7.慣れたはずの痛み
少しだけ残酷な描写があります。
評価 応援ありがとうございます!!
☆★☆★
それから約1ヵ月後…本当に毎日洞窟でガルダクスを採り続けていた…。
おかげでアトリエはガルダクスでいっぱいだ…
シェズが歯車に取り憑かれてる間、元勇者アッシュロードは協力的な冒険者二人と共に数々の依頼をこなしていた。
「いや~アッシュさんマジで凄いっすね!」
「あぁ、今まで俺とコイツだけじゃ倒せなかった魔物もあんたのおかげで倒せたよ」
「いやいや、二人が強いんだ。オレは相変わらずだ…足手まといじゃないか?」
「えぇー!?相変わらずネガティブっすね~ 自信持ってくださいっす」
「でも…」
「……」
相変わらず自分に自信が無いアッシュロード、仲間の一人が何か思い当たるのか考え込んだ。明るい男はアッシュロードを励ましている。
そして数秒後、何か思い付いた冷静な男はアッシュロードに話しかけた。
「アッシュロード、一度『神殿』に行かないか?神殿に『鑑定』が出来る人間がいる。その人に見てもらえば自分自身が知らない事も全てを知れる。
実はお前と組んでから俺とコイツ…めっちゃ力が付いたんだ。攻撃力はもちろん、体力や防御力、更には急所が狙いやすくなってる…これはただ事じゃない。
これまで様々な鍛練をしてきたがどれもイマイチだった、だがお前が来ただけで引くほどパワーアップしてるんだ」
「あっ!やっぱりお前も感じてた?!だよな!?アッシュさん来てからマジで動きやすくなったよな!?」
「そ、そんな事ねぇよ…オレは…変わってないし」
アッシュロード相変わらずだったが、その後、明るい男と冷静な男と共に帝都にある神殿を訪れる事にした。
★☆★☆★
場面は戻って歯車に取り憑かれたシェズ…
今日は朝から帝都に行かずアトリエに籠っていた。
今日は歯車の加工をしていた。
小さな歯車をピンセットで掴み、以前作った紅玉石の液体に浸けて染色していた。
数分間浸けた後に取り出すと、金色の歯車が…
そこから更に透明な液体に浸けて加工をし、取り出すと艶があって美しく頑丈な黄金の歯車の出来上がり。
中には金色の液体に浸けずに透明な液体にのみ浸けてるモノもある。
慣れた手付きで行われてる…まさに職人技だ…
銀色、金色、黒の大きさや形が異なる歯車が沢山出来た。
だが…全て【普通の】時計、懐中時計用の歯車だ…
こんなにあっても魔法具には使えない…(一部のモノには使える)
真剣な表情で歯車を作り続けるシェズ、とても魔女には見えない…
作成も加工も全て手作業、魔法は素材の品質を守る為の加工にしか使わないとは言え、かなり体力と魔力を使う。
見た目以上に使ってる…魔力切れには気を付けなくてはいけない。
では何処に魔力を使ってるのか?
それは両方の眼と全ての神経だ…
お気付きだろうか…机には定規や図面が一つも無いし彼女が使ってる様子が一切無い…
眼と神経に魔力を使って歯車を作ってる…これはウィアが教えた技術と魔法だ。
定規も図面も一切使わずにモノを作る【
この魔法は眼に魔力を集め、機械の如く永遠に部品を作り続ける恐ろしい魔法…
機械がエネルギー切れになると止まるのと同じで、シェズも魔力切れになると止まる…まさに永遠に部品を作り続ける機械だ…
もちろん痛みもある…かなり危険な魔法で酷い時には失明する、骨や肉がとんでもない状態になる事も…
そもそも…コレをマスターしないとウィアの懐中時計は直せない…
マスターするまで何度失明、両手を失った事か…失う度にウィアに回復魔法をかけられ、失っては回復され……まさに地獄…
何度死んだ方がマシだと思ったか…
弟子入りした時初めて失明し、閉じた目から血を流し、両手を失い大声をあげて泣き叫んだ事があった。
ウィアは殴ったり何故出来ないのだと罵倒したりせず、何度も回復魔法をかけてくれた。
幼い子供に教える魔法ではないのは確かだ…下手したら心臓が破裂する魔法でもあるのだから…
何度も何度も欠損 失明して血を流し、時には眼を文字通り失った事もある。今までに感じた事の無い激痛に襲われ…本気で死を望んだ時期もあった。
もう嫌だと泣き叫び、ウィアから逃げた事も…
でも結局はウィアに捕まる。逃げ出したのにも関わらず彼女は一切怒らずシェズを抱き締めて身体を治した…。
その後も地獄の特訓と技術習得は続いた…
今ではそれより上の回復魔法も取得したので眼を失っても自分で回復出来る。
それも身体の半分を失っても元通りに出来る高レベルのやつ…でも心臓は治せない。
命を落とした人間は治せないし蘇らせる事も不可能、出来るのは聖女か聖職者くらいだ。
図面はシェズの頭にある、手の感触を頼りに身体と神経を動かす…
意外にも首や脳、(眼を除く)頭部には負担は無いが、足や背中には影響があるが激痛まではいかない。
機械のようだが話しかければ普通に返事をしてくれるし、途中で止めることも出来る。
目に見えぬ図面、全ての神経を使って一つ一つ丁寧に作っていく…
見た目からは想像が出来ない程…かなり危険な状態で作業をしているシェズだった。
「っ!」
突如歯車を落とし左目を押さえた…押さえた所から赤い液体が垂れた…
どうやら左目を失ったようだ…
しかし彼女は落ち着いていた、かなりの長時間作業をしていたからだと納得してるようだ。
こうなったら右目も時間の問題だなと思った直後…寒気を感じ、全身が怠くなり痛みも出始め、さらには両手の感覚が無くなりだした…
彼女は直ぐに作業を止め片付けを始めた。
回復魔法を使う魔力が残ってないようだ…ふらついていてかなり危ない。
ふらつきながらも部品を慎重に別の部屋に運び、目に包帯をして回復薬を飲んで横になった。
時刻は夕方前…魔力の自然回復を待つしかない…
…天才で最強の魔女でも魔力はチートではない…
慣れたはずの痛み…
しかし回復が出来ず痛む身体に耐えるしかない…
…回復魔法をかけてくれる人もいない…
夕陽が差し込むアトリエの寝室…シェズは痛みに苦しみながら眠りについたのだった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます