6.悪夢と痛み

 洞窟で全てのガルダクスを採掘した日の夜


 シェズは部品を作るよりもワイバーンの解体を行っていた。


 鋭い短剣を手にし、細かく解体していった…

 残念ながら生物なまものは使わない。ワイバーンの血液や肉、眼、爪、内臓は売った方が良い。

 シェズが使うとしたら、ワイバーンの牙や鱗だ。

 


 ☆ワイバーンの牙

 名前の通りワイバーンの鋭い牙 

 主に魔法具の修理に使う素材 修理の前に使う

 魔法具を修理にする前に必ず魔法具の機能を失わせる必要がある、その時に使う粉末は牙から出来ている。 

 錬金術でも似たように利用する

 高ランクのワイバーンが◎

 腐らない 粉末にすれば永久保存が可能


 ☆ワイバーンの鱗

 名前の通りワイバーンの鱗

 こちらは魔法具の修理が完了した時に使う

 粉末にした牙の効果で失われた魔法具の機能を元通りにする事が出来る。

 一部の機械修理にも使われている、知る人ぞ知る素材だが錬金術では使われない

 これを使うと完全修復するが傷は消えない、修復するのは物の機能のみ。

 高ランクのワイバーンの鱗が◎

 腐らない 粉末にすると永久保存が可能



 これは主に魔法具の修理に使われる、沢山有っても困らないが魔物の解体をして得るので余計なモノも出てしまう…。

 譲ったり捨てたら冒険者に色々言われるだけ、生物は売るしか道がない、錬金術師がいたら血相を変えてまで欲する代物ばかりだ…


 お金は増えても問題ない、今はお金や建物よりも素材が欲しい…お金では買わない、天然モノを自分の目で見て判断したいから…



「明日もガルダクスの採掘だな、全然足りないから、最低でも1ヵ月は続けるか。洞窟は広くも大きくもなかったから、地道にやっていけば結構な量が採れるだろう」



 その後、何かの紋章が刻まれた水晶の耳飾りを一度外して入浴した。

 少しすると…浴室からバキッと何かが割れる音と自分に呆れるシェズの声が聞こえた…。


 その後、再び片耳に耳飾りを着けて就寝した。


 月明かりに照らされる青い水晶の耳飾りが静かに光輝いてた…



 ☆★☆★☆



 …夢を見た…



「今すぐコレを捨てろ!」

「なりません!」

「ならこの場で殺せ!生かしてはならん!」

「お止めください!――様!」



「ハッ!…な、なんだ今のは…」



 らしくない冷や汗をかき…痛む胸元を抑えながら身体を起こした。


 元々自分は捨てられた赤ん坊だった…人間の赤ん坊でありながらも魔女の素質を持っていた…魔女に育てられた元人間の魔女だ…


 時間の流れ、年と見た目の変化は今は人間と同じだが…少しずつズレていく…周りが老いても自分は若い姿のままだろう…

 魔女は自分で容姿を決められる…若い娘の姿だと男に言い寄られ、更には良からぬ被害を受ける事もある…

 …そうなりたくない者は老いた姿を望む…


 魔女は不老だが不死ではない…何時かは終わりが来る…



 まだ日は登ってない…就寝して5時間も経ってない…


 二度寝をしても良いが…胸元に違和感がある…

 次第に違和感は強くなり…痛みになった…



「なんだ…コレは……うぅ…」



 起き上がろうとしたが、痛みが走り動けなくなった…。


「(どこだ…何処からだ…)」



 目を閉じて痛みの原因を探った。胸骨でも肺でも胃腸でもない…


 ……【心臓】からだ……


 ズキズキと何かが胸元に刺さってるような痛み…

 吐き気もその他の痛みや違和感は一切ない、本当に胸元の痛みだけ…

 チート能力の反動が身体に来てる訳でもない…


 何かがシェズを苦しめてる…



「はぁ…はぁ…うぐっ」



 魔女の里に居た時でもこんな症状は一度も起きなかった。


 エルフの呪いとは思えない……もっと…醜く残酷な存在によるモノだ…



 …しばらくすると痛みが消えた…

 何事も無かったかのように身体が軽い…


「はぁ…はぁ……」


 汗だくの身体を起こして浴室に向かった。

 これでは二度寝どころではない…

 先程見ていた夢が関係してるのか…治療魔法をかければ何とかなるが、急に来られたら厄介だ。



 完全に目が覚めたのでガルダクスを砕いて歯車を作る事にした。


 シェズの仕事道具の一つ 研磨機はウィアが作ったモノに手を加えたモノで、歯車を作るのに適してる。適した大きさに砕いたり、特注の切断機で調節し、ペンと精密ヤスリを使って歯車の形にしていく。


 ウィアが作ったモノとはいえ、シェズも仕事道具は作れる。研磨機はもちろん精密ヤスリ、切断機、使ってるツルハシ等全て作れる。

 以前素材を切らし、追い討ちをかけるようにヤスリが折れたが、あの後すぐに新しいのを作った。

 道具も素材さえあればすぐに作れる。



 理想は銀色の歯車、鏡のように反射する歯車が良い。時には極限まで研磨して黒い水晶のような状態にする時もある。


 天才なら魔法術でやれば良いと思うだろうが、師であるウィアに『手作業程良いモノは作れない!魔法術は品質を保つ為(の加工)だけに使え!』と嫌になる程聞かされた。


 最初はキツいが、慣れると結構楽しい。 

 歯車の形にする際、削り取れた固まりは粉末にしたり別で使ったりする。

 ガルダクスは数ミリのズレが生まれても粉末にしたガルダクスを使えば修正出来る。接着剤を使わずに結合して鉱石に戻る。


 小さいモノから大きなモノ…極小サイズの歯車を作る事も…ピンセットを使って修復したり、調整をしたりなど…まさに職人だ。


 そして粉末にしなかったガルダクスを宝石のように研磨し黒い水晶に、それをラウンドブリリアントカット(丸い形のダイヤモンドカット)すれば、宝石型の部品になる。

 一部の歯車には、コレが中止の穴に嵌め込まれてるモノも有ったりする…

 本来歯車は専用の機械で鉄の塊に刃を通して、出っ張りを一つずつ作っていくが、シェズは全て手作業で行ってる。


 歯車は沢山必要…大中小から極小サイズまで…あらゆる形の歯車が必要だ… 出っ張りが多いものや少ないもの、更には溝が深いもの、浅いもの…数えたらキリがない…


 修理屋を開くにはそれぞれ1万個はなくては…



 ☆★☆★☆

 

 数時間後

 太陽が登り眩しい光が机で眠るシェズに直撃した。



「!?」



 いつの間にか作業机で寝ていたようだ。幸い道具と歯車は片付けられていたので汚れてはいない。

 寝落ち寸前で全て片付けたのだろう…

 胸元の痛みも無い、採掘には問題なく行けるだろう。


 その後、動きやすい格好に着替えてアトリエを出た。


 あの夢は一体何なんだ…あの夢を見たせいで胸元に激痛が走ったので悪夢と言って良いのか微妙だ…


 帝都のカフェで朝食を食べてから今日もガルダクスを採掘しに行くのだった。


 今日も洞窟内の全てのガルダクスを採り尽くし、大量の歯車の作成に取り掛かった…


 もはや歯車の魔女と言うよりは…歯車に取り憑かれた魔女だ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る