8.出会い?再会? 1

 痛みに苦しみながらも眠りについたシェズは…変わった夢を見た。


 以前見た夢とは違い、すぐ隣にで誰かがいて、子守唄を歌いながら彼女の頭を撫でてるような…

 これが何を示すのかはわかない

 声の主はウィアでも里の魔女達でもない…知らない声だった。



 とても優しい歌声…優しい手付き…現実に居ないはずだ…でも本当に触れられている感覚がする…



「……」


 痛みが和らいだ気がした。

 目を開けそっと身体を起こしたがそこには誰も居ない。

 結局夢だった、また短時間だと思っていたが…シェズが目覚めたのはなんと2日後の朝だった。

 あの日の夕方に眠ったがあれから丸2日眠っていたとは…。 


 おかげで魔力は完全回復、失った左目は戻ってないが今なら治せる。


 そっと左目に手を当てて回復魔法を使った。

 数秒後、閉じていた瞼が開き金色の瞳があった。

 視力も問題ない、これなら作業に戻れる。

 しかし流石に飽きるので今日は気分転換で帝都に行くことにした。

 シャワーを浴びて身を清め、動きやすい服装に着替え、自身に認識妨害魔法をかけて帝都に出た。


 ☆★☆★

 帝都にある神殿の一室前にはいつも長い列がある…

 一昨日の昼頃、アッシュロードは仲間と共に神殿を訪れたのだが、今日と同じように行列が…これでは時間が勿体無いと判断してこの日は諦めた。

 そして次の日、今日はアッシュロード一人で来ていた。二人は別の依頼の助っ人として出ているので居ない。

 この日も状況は同じ…おまけに仲間が言っていた『鑑定』が出来る人物が今日は居ないとの事…。

 そしてまた次の日…この日もダメだった。


 そして今日…行く時間をずらしたのか帝都を歩くアッシュロードの姿があった。



「考える事は皆同じって事か~そう簡単に上手く行かないよな~ あっ…あ!!」バキッ



 独り言を呟きながら歩いていた最中、ポケットから何かが落ち、それを拾おうとしたら足で踏んでしまった。嫌な音がした…アッシュロードの顔がみるみる青くなり、真っ青な顔で焦りだした。



「あぁぁぁ!!やっちまった!」



 壊したのは自分自身なので当たり散らしても意味がない。

 急いで全ての欠片を回収し、近くにあった修理店に駆け込んだ。



「急で悪い!これを直してくれないか!?」


「ごめんよお客さん、内は魔法具専用で『懐中時計』はやってないんだ。

 見た感じかなりの代物みたいだし、時計店に頼んでみると良いよ」


「わ、わかった!ありがとう!」



 どうやらアッシュロードが落として壊してしまったのは懐中時計のようだ。

 魔法具専用の修理屋から良い情報を聞いて時計店を訪れた。

 しかし…



「お、お前さん!?それは!…おっと失礼、直してあげたいが…残念だが店に無いんだ。ごめんよ」


「なっ!?このオンボロ時計、アンティークだったのか!?」


「持ってて知らなかったのかい!?それは骨董品マニアがこぞって欲しがる懐中時計だよ。

 有名な芸術家が作った品で、今では幻の作品とか言われてるよ。まさかこの目で本物を見れるとは思ってなかったが…失礼、つい熱くなってしまった。

 ゴホンッ とにかく、直しても適合する素材で作った部品で直さないと動かない。

 安い時計とかなら色んな素材に適合するから問題ないが…コレはかなりのレア物、希少素材ってのを使わないとダメだろうね」


「そんな…可愛がってくれた婆さんから貰った時計がお宝だったなんて……」


「うぅん、この辺の時計屋、修理店で依頼を頼んでも同じ言葉が返ってくるだろう。

 そうだな…出来るとしただな…」



 時計屋の店主はうぅんと悩み、ゆっくりと話続けた。



「出来るとしたら…風の噂で聞いた『歯車の修理士』だろう」


「歯車の修理士?」



 アッシュロードからしたら聞いたこと無い人物だろう…



「噂によると、その人は『魔法具と時計専門の修理士』のようでな。ただ神出鬼没らしく、その日には居ても翌日には店が畳まれていて修理士が立ち去ってるとか…各地を転々としてるそうだが、その人に会うのは難しいだろうね。

 前にその国にいたから隣の国にいるかも思いきや全く違う国に居るとか …狙って会おうとすると痛い目にあうとか…お金のね」


「ひぇ…」



 唯一の希望が何処にいるかもわからない『歯車の修理士』…アッシュロードは項垂れ、店主に礼を言って店を出たのだった。



 恩人からの贈り物を壊してしまい、修理に出せないとか…絶望しかない…。



「はぁ…オレは何をやってんだ…」



 暗い気持ちのまま歩き、広場のベンチに座ってた時だった。



「ふみゃ~(ヒマだな)」


「ん?あの時の子猫じゃねぇか。日向ぼっこかぁ?」


「みゃ?(ん?何だ?…ってあの時の元勇者か、何か前より落ち込んでないか?)」



 彼はあくびをするフワフワな紺色の毛並みをした子猫の隣に座って撫でた。



「また聞いてくれよ~ オレまたやらかしまったんだ…故郷で世話になった婆さんから大切なモノを貰ったんだ…それを落としちまって…拾おうとして踏んじまったんだ…」


「みゃ~(それは…災難だったな)」


「で、近くの店に修理を頼もうとしたら出来ないって言われてな…かなり貴重な品みたいでな、直せるのは『歯車の修理士』って言われてる修理士みたいでな…頼みたいけど神出鬼没らしいし…何処にいるかわからないんだ…」


「みゃ!?(なんだその通り名は!?恥っ!)」


「何か知ってるか~?教えろよ~このやろう~」


「んみゃぁぁ(やめろぉ~)」



 両頬をいじられ情けない声をあげる子猫シェズ、アッシュロードは子猫シェズにメロメロのようだ。

 慣れた手付きで子猫の身体を擽ったり、軽装の装飾を猫じゃらしのようにして遊ばせたりと…変身してる姿の本能に振り回させるシェズだった。

 その後、アッシュロードは子猫と色々話してスッキリしたのか、情報を集めに去って行った。


「みゃ…みゃぁ…(もう子猫にはならないぞ!部品を作るよりも疲れる!)」


 激しいスキンシップを受け疲れ果てたシェズはそう思ったのだった。

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