長いです 時間がある時にお読みください


 それから数日後

 アッシュロードは神殿での鑑定を後回しにし、ギルドや酒場で『歯車の修理士』の情報を集めていた。


 そして酒場である情報を得ることが出来た。



「この国の近くにある神秘の森には『全知の神』の加護を宿してるエルフがいるそうだ。

 この国の事は勿論、別の国の情報や他の大陸の情報何でも得てるそうだぜ」


「し、神秘の森って【ヘルゲの森】の事だよな!?(元勇者とはいえ『初心者冒険者』のオレに上級者向けエリアは怖いなぁ…でも『歯車の修理士』の情報が得られるかもしれないんだよなぁ…)」


「まぁ…あそこは上級者向けエリアだな、無理はしない方が良いぜ。あそこは中級者が生きて帰ってこれるか出来ないかって言われてる程危険地帯でもある。神秘の森と言ってるのに対してそこ魔物は馬鹿強いぞ…」


「でも…行こうと思う」


「そうか、無理はするなよ。気を付けろよ」


「ありがとう」


「…あれがクソ雑魚勇者様ねぇ~ 優しくてグイグイ行けないだけの良い兄ちゃんじゃねぇか」


「ホントよね~ あんなに良い人を追い出すだなんて、仲間だった人達は何を考えてるのかしらね」


「あの騒動から1ヵ月経つけど、まだ魔王が倒されたって話を聞かないぜ」


「何よそれ~ アッシュ様追い出しといて勝ててないとかヤバ~ダサすぎ~」


「ってかアッシュ様、こっちに居るようになってからイキイキしない?あと顔色も良くなってない?」


「仲間の嫌がらせが無くなった事であんなに変わるだなんて、精神的に疲れてたんだろ」 


「彼はもう勇者じゃない、誰にも縛られず自由に生きていける。自由にさせてあげましょ」



 酒場にいた人々はアッシュロードを良く思っていたらしく、皆が彼の味方だった。


 彼が威張ったり強欲は勇者じゃなかったから、沢山の人達が居たのだ…人々は彼を【解放】という名のパーティー追放をしたグラン達に感謝したのだった。


 ★☆★☆★ 


 それから

 傷を被いながらも何とかヘルゲの森の中にあるエルフの村にたどり着いた。

 やはり人よりも気配に敏感なエルフ達はアッシュロードがすぐに勇者だと気付いた。



「勇者だ、何で一人で?仲間は?」


「なんか勇者の素質が弱まってないか?ってか…無い?」


「でもほんのちょっとだけ感じる、元勇者って事?」


「皆の者、人様を探るのは止せ。持ち場に戻るのじゃ」



 エルフ達がヒソヒソと話していた所に村長がやって来てエルフ達に去るよう命じた。


 エルフ達が去ると村長はアッシュロードを自分の家に入れた。



「勇者アッシュ殿、御会いできて光栄でございます。

 しかし仲間の者達は?主からも勇者の素質が薄まってる、何が起きたのです?」


「簡単に言うと、仲間に戦力外通告されて捨てられた。勇者の紋章もオレから消えてソイツに宿った…オレはもう勇者じゃない、初心者冒険者のアッシュロードになった」


「なんと…勇者を追放する勇者パーティーなど聞いたことありませんよ…。しかし、お仲間はを知らずに追い出したのですね…哀れだ。この先苦しむだろう」


「??」



 村長が意味深な発言をしたが、コホンと咳をして話を遮って本題に入った。



「失礼、貴方が此処を訪れたのには意味が有るのですよね。答えられる範囲で全て答えますよ」


「本当か!?なら――」



 アッシュロードは経緯を話し『歯車の修理士』の事を尋ねた。

 直後村長は一瞬硬直した。歯車の修理士ではないが職人であもある『歯車の魔女』の事だとすぐにわかったから。

 アッシュロードの探し人は間違いなくシェズだと…そしてシェズは高確率で奥の洞窟に現れてる…。


 しかしシェズは修理士である前に魔女だ、勝手に彼女の事を話す事は出来ない。

 どうしようと悩み、彼はシェズ魔女の情報の一部を偽造して説明する事にした。



「歯車の修理士ですか…確か時計と魔法具専門の修理士と聞いてます。

 そうですね…少し気になる人間がよく近くを訪れます」


「!?」


「その人間が貴方が求めてる歯車の修理士なのかはわかりませんが、この森の奥に小さな洞窟があります。その人間は定期的にその洞窟を訪れます。結構な確率で見かけるので会って話すことが出来るかもしれません」


