6.消失勇者 1

 それから数日後 ついにあの時から1ヵ月経った。


 あの時と同じカフェにシェズは居た。

 しばらくするとアッシュロードがやって来て、後から何故かクリスティナもやって来た。



「ひさ「久しぶり~!」」


「あぁ、久しぶり…と言っても数日ぶりだな、書類は有るな?」


「あぁ、ちゃんと用意してきたぜ」



 アッシュロードが書類を出すのと同時に、シェズは書類と白い箱を取り出した。

 今回も防音魔法を張ってるので聞かれる事はない。

 クリスティナは2人の邪魔をしないようにケーキを食べていた。



「では、こちらの修理は終わった。自分の手で正常か確かめてくれ」


「わかった…わぁ…すげぇ」



 アッシュロードが箱を開けると金色に光輝く懐中時計が…自分の物なのにお宝を発見したような声を出す彼だった。


 彼は懐中時計を手にしてボタンを触ったり、耳に当て長針の音を確認したりと様々な確認をし、最後に目を輝かせて喜んだ。



「すげぇ…スゲェよ!やっぱりシェズが【歯車の修理士】だったんだな!時計屋の店主も修理屋も出来ないって言ってたのに…ありがとう、ホントにありがとう…」 


「どういたしまして、これが仕事だからな。それで喜んでる所悪いが、支払いだが」


「あぁわかってる、えっと…普通の懐中時計だから…コレで良いな?」


「あぁ、ちょうどだ。またのご利用を」


「おう!」


「す、凄い…さっきまで知り合いのやり取りだったのに…急に修理士とお客さんの関係になったわね…アタシも何か壊れたらお願いしようかしら」


「私は時計と魔法具専門だ、それ以外は他を当たってくれ」


「時計と魔法具ね、わかったわ。今度壊れたら持ってくるわね」


「あぁ」


「これで返せる…あの時…終わったと思った…」


「お、お宝見つけた時よりも嬉しそうだわ…」


「宝よりも思い入れの有る品だからな、こちらも直すのに少し苦戦したが、満足してもらえて良かった」


「へぇ~」



 いつの間にかケーキを5皿食べていたクリスティナ、シェズはコーヒーを飲んだ後…に入った。


 テーブルの上に書類や懐中時計が消え、後から頼んだ注文した料理を食べながら話をした。



「ここからが本題なんだが、アッシュロード、君は…パーティーで嫌がらせを受けていなかったか?」


「!?」

「!!」



 思わぬ発言にフォークを落としそうになるアッシュロード、クリスティナは何が何なのかわかってるいなかったようだが、【ミトラフィア】を思い出したようだ。



「君の懐中時計には身代わり効果を持つ【ミトラフィア】が使われていた。

 本来、落として踏んだだけでは付かない傷、あり得ない壊れ方をしていた。歯車が二つに割れたり粉々になってたり、部品が派手に折れてたりとな…」


「……」


「身代わり石って物理ダメージだけじゃ無くて、精神的ダメージも身代わりになってくれるそうだから、精神安定剤みたいなアイテムとかにされたりしてるわ…鉱石だから薬には出来ないけどね、あくまでも精神安定剤代わりのアイテムよ」


「……何処から話せば良いかな…」


「……話せる範囲で」


「あぁ、わかった」



 アッシュロードは辛そうな表情とかせず、何も気にしてないような感じで話した。無理をしてる様子もない、本当に気にしてないようだった。



「実は…何とも言えないんだ。嫌がらせを受けていたと言えば言えるし、受けて無いとも言える。ハッキリしてなくてゴメンな。


 …まぁ…確かに馬鹿にされたりはしてたし、囮になれ!って脅されたり、置いてけぼりにされる事は結構あった。

 でも、精神的ダメージってほどじゃなかった。オレがクソザコだったのは確かだし、何より自分でわかってたからダメージはほとんど無かった。グランやミラ、リリィー達から罵倒はされたが直接的な暴力は一切されなかった。ホントだ

 殴る蹴るなんてしたら体力の無駄とか、オレに魔法を使うのも魔力が無駄だとか言われたから無事だった。


 強いて言えば、懐中時計の傷や破損は魔物の攻撃によるモノだと思う。オレは勇者なのに弱くて、グラン達の足を引っ張ってた…だから囮にされたり、強力な魔物の相手ばっかりさせられた。

 だから魔物の攻撃だと思う…何度も死にかけた…腕を失いそうになった事もある…でもどんなに痛い一撃を喰らっても…オレの身体は無傷だった。あっても気絶、打撲、捻挫だけ…


