3.フランティスア
それから数日後、この日は別のエリアにシェズ達は居た。
元勇者のアッシュロードと冒険者になった元聖女のクリスティナ…そして追放された最強魔女…こんなパーティー?見たことない。
「今日はどこ行くの?」
「そうだな、今日は【カルド平原】の端の方に行く。そこにある洞窟だな」
「そこでは何が採れるんだ?」
「『フランティスア』、少し変わった形をした鉱石だ」
「「変わった形??」」
★フランティスア
魔法具、普通の時計、懐中時計に使われる希少素材
水気が少ない場所を好む鉱石
水気が少ない所で採掘出来るか鉱石なのだが、硬く歯車ではなく地板やネジの部品、部品の加工液にもなる。
丈夫で硬いので砕くのも削るのも困難 修正は不可 装飾や歯車には向かない素材
また普通の鉱石でありながら【ある効果】を持っている。
…変わった形をしているそうだ。
採れる場所
カルド平原 洞窟【魔獣ウォバットの巣】
魔獣ウォバットは小動物の姿をした魔物だがとても狂暴、鋭い爪と牙を持ち、それらは防具や武器を一瞬で破壊してしまうほどの威力を持ってる…魔法耐性を持っているが物理攻撃にとても弱い…特に…打撃に…
ちなみにウォバットの爪と牙は激レアアイテム、市場では滅多に出回らないが、それらで防具や武器を作ると強力なモノが出来上がる。
皮でも魔法耐性がある防具が作れるが、爪や牙ほど価値は無い、魔法耐性を持つ毛皮は沢山存在するから。
ウォバットの別名【洞窟の悪魔】…この名を聞いただけで多くの冒険者のやる気が消える…
何せ小動物の魔物…数がめちゃくちゃ多いのだ…囲まれ噛まれたら終わりだ…
そんな危険な洞窟に冒険者ではないシェズは行こうとしてる。冒険者(初心者2人)を連れてるとはいえ…命を落とすのは冒険者の方だろう。
最強魔女が簡単に殺られる訳がない…
「ちょっと待った、平原の隅にあるのは…ウォバットの巣だよな!?そこに行くのか!?」
「洞窟の悪魔って呼ばれてるヤツよね?聞いたことあるわ。そんなにヤバイの?」
「あぁ…アイツらに噛まれたら一貫の終わりだ…死んだと思った方が良い」
「や、やばくない!?ホントに行くの!?」
「無理して来なくても良いぞ、外で待ってても良いぞ」
「ど、どうする?…」
「自己強化には良いかもしれないけど…死にたくないわ…」
「うぅん…」
少し悩んだ2人の答えは…『行ける所までついて行く』だった。
★☆★☆
目的地の洞窟に着くと、シェズは黒いツルハシを肩に担いだ。
「2人は此処で待ってても良いぞ」
「怖いけど行くわ、アタシとアッシュロードが勝手について来たんだし」
「そうだな、でも死ぬつもりはない。シェズは採掘に専念してくれ」
「わかった」
3人は洞窟に入った。
今回もシェズの手にはランタン、暗い洞窟が明るくなり虫が避けて行く。
今の所は何にも邪魔されてない、しばらく歩いてるとお目当ての鉱石を見つけた。
「あった、あれだ」
「アレが?…何かタマゴみたいな形だな」
「宝石みたいね…って何するの?」
「フランティスアはこの中に入ってる。この殻を割らないと採掘出来ない」
「鉱石が殻に入ってる?何でだ?」
「それは、周りを見ればわかる」
「「!!!」」
いつの間にか3人は大量のウォバットに囲まれていた。
シャー!と威嚇するウォバット達、アッシュロードとクリスティナは冷や汗を流しながらも武器を構えたが、シェズは冷静に話を続けた。
「ウォバットの攻撃で鉱石本体がやられる事もある。人の手では硬くて頑丈だが魔物の攻撃を受けたら、どうなるかわかるな?」
「あぁ、防具が逝かれちゃうって事は硬い鉱石も一発でやられちまうって事だな」
「大事な素材を壊されたら堪ったもんじゃ無いわよね!はぁぁ!!」
そう言いきるとクリスティナは襲いかかってきたウォバットに鋭い蹴りを与えた。
「うぉお!!」
「ギィギャァァ!」
「シャー!!」
アッシュロードも鞘に入ったままの剣を振り回して打撃を与えた。斬撃が効かないなら打撃にすれば良い、明確な判断だ。
彼の判断は良かった。ウォバット達に痛い一撃が入ったのか動きが鈍くなってる。
しかしウォバットは沢山いる。一部を弱らせても他は強いまま…
アッシュロードとクリスティナの連携は凄まじく、初心者冒険者とは思えない連携攻撃だった。
アッシュロードの鼓舞、クリスティナの回復、お互いがお互いをサポートしながら戦っていた。
対して、今も冷静なシェズはウォバットを無視してフランティスアを採ろうとした。
ウォバットは背を向けたシェズに襲いかかった…が
「邪魔だ」
「ギャァァ!!」
「「!!!」」
ペシッと虫を軽く叩くようにウォバットを弾き飛ばした。弾き飛ばされたウォバットは勢いよく壁にぶつかり、白目を向いて動かなくなった。
時々ビクビクと震えてるが…再度彼女に襲いかかる事はないだろう。
これを見たウォバット達は震え上がり、シェズを見て怯え、攻撃を一切してこなくなった。
しかしそれでもシェズの精神攻撃は止まらない。
金色の瞳が一瞬光り、ギロリとウォバットを睨み付けた。
「(邪魔をするな)」