「な、なるほど…ちなみに洞窟では何が採れるんだ?」


「ガルタクスと呼ばれる鉱石です。珍しくも無い、市場でも安値で買える物ですよ」


「ん~ 職人っぽいしそうでないように感じ取れるなぁ…とりあえず、その人は奥の洞窟に居るんだな」


「はい。今日会えなくても明日居るかも居るかもしれませんが」


「構わない。助かった、ありがとう!」



 アッシュロードは立ち上がり、鞄から何かを取り出した。



「これはお礼だ。まぁ…オレが持ってても無意味だから…」


「ん?…こ、これは!?」


「えっと『エルフの涙』って呼ばれてる魔鉱石だっけな。使い方がわからないんだ。押し付けるようで悪いが受け取ってくれないか?」


「う、受け取らせていただきます!ありがとうございます…本当に」



 その後、アッシュロードは礼を言って村を去って行った。

 村では『秘宝』が戻ってきたと全員が大泣きしていた。


 何百年か前に何者かに盗まれてしまった『エルフの涙』と呼ばれる宝石…長い時が経った今…心優しき元勇者アッシュロードを通して村に戻ってきたのだった。


 魔王討伐の途中でアッシュロード達は怪しい集団を見つけ、倒した後にアッシュロードが見つけた。最初は魔鉱石だと思っていたが、グラン達との仲が悪くなっていた頃なので彼らには言わずに黙って保管していた。

 追放され一人となった今でも使い方がわからななかったので、彼は話を聞いてくれたお礼として村長に渡した…

 彼は何も気付いていないが、一つの村を救ったのだった…。


 ★☆★☆★

 数分後、教えられた洞窟にやって来た。

 中から何かを叩きつけるような音がし、人が居るとわかった。


 恐る恐る暗い入口を覗いて見ると…辺りには掘られた後のガルタクスが…

 収納袋も箱も見当たらない、何かの音がするだけ…

 外は明るいが中は暗い、中で人に会っても上手く話せないかもしれない。


 アッシュロードは中に入らず、入口の近くで待つことにした。



 数時間後…此処を訪れたのは昼前…今は夕方だ。

 いつの間にか寝ていたようだ…かなりの時間が経っていた。 

 既に音はしておらず、風の吹く音だけしかしない…が、奥から足音が聞こえてきた。

 徐々に大きくなり、入口で音は止まった。


 アッシュロードは身体を起こして入口を見た。


 そこには…


 紺色の髪に金色の瞳、片耳に青い水晶の耳飾りをした少女がいた。


 少女はツルハシを肩に担ぎ、真っ直ぐとアッシュロードを見た。



「!?あ、怪しい者じゃない! エルフの村の村長に話を聞いて、こ、此処に人が頻繁に来るって聞いて…その」


「そう慌てなくても良い。私を待ってたんだろ?」


「へ?(び、美少女が男口調!?)いや、その…はい」


「……」



 シェズは空を見上げた。今の時期、暗くなるのはもう少し後だが、今のシェズにはでの拠点となる建物がない。



「食事をしながら話を聞こう」


「は、はい!(ホントにあの修理士なのかも?)」



 ★☆★☆

 夕暮れ時

 帝都のレストランに入り話を始めた。シェズはこっそりと防音結界を張り、2人の会話を聞かれないようにした。



「私はシェズ=アルスディア、時計と魔法具専門の修理士をしている」


「冒険者のアッシュロードだ。頼みがあるんだ…実は――」



 一度全てを聞いてるシェズは初めて聞いた反応をした。

 アッシュロードは既に彼女に情報が渡ってるとも知らずに説明したのだった。



「という事なんだ…アンタなら直せるかも知れないって聞いてな…」


「歯車の修理士ね…知らぬ間に変な通り名がが付けられたか…

 取り敢えず事情はわかった。モノを見せてもらっても?」


「あぁ…自分で壊したとはいえ…酷い有り様だ…パーツも粉々に砕けちまってな…」



 アッシュロードが取り出した壊れた懐中時計、確かに酷い状況だ。歯車もネジも、大事な部品も粉々になってる。

 おまけに…全てが希少素材で出来てる…ウィアの懐中時計とは別の希少素材だ…集めるところから始めないといけない。


 シェズがそれらを受け取ると料理がタイミング良く運ばれた。


 その後も食事をしながら話を続けたのだった。


 その後…


 食事を終え、シェズは壊れた懐中時計を取り出して説明した。



「これは私が直そう。だが素材を集める所から始めなくてはいけないのでかなり時間がかかる。遅かれ早かれ1ヵ月はかかるかもな」


「い、1ヵ月!?そんなに早く出来るのか!?修理ってのは部品が揃ってないとめちゃくちゃ時間がかかる、パーツが多い懐中時計は尚

 更…」


「私は部品も自分で作ってる、なんなら素材も自分で採取しに行く。だから他の店よりは早いのだろう」


「な、なるほど…じゃあ…お願いして良いか?」


「あぁ、詳しい事を話したいからまた明日噴水広場で」


「お、おぅ」



 アッシュロードが呆気としてる間に話が付けられ、2人はレストランを出てそのまま別れた。



 アッシュロードは宿屋に戻って横になった。探していた歯車の修理士とやらが自分よりも年下の若くて美しい女性だった事、修理が終わるのは1ヵ月という速さ…プロでも結構かかると修理屋の店主は言っていた…。


 それにエルフの村長は最初からシェズを知ってるような感じもした…

 まぁ、実際2人は会ってるから知ってて当然、村長のファインプレーのおかげでシェズが魔女だとバレなかった。

 


 シェズにとっては三度目の再会だ、しかし人の姿では初対面だった。どう接すれば怪しまれないかと試行錯誤していた。


 元勇者の初心者冒険者と訳有り最強魔女の出会いは壊れた懐中時計だった。

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