 死んでも可笑しくない攻撃を…懐中時計が身代わりになってくれてたんだな…」


「なるほど、私の考えすぎだったみたいだ。すまない」


「いやいや!シェズのおかげで理由がやっと分かったんだ!むしろ感謝してる!」


「お世話になったお婆さんがアッシュロードに持たせたのは、御守り代わりにって事だったのね」


「そうかもしれない」


「…(御守り代わりか…そっちのパターンだったか)」



 深刻な理由ではなく、単純に御守り代わりとして持たせた懐中時計だったとは…考えすぎて恥ずかしいが、アッシュロードが暴力を受けていなくて良かった。



 その後、他愛の無い会話をしてカフェを出た…時だった。



「見つけたぞアッシュ…」


「!?!?」

「……」

「??」



 見窄みすぼらしい男と2人の女が獲物を発見したかのような表情をしていた。


 衣服は破れ、容姿は汚れており…整っていたであろう顔は…酷い有り様だった。


 周囲の人々は汚れた者達を汚らわしいと言ったり見下すような目をしていた。



「グラン……ミラ…リリィー…」


「えっ!この人達がアッシュロードを捨てた人達!?」


「……」


「…何様だ…オレらがこんな様になっちまったのに、何でお前は小綺麗にしてんだ。クソザコのくせに生意気だ…」


「アッシュのクセに…」


「女連れるとか、アタシ達に当て付けのつもり?キモいんですけど~」


「……」



 アッシュロードは冷静だった。部外者であるクリスティナは怒りを爆発させる寸前で今にも飛びかかりそうだったが、冷静な彼に止められた。


 この状況を見てる全員が…今から起きるであろう事を察した。



「アッシュ、クソザコのお前をこのパーティーに戻してやる。有り難いと思え」


「アンタみたいなキモい男もらってくれるグランに感謝しなさい」


「今も売れ残ってるとかホントダッサ~ 昔みたいに雑用させてあげる」



「何様だ…」

「なんだあの汚い連中は…」

「アッシュ様捨てたクセに偉そうだわ…」

「大方、魔王どころか周辺の魔物に勝てなくて戻ってきたんだろ」

「今になってアッシュロードの偉大さを理解したんだろ」



 周辺の人々は汚れたグラン達を見てヒソヒソと話している。この発言を聞いたグラン達は顔を真っ赤にして怒りだした。



「黙れ!勇者を罵倒するとか良い度胸だな!

 さっさとしろ!アッシュ!お前が戻らさせていただきますって言えばコイツらに危害は加えねぇ、さっさと「戻らさせていただきます」って言え!」


「……」


「勇者パーティーに戻りたいだろ?今はオレが勇者だ!有り難いと思え!」


「断る」


「……は?」

「!!」

「アッシュのクセに…生意気…」



 先程まで明るく、優しい青年とは思えない程低くて冷たい声で答えたアッシュロード…クリスティナが二度見してしまうほど…冷たかった。


 シェズは冷静にアッシュロードを見ていた。

 もう彼はかつての勇者アッシュではない、何故弱かったのか、何故力が無かったのか…その理由もわかってる…もうクソザコ勇者ではない。



「オレは今の生活に満足してる。お前達に未練など無い。消えてくれ」


「良く言ったわ!」

「クリスティナ」

「失礼、続けて」



 相変わらずなクリスティナを止めるシェズ、このやり取りを見たアッシュロードは一瞬笑っていた。


 しかしグラン達は逆ギレ…今のアッシュロードに断られる、言い返されるとは思って無かったのだろう。



「ふざけんな!!」


「生意気!!生意気!!アッシュのくせに!キモ男のクセに!」


「何でよ!アタシ達が此処まで言ってるのに!!」



「何が勇者パーティーだ…グラン、勇者の紋章どうした?」


「はっ?何言ってやがる!紋章なら左肩に…!?!?」



 今になって…やっと気付いたようだ…


 アッシュロードがずっと冷静だったのは…グランにある筈の紋章が消えていたのを誰よりも気付いていたからだろう…。



「勇者パーティー?何かの間違いじゃないか?勇者パーティーは勇者の素質を持つ者のパーティーだ。それがどうだ?今のお前は勇者じゃない、ただの汚い男だ。

 かつての色男の面影も無い、そんな状態なりでよく来れたな」


「!!!」


「お前達もだ、ミラ、リリィー…お前達にキモいとか弱者のクセにとか言われても構わない。オレがそうなのは自覚してる、わざわざお前達に指摘される事じゃない。

 オレにあーだこーだ言う前に、お前達も自分の姿を見てから言う事だ。

 オレはシェズとクリスティナ、そして帝都の人達に救われて勇者アッシュから冒険者のアッシュロードに生まれ変われた。


 だが人々に危害を加える事は絶対に許さない。

 今のオレには仲間がいる。やれるもんならやってみろ」


「加勢するぜ」

「ホント、おバカさん達っすね~」


「!!」



 いつの間にかアッシュロードの隣には2人の青年冒険者が…2人だけじゃない、酒場で話を聞いてくれた青年や女性達…全員がグラン達を囲んでいた。



「勇者パーティーじゃないなら罰せられない。これは冒険者同士の喧嘩だからな」

「汚い人達、二度と現れないで」

「アッシュ様を馬鹿にするな!」

「そうよ!そうよ!」



「!!」

「や、ヤバくない…グラン…」

「むかつく!むかつく!」



 とうとう帝都の人々全員に敵意を向けら、逃げ出したくなったミラだったが、未だに納得してないグランとリリィー…諦めが悪すぎる。


 …アッシュロードの答えに納得してないグランは…彼の隣にいるクリスティナとシェズを見て…ニヤリと嗤った…

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