9.ミトラフィア

 翌日 昼前

 噴水広場のベンチにアッシュロードが座っていた。


 しばらくするとシェズがやって来て2人はカフェに入り、支払いをしてテラス席に座った。


「後から詐偽だとか言われたくないのでね、これに記入を」


「えっと…職業は冒険者で良いか?」


「あぁ それと費用は後払いだ。この紙の中央に書かれてる。依頼の品は普通の懐中時計で、かかる日数は1ヵ月、そうなるとこの値段だな」


「ひえっ…たっけぇ…でも納得の値段だ。この懐中時計が魔法具だったら…倍って事か…」


「払うのは1ヵ月後だ、それまでに用意しておいてくれ。私も1ヵ月に返す」


「ありがとう。後はオレの名前を…っと」



 アッシュロードは名前を記入し、もう一度依頼書に目を通し、わからない部分を聞いたりした。

 その後、アッシュロードは納得した様子でシェズに書類を渡した。

 するとシェズが何やら魔法具を取り出し、アッシュロードが記入した依頼書にソレを向けると…全く同じ内容の書類が増えた。


 アッシュロードが記入したのを本人に渡し、コピーしたのをシェズが手にして鞄にしまった。



「では1ヵ月後、また此処で」


「お願いします…ってそれ何すか?」



 書類をしまうのと同時に物騒なモノが一瞬だけ見えた。

 黒いツルハシで鉱夫が使うのよりも細い…これもシェズが作った仕事道具の一つだ。



「私の仕事道具だ。今から素材を集めに行く」


「今からすか!?」


「あぁ 素材が何処で採れるかは既に調査済みだ。情報集めをする必要もない。」


「えっ!?あ、あの一緒に行っても良いですか!?」


「別に構わないが、素材集めだぞ?冒険者には退屈でしかないぞ」


「退屈でも良いです!」


「そうか、なら行くぞ」


「はい!」



 2人は店員に食器を渡してカフェを去った。


 今回の目的地は【ユーゲルテラ】と言う名の土地だ。

 山に囲まれたエリアで移動手段はゴンドラのみ。


 鉱石や宝石で栄えてる土地で洞窟や鉱山が多い。

 クラスは上級者向けエリアに入る


【ユーゲルテラ】の市場には沢山の鉱石、宝石があるが…市場価格がとんでもない程高い…安くて簡単に手に入りやすいガルタクスもめちゃくちゃ高いが品質が天然モノで有りながらも最高質のモノばかり…


