、目の付け所が違う。

 時計(主に懐中時計)は貴族が所持するアイテムだ。これまで時計の修理の依頼のほとんどが貴族だった。


【西エリア】は物静かなエリア、貴族が多い【北エリア】と【中央エリア】に面してるので貴族もこの辺りを歩いてる事もある。

 シェズがいるのは【西エリア】の中心の辺り、一番近いのは【中央エリア】だろう。



 此処の建物は見た目が良かった。ローゼンベルクのような不気味な建物で無いので人受けも良い。

 荷物を運び終え、後は店の掃除だけとなった。

 その時には既に日が暮れていた。

 アトリエに戻って入浴をして早めに就寝した。



 ☆★☆★☆

 …また夢を見た…



「お辞めください!――様!」

「なりません!今――」

「聞いたか?――様は――らしいぞ」

「何でも――は―――」


「……全然わからん、何だ今の夢は…」



 会話が途切れ過ぎてて内容がさっぱりだ…今回は心臓が痛むこと無かったが…困惑しかない夢だった。

 そもそも、こんな夢を見るようになったのはラナリア帝国に来てからだ。


 帝国とシェズに繋がりが有るのかはわからないが…これを経験した事は一度も無かった…。

 会話は途切れ過ぎててわかない、場面も急に変わって内容がさっぱり…


 …だが、コレがただの夢では無い事は確かだ、何か意味があってシェズに見せてるのかもしれない。



 前回のと合わせて考えてみると…

 立場が高い人間が何かを捨てるよう部下に命じており、何者かが誰かが実は…って感じのモノだろう。


 部下は捨てるモノに対して少し躊躇ってるようだったので恐らく【物】では無い…力ある何かだ…。



 もっと言ってしまうと…はっきりとわかるのは、喋ってる者の顔は全くわからない。顔の辺りは黒くなっててわかない、服装もぼやけていて何を着てるのか判断が出来ない。



 だから何処で何を捨てるよう言ってるのもわかない…


 現実で探そうにも手掛かりが少なすぎる…



「(やめよう 考えても時間の無駄になるだけだ)」



 考えることを止めて体を起こして身支度をした。

 今回は朝に起きたので朝食も食べた。



 パンを食べながら今日の予定を組み、素材と部品を確認してから店に行くことにした。


 アトリエの扉から何時でも店に行ける、アトリエを出たら店の中に入れるので移動が楽だ。

 箒で床を掃き、窓を拭いた。

 魔法でやればあっという間に終わるが、魔法を使う女性は異質だど判断され魔女狩りに知らされ…(本物の魔女だが)魔女と扱われて捕まる…人前で魔法が使えない状況なのだ…。


 手間だが普通の人間だとアピールし、目立たないようにしなくては…。



 全身に…いや存在に認識妨害魔法をかけてるにも関わらず良からぬ人間に絡まれてしまうのは何故なのか…

 一応効いてるのか魔女だとバレた事は一度も無い…が、何処まで妨害出来るかはわからない。


 クリスティナの【鑑定】が一番厄介だ

【鑑定】は嘘を見抜き真実しか出さない…

 シェズが必死に隠してるのは『破壊の魔女 ギデオン』…本当の魔女自分だ。

 エルフ達に名乗った『歯車の魔女 シェズ』も魔女なので変わらないが、魔女達からは聞いた事の無い存在…魔女だが偽りの魔女だ。本名はギデオン…シェズと言う魔女は存在しない…