「「!!!!」」
直後全てのウォバットが白目を向いてバタリと倒れた…。アッシュロードとクリスティナを襲ってたウォバットも…
クリスティナは動かなくなったウォバットに触れ、息耐えたとわかるとワクワクとした様子でシェズに声をかけた。
「驚いたわ!アナタもレア物を持ってたのね。あんなに近くいたのに全く感じなかった、隠してたの?」
「何の事だ?」
「敵対する存在の生命力、戦力を失わせる能力【魔眼】、魔法術に優れた人しか使えない能力って呼ばれてるわ。魔法使い、魔術師、賢者、魔女、一部の魔法剣士とかが使える事で有名なヤツなの」
「能力か、使ってはいないが。私はコイツらを睨み付けただけだ」
「目力だけで魔物を倒す事が出来る人もいるから否定出来ないわね。でも、アナタのは一瞬光ってたわ」
「【魔眼】
「【魔眼】を使う時は光るのよ。気になるわ、【鑑定】させて。それで白黒つけましょ」
「……」
「(お、女の戦いって怖ぇ~)」
2人のやり取りを見ながら然り気無くウォバットの爪と牙を回収するアッシュロードだった。
しばらくすると、満足したクリスティナが口を開いた。
「どうやら【魔眼】擬き、アタシの考え過ぎだったみたい。ダメね、レア物見て興奮しちゃう所…」
「答えが出たならそれで良いじゃないか」
「そうね。詰め寄ってごめんなさい。それとありがとう」
「……(危なかった… 鑑定は真実を写し出す能力、これで魔女とバレても可笑しくなかった…。あの様子から、修理士のシェズ=アルスディアの情報が出たなんだな。
これで【破壊をもたらす魔女】や【破壊の魔女】とか出たら最悪だったな…)」
顔には出してないが心臓がバクバクとしていた…珍しく焦ってるようだった。
仲間?が増えればその分バレるリスクも高まる…鑑定持ちのクリスティナが一番怖い…
レア物を見てご機嫌になったクリスティナは、レア素材を回収するアッシュロードを見て叫んだ。
「ちょっと!独り占めしないでよ!!アタシにも寄越しなさい!!」
「オレのを取らなくても良いだろ!?あちこちにウォバットいるだろ!?」
「半分以上取ってるでしょ!」
ギャー!ギャー!揉める2人を横に、シェズはツルハシで鉱石の殻を割り、中にあるフランティスアを採掘した。
中から出てきたのは淡い
「な、何だそれ!?」
「ボール?」
「フランティスアだ」
「「それが!?」」
確かに変わった形だ。
ツヤツヤで綺麗な球体の形をした鉱石なんて見たこと無い。
研磨加工してツヤツヤになる宝石とは違って、このフランティスアは最初から研磨加工された状態のモノ…しかもめちゃくちゃ硬くて頑丈、これで殴ったら凶器だ…凶器になってしまう。
一つで沢山作れるが、これもミトラフィアと同じく修正不可、丁寧に扱わなければ…
そして、この鉱石は魔鉱石でもないのに関わらず、ある効果を持っている。
シェズは球体をアッシュロードに持たせ、殻に残ってた欠片を手にしてクリスティナを見た。
「クリスティナ、私を殴ってみてくれ」
「えっ!?ど、どうして?!」
「理由は後だ、殴ってみろ」
「わかったわ…ハァ!!」
「!!」
勢い良くシェズの顔めがけて拳を振ったが、いつの間にか顔の前にあった手に掴まれて終わった。
その直後
ピキッ
「「!!」」
シェズが手にしていた欠片にヒビが入って割れた。
アッシュロードとクリスティナは割れた欠片とシェズを交互に見た。
シェズは無傷、フランティスアの欠片は粉々に割れた、この意味がわかったクリスティナは目を輝かせた。
「スゴイ!噂の【身代わり石】ってフランティスアだったのね!この目で見れるだなんて!シェズについていかなかったら見れなかったわ!」
「まさか…身代わり石が婆さんの懐中時計に使われてたとは…」
そう、フランティスアは普通の鉱石でありながらも、珍しくダメージの肩代わり【身代わり】になってくれる効果を持っているのだ。
今若者冒険者の間に話題に、流行になってる【身代わり石】の正体でもある。
何の攻撃でも良い、人間の攻撃でも魔物攻撃、その他の攻撃によるダメージ全てをフランティスアが肩代わりしてくれる。
効果はフランティスアが完全に割れ、砕けるまで。砕けると力を失い黒くなる。
それはもう身代わりになってくれないので捨てるしかない…が、意外にも使い道はある。
それは魔物にぶつけたり、食べさせたりするのに使える。フランティスアは硬くて頑丈、そこそこ良いダメージを与えられる鉱石だ。食べた魔物は体内を傷つけられてダウンする。
効果を失っても魔物への物理攻撃に使えるのですぐには捨てない方が良い。
その後、シェズ達はウォバットと戦いながら洞窟内の全てのフランティスアを採掘したのだった。
無数のウォバットの悲鳴と暴れるクリスティナの声が洞窟の外まで聞こえた…。これを聞いた魔物達は怯えて逃げて行ったのだった。(冒険者とか人が来なくて良かったね)
それからシェズ達が洞窟から出てきたのは夕暮れ前だった…が…
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