「ハ、ハハハ…アッシュ、お前はホントに馬鹿だ。女と一緒に居て可笑しくなったんだな。

 素直に「戻らさせていただきます」って言えば周りの奴らには手を出さないが、隣の女はもらうがな」


「外道が!!殴ってやる!」

「……」


「諦めが悪い!」

「さっさと出ていけ!」

「誰か兵士を呼べ!不審者だ!」

「いや!危険人物よ!!」


「ホントに馬鹿な奴だ…アッシュロードを解放してくれた事には感謝だ」

「全くっす!」


「皆落ち着いてくれ、オレがやる…」


「アッシュ様…」

「良い人すぎる…」



 あまりにも酷すぎるグランの発言にまたしても怒りを爆発させるクリスティナと帝都の人々、それでもアッシュロードは冷静だった。

 もうミラには発言する力は無い、リリィーはアッシュロードを睨み付けてるだけ…。


 おぞましい発言をしたグランだが…情けない表情をしながら近づいて来た。

 アッシュロードの目の前に立ち、クリスティナではなくシェズを見て腕を掴んだ。



「はっ!善人ぶるなよ!お前には何も出来やしない!お前みたいな雑魚には女一人を助ける事も満足させる事も出来ない!」


「……」


「よく見れば良い女じゃねぇか!その目は気に入らねぇが、たっぷり可愛がってやるよ!」



「(さて、どうするアッシュロード?

 下手に反撃をしたらこの男の腕が殺られるから私は動けない。

 オマケに人が集まり過ぎてる…魔女だとバレる可能が高まったな…クリスティナを先にしなくて良かったな、掴んでたら顔面に一撃が入ってただろう)」



 掴まれても冷静なシェズがチラリとアッシュロードを見た直後…激怒したアッシュロードがグランの顔面を思いっきり殴った。


 顔面が派手に凹み、勢い良く吹っ飛んだグランは信じられないモノを見たような反応を見せた。グランだけじゃない、ミラとリリィーもだ…


 これまでどんなに嫌がらせをされてもキレなかったアッシュロードが…怒りを爆発させたのだ。



「その人に触るな!お前が触れて良い人じゃない!クリスティナにもだ!!帝都の人々にも触るな!!」


「「「!!!」」」



 そう叫んだ直後、グラン達は胸を押さえるように踞った。

 平原で魔女狩りの男を止める時に使った能力と同じモノだ


 確か彼の能力は仲間を守りたい、敵に勝ちたいって思った時に発動する能力だった…

 新しい能力だと思っていたが、どうやらアッシュロードの【革命の戦旗】みたいだ。


 アッシュロードは苦しむグランに近づき、もう一度殴った。

 もうミラとリリィーは何も言わない…アッシュロードはギロりと彼女達を睨み付けた。

 泡を吹いて動かないグランをミラとリリィーに投げつけて…口を開いた。



「二度と勇者と名乗るな、お前達は勇者パーティーでも何でもない、ただの薄汚い連中の集まりだ。

 オレはお前達が魔王を倒してくれる信じてた、でもこの有り様だ、信じたオレが馬鹿だった…」


「ア、アッシュ…」

「嘘よ…」

「……」



 直後帝国の兵士がやって来てグラン達を連れて行った。


 彼らの罪は重いだろう…勇者の紋章が無いにも関わらず勇者と名乗り、帝都の人々に危害を加えようとしたのだから…

 最後…ミラはアッシュロードの方を向いたが、アッシュロードは睨み付けて背を向けた。

 彼を見たミラは絶望し…項垂れたのだった。



「さよなら、お前達との旅は悪くは無かったよ」



 そう言ってアッシュロードは帝都の人々に謝罪をして頭を下げた。

 自分のせいであのような者達を招き入れてしまった事、人々に危害を加えそうになった事を謝罪すると、人々は彼に拍手をしアッシュロードを称えた。



 帝都【東エリア】はアッシュロードを称えた小さな祭を開催し楽しんだ。


 勇者でも最強の冒険者でなくても、英雄でなくても、彼は人々に愛された。

 彼を称える人間は沢山いる、彼を馬鹿にする者は居なかった。


 クリスティナとシェズも参加したが、シェズは少しだけ参加して帰った。


 平和だった時間を壊したグラン達、もう帝都には居られないだろう。彼らが逆恨みで襲撃をしてくる事も無いだろう…もう彼らの居場所は無い…お尋ね者、危険人物となったのだから…。


 こうして一人の勇者が消えた…勇者とその仲間達も称号を失った…



「勇者が消えたな…魔王の手でなく自分達の手でな…やはり一番恐ろしいのは人間って事か」



 優しい人を怒らせてはいけないとよく聞く、まさにそれだった。


 滅多に怒らないアッシュロードを良いことにミラとリリィーはアッシュロードを侮辱していた。

 しかし彼にとって最も許せないのは暴言でも罵倒でもない。


 大切な人を傷付けられることだ。


 シェズとクリスティナと言う友人、そして帝都の人々…仲良くしてくれ青年冒険者達…彼にとっては勇者の称号よりも…比べ物にならないくらい大切な存在だった…。


 もうアッシュロードは大丈夫だ、彼なら【東エリア】でやって行けるだろう。

 クリスティナも刺激ある冒険を楽しめてるようだし、アッシュロードの良い相棒にもなるだろう。



 …シェズは【東エリア】を離れる準備をした。


 彼女が修理屋を開く場所は【西エリア】だ。

 物静かな場所ではあり、魔女狩りの情報もない。


 部品も素材も…十分すぎる程集まった。やっと修理屋が開ける。


 また変な人間に捕まらなければ良いが…


 ★☆★☆★


 あの後の事だが、元勇者パーティーだったグラン、ミラ、リリィーだが、重い処分を受けたそうだ。

 全冒険者ギルドでの出禁、冒険者ライセンスの剥奪をされ、更には帝都の滞在も認められず、装備と武器を全て没収された状態で狂暴な魔物で溢れる土地に放り出されたそうだ。


 そして…彼らが逆恨みでアッシュロードを襲いかかる事も二度と姿を現す事もない…


 何せ、帝国の魔術師によってアッシュロードの記憶を全て消されたのだから……


 彼らがアッシュロードを見つける事は二度と出来ない…


 そして…グラン達の姿を二度と見ることは無かった。



 ★★★★


 …場所が変わって…【西エリア】


 黒い軽装に黒い髪、深紅の瞳をした者が帝都を歩いていた。

 すれ違う女性達は一目惚れしたかのように顔を赤くしていた…。

 それは男性も同じだった…


 明らかにただ者では無い…そんな人物の横を紺色の髪に金色の瞳をしたが通り過ぎた。


 その青年の耳には赤い水晶の耳飾りがあった…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る