 このギデオンが【鑑定】に出たら終わったも同然…魔女達にとって『ギデオン』と言ったらシェズ彼女だけしか思い浮かばないだろう…

 元聖女のクリスティナが魔女と繋がってなければ良いが…

 聖女として魔女対策として魔女につい…ギデオンの事も教えられてても可笑しくないのだ

 かなりヤバい…


 単なる活発な元聖女な格闘家なら良かったが…【鑑定】持ちの元聖女なら話が変わってくる…

 魔眼かどうかを【鑑定】された時、一応ギデオンの情報は出なかったようだが、シェズ個人を【鑑定】されたら防ぎようが無い。


 真実を暴く能力…童話に出てくる真実の鏡や神秘の水とか…それらと同じくらい恐れられてるモノだから。


 たとえクリスティナの【鑑定】を防げても、【鑑定結果】までは防げない。出来ても彼女が見る前に物理的な妨害くらいだ。



 そんな事を考えながらも作業を進めるシェズ、アトリエから素材と道具を店の奥の部屋に移している時だった。



 扉に付けた鈴が鳴った、誰かが来たようだ。



「やっほ~ こっちのギルドに用があったからついでに来ちゃった」


「クリスティナ、まだ開店すらしてないんだ。用件があったら窓からにしてくれ」


「ゴメンゴメン!次からはそうするわ」


「…まぁ、今回は誰も居なかったから良かったが、盗人に見られたりしたら大変だから次からは控えてくれ」


「わかったわ!」



 やっk友人?クリスティナがやって来た。


 そう言えば、聖職者は【魔女】を感知出来るとも聞いた。魔力で聖職者を気絶させられるが、それは聖職者も同じで魔女や悪しき存在は聖職者の【聖力】で倒す事も出来るとか。


 初めて会った時、シェズはクリスティナの聖女の聖力と魔力のぶつかりで痛みを体験した…。

 こちらが抑えていたから彼女に痛みが走る事は無かっただろうが、気を使わないとクリスティナを殺めてしまう…。


 一番楽なのは…彼女に魔女だと明かす事…

 バレたくないが、クリスティナを殺めたくない…

 人の命を奪うよりプライドを捨てる方が絶対に良い。


 だからと言って、カミングアウトした途端クリスティナが魔女狩りに報告しないとは限らない。


 魔女狩りに魔女だと告げられたらクリスティナには一生分の大金が与えられる…大金欲しさに報告されたら終わりだ。


 クリスティナは聖女とはいえ聖人、善人って訳でもない。敵や魔物に容赦しない、悪しき存在だと見なされたらすぐに行動に移る人間である…


 カミングアウトしてもその後が大変なのた…



「良い場所ね~ まだ壊れたモノとか無いから来ないけど、壊れたらすぐ依頼に来るわ」


「あぁ 待ってる」


「フフッ っても、ちょっと面倒なエリアね…。【中央エリア】の事話したかしら?」


「いや、貴族が多いとは耳にしただけだ。君からは何も」


「わかったわ。そうね、簡単に言うと…皇族に忠誠を誓ってる【帝国派】っていう貴族ばっかりがいるエリアよ。派閥とかは面倒なモノは無いと思う…

 なんでも『片割れ様』ってのを血眼で探してるそうでね…」


「はぁ…また面倒なモノだな」


「生まれも育ちもこの国だけど、変わってるって思っちゃう。

 何でも魔女狩りに対抗してるとか、皇太子がどうとか…よくわかんない事ばっかりしてるの」


「魔女狩りに?…皇族に忠誠を誓ってる貴族が多いエリアって…この国の貴族全てが誓ってないのか? 魔女狩りを信仰する貴族もいるって事か?」


「うぅん…そこの詳しい事はわかんないけど、なんか大昔に起きた戦争が原因らしいわ。魔物との戦争も多かった時代だからどの戦争を指してるのかはわからないけどね」


「そうか…」


「だからこれだけ言っておくわ、【中央エリア】は気を付けなさい。そこの人全員にも…」


「わかった。ありがとう」


「フフッ 忠告したからね」



 本当に寄り道として来たようだった。


 今回も彼女に攻撃する事は無かったので良かったが…申し訳ないが傷付けたく無いので早く帰ってほしい。

 気さくで活発な所が彼女の良い所だ。しかし変な所で感に鋭く毒を吐く…敵には容赦しない…彼女とは敵になりたくないな



 失礼な事を考えながらもクリスティナの動きを見るシェズ、クリスティナは用が済んだのか背を向けて歩き出そうとした


 …時だった。



「シェズ、あなた魔女でしょ?」

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