 他にも魔鉱石やその他の素材も取り扱われてるが、やっぱり鉱石や宝石が一番。



 洞窟や鉱山が沢山あるが、生息する魔物は凶暴で防御力が高いのがほとんど…

 魔物のせいで捨てられた洞窟や鉱山も結構ある。それらの所有権は無く、誰も訪れない放置処分されている…


 つまり無許可で入れるが凶暴な魔物がうじゃうじゃと生息してるって事だ。


 残念ながらこの地にはウィアの懐中時計の希少素材は無い。

 アッシュロードの依頼の為だけに行くのだ。


 ★☆★☆


 ゴンドラ乗り場付近

 何故かシェズはゴンドラ乗り場から離れた。



「ゴンドラじゃなきゃ【ユーゲルテラ】には行けませんよ?」


「使わなくても行ける、それにゴンドラの乗車賃はわかるな?」


「い、行き帰りだけでそこそこしますね…」



 ラナリア帝国は広い、大陸の半分が帝国の土地だと言われている程壮大だ…


 今回の目的地である【ユーゲルテラ】はその帝国の端にある山に囲まれた高地、帝都から結構な距離がある。


 歩いて行ったら行き帰りだけで1ヵ月経ってしまう。



 シェズは周りに人が居ないことを確認するとアッシュロードを呼び、地面に魔法陣を出現させた。周囲に幻覚魔法を放ち、知らない人には何もないように見える仕組みだ。



「えっ!?どうやって魔法陣を!?」


「話してる時間は無い、行くぞ」


「あっ!?ちょっと!?」



 少々強引で身勝手だが、この行動が正しかったと後から判明するのだった。



 ☆★☆★

 アッシュロードが目を開けた時、そこは【ユーゲルテラ】だった。

 魔法陣から離れると突如パリンッと割れた。



「へっ!?」


「尾行されてたんだ、片道切符だから向こうのは奴が利用しようとした時には消えてる」


「なっ!?何時から!?」


「乗り場に来る前に通った通りだろうな、あそこは盗っ人が多いらしいぞ」


「ゲッ…確かにオレは質素だけど…アンタは見た目が良いからな…」


「金目のモノは持ってないぞ」


「何でもない…で?何処に?」


「放置地帯の『魔花の巣穴』だ。植物の姿をした魔物の住みかになってる廃鉱山だ」


「わかりました」



 今頃、尾行してた盗っ人は2人が使った魔法陣が消えた事で嘆いているだろう。



 ☆★☆★☆


「それで…シェズさんは…」


「シェズで良い、タメ口で構わない」


「わかった。シェズ、アンタは何者だ?ただの修理士じゃねぇだろ?」


「何だと思う?」


「引退した冒険者にも見えない、魔法陣を出現させる事が出来るのは魔法術に優れた天才だけって言われてるから…それ系の卒業生とかか?」


「さぁ?どうだろうな」※魔女です


「……(謎が多いな…)」



 数分後 目的地に着いた。

 入口から蔦のようなモノが出てウネウネと動いている。

 シェズは問答無用で炎魔法(最強)を放って燃やした。直後魔物の悲鳴がしたのだった。

 あまりにも慣れた動きにアッシュロードは驚いていた。

 冒険者でもないシェズが何故魔物を恐れないのか…魔物のいる過酷な世界を慣れすぎてると思ったのだった。



「君は魔物の討伐に専念してくれ、魔物の素材は君もモノだ、好きに使うと良い。

 それと、道中みたいな鉱石を見かけたら呼んでくれ。それがお目当ての素材【ミトラフィア】だ」


「水色の花の形の鉱石か、わかった」



 彼の返事を聞いたシェズは歩きだし、その後ろを片手剣を構えたアッシュロードが歩いたのだった。


 入ってすぐに分れ道に辺り、二つに別れて進んだ。

 薄暗い洞窟の中には植物の姿をした魔物で溢れていた。



「はぁぁ!!」


「「ギャアアアア!」」


「(剣筋は悪くないが火力が弱い、あれでは先に彼が殺れるな)」



 ランタンを手にして歩くシェズは無詠唱で炎魔法を周囲全体に使い、彼女が歩くだけで多くの魔物が燃えて灰になっていった。残念ながら魔物を倒してもお目当ての鉱石は出てこなかった。


 歩き続けて数分後、広い空間に出た。すぐ近くに湖があった。


 現在の時間は昼過ぎ、魔法陣での移動のお掛けで時間に余裕が出来た。



 ★ミトラフィア (★は希少素材)

 魔法具、普通の時計、懐中時計どちらにも使える鉱石

 水色の花の形をしている。

 六枚の花弁を持つ花『ラフィアの花』の形をしている。ラフィアの花は回復薬を作るのに必要不可欠な素材。

 採掘可能な場所は暗くて空気が澄んだ所

 近くに水源があると品質の良いのが有る。

『魔花の巣穴』(ユーゲルテラの廃鉱山)


 研磨すれば水晶 粉末にすれば光沢加工液、装飾から部品まで何にでも使える。脆くて壊れやすいが加工すれば頑丈になる。

 ネジや歯車も作ることが出来る



 シェズが鞄からツルハシを取り出して担いだ時だった。植物型の魔物『魔花まばな』を倒してまくってたアッシュロードと合流した。



「シェズ!オレが行った道に水色の花の鉱石があった」


「ありがとう、帰りに寄る。そうだアッシュロード、ついでで悪いがまた頼めるか?」


「おぅ良いぜ」



 シェズは近くにあったの鉱石をツルハシで触りながら見せた



「コレも見たら教えてくれないか?これも一応必要なヤツなんだ」


「わかった。白い花もだな」


「あぁ」


「了解!ってそうだ、オレも頼んで良いか?」


「あぁ、構わないが」


「銀色のコレが落ちてたらオレに渡してくれないか?」



 アッシュロードが見せたのは銀色の花弁のようなモノだった。



「ギルドの依頼の中にコイツが欲しいってヤツがあったのを思い出したんだ。何に使うかはわからないけど…」


「わかった。必ず落ちるモノか?」


「あぁ、燃やして倒すと出やすいそうだ」


「……なら私が進んだ道に沢山落ちてるはずだ」


「ホントか!?ありがとう!」



 確かに此処まで魔花を燃やしながら歩いて来ていたので大量に落ちてるだろう。

 


 広い空間を進んで数分後、シェズはお目当てのミトラフィアを見つけた。

 本当に花のような鉱石だ…シェズは形を崩さないようにしながら採掘した。

 ミトラフィアは綺麗だが脆くて壊れやすい、採掘するタイミングで砕けてしまう事も結構ある。

 中には魔花の攻撃を受けて既に一部が欠けたモノや半分以上が無い、欠片しか無いモノもあったが全て回収した。



 その後も共に行動したり分れ道を進んだりとしたが、此処は廃鉱山…行き止まりが多かった。

 掘り返しても道が出てくるとは限らないし、帰り道を失うかもしれない。

 その時は戻って別の道を進んでお互いに必要なモノを集めるを繰り返したのだった。



 数時間後…2人が廃鉱山から出てきたのは辺りが暗くなった時だった。既に月が登っており夜行性の魔物が動き出していた。


 ミトラフィアも銀色の花弁も大量に入手出来て満足した2人は魔法陣で廃鉱山から帝都に帰ったのだった。


 帝都に着くとシェズはアッシュロードに魔法陣での移動の事を黙ってるように強く言って去って行った。


 呆然とするアッシュロードの右手には…いつの間にか『明日も噴水広場で』と書かれたメモがあった。

 これを見たアッシュロードは笑顔になり宿屋に帰って行った。

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