3.大ピンチ

 数日後、予定よりも早めに店を畳む事が出来た。鍵を不動産屋に返却して街を離れた。その時もクラウスに見つかったが、捕まる前に馬車に乗った。

 あの悔しがる顔は傑作だった。



 後から噂で聞いた事だが、どうやらシェズの店が閉店した事で利用客が悲鳴を上げていたそうだ。

 その後何故かあの街は荒れ果て、今では誰も住んでないゴーストタウン状態らしい…



 シェズは収納魔法が使える。素材はもちろん、大型機械や道具、部品、持ち運び可能な作業机など…移動しながらも商売をしていた。


 しかしあまりにも怪しいので兵士や騎士に何度か捕まりそうになった。

 鉱石採掘や薬草集め、魔物の討伐など…最強魔女には楽勝だった。

 しかし魔女が鉱夫に紛れて鉱石採掘とは…鉱石採掘はかなりの量がもらえるので買うより効率が良い、ちなみに初めてではない。

 魔女の里にいた頃、ウィアと共に近くの山に行って採掘した事があるからやり方は知っていた。


 それからの事

 シェズは目的地に着くとすぐさま店を出し商売をした。しかしまたしてもナルスとクラウスに見つかった。

 幸い此処でも商売は順調だったのですぐに移れた。

 そしてまた別の場所に来ては同じ事、今度は別の騎士に嫌みを言われた。クラウスの差し金だとすぐにわかったので彼が来る前に逃げるようにその地を去った。


 このように各地を転々としながらも修理屋を開いていた。


 そして…素材を集める時間が潰れていった…

 お金があっても素材がなければ意味がない。そもそも素材は全てシェズが自分の目で見て選んでるモノ、商人から買ったりしない…ほとんどが天然のモノだ。



 そしてついに…恐れてた事態が発生してしまった…


 魔法使いの国【ローゼンベルク】からかなり離れた地にある国【ラナリア帝国】に移った際の事。


 安い物件を見つけられなかったので魔法具を取り出し、異空間にあるアトリエに移動して荷物を広げた時…シェズは奇声を上げた。



「な、なぁぁい!!」



 頭を抱えたり、パニックになりながら鞄から全部出したが…結果は同じだった。



「ない!ない!無い!!やらかしたぁ!!」



 …収納魔法の鞄…魔法の鞄に入ってたのはウィアの懐中時計を直す為に使う僅かの希少素材と既に部品となった元素材…そして有り余ってる金銭…肝心の【素材】が無いのだ。


 移動しまくっていたのが仇となり、素材だけが減っていってたのだ…。

 確かに各地を転々としながらも修理屋を開いていたのでそれなりに稼げたが、素材が代償に溶けるように消えた…。それもかなりの量が…


 これでは店が開けない。部品もそんなにある訳じゃ無い。

 ヤバい…店を開く以前に素材を集めなくては…


 集める場所、方法はわかってる。

 一番恐ろしいのは…集める量だ。

 ウィアの懐中時計の素材はもちろん…これまで手元に有った素材全種類を集めなくてはいけない…。

 幸いラナリア帝国とローゼンベルクは同じ大陸にある、採れる素材は全部同じだが、生息地、採れる場所が異なる。

 だからと言ってローゼンベルクには行けない、行ったらクラウスに見つかるだけだ。

 未知の土地で情報集めから始めなくては…


 最強魔女であるシェズに敵はいない、魔物の討伐など簡単、ドラゴンすらも片手で倒せてしまう…

 素材の中には魔物の鱗や牙が有ったりするが、肉や眼は使えないので売るしかない。



 ……ヤバいのは素材だけじゃなかった…



「はぁ…はっ?…」


 魔法の鞄から取り出した仕事道具の一つ、鉱石を削る精密ヤスリが折れた…これもウィアがくれた道具だが素材はわかってる。


 ……またヤスリ以外の道具もガタが来たようだ…



「終わった……」



 膝から崩れ落ち、落ち込むシェズ…

 経営よりも先に商売支度を0からしなくてはいけなくなったシェズだった。


 ☆★☆★☆


 翌日、朝早くから彼女は起きていた。

 気持ちを切り替えて身支度をし、帝都に行くようだ。


 まずは情報集め、素材の9割りが石や鉱石なので腐る心配は無い。

 主な情報集めは必要な鉱石の採掘所、それから魔物の出現情報…地道だ。


 どうやって鉱夫に紛れて鉱石採掘に参加してるのかと言うと…

 シェズは魔女なので姿を自由に変える事が出来る。身体の作りも声も、女性から男性なんて楽々、更には子供や動物など変幻自在だ。


 鉱夫の数なんて数えてる暇は無い、それを狙ったシェズが紛れるのは大人数の採掘所。借りの身分が何個か有るので鉱夫に変身しても身分がちゃんとしてるので怪しまれる事はない。


 時には子猫に、時には老婆に、時には青年冒険者に…何でも変身出来る…天才って怖い。


 絶対にバレてはいけないのは『魔女ギデオン(シェズ)』、修理士シェズで何処までいけるかが鍵だ。



 それから、シェズは姿を変えて冒険者ギルドに入ったり、鉱山の受付をしたり、小鳥になって動物から情報を集めたりと…使える手段を全て使って情報を集めたのだった。


 この日の夜

 アトリエの作業机の前にシェズは立っていた。


rowel品質保存加工


 机の上に置かれた鉱石と素材に手を翳し、口で詠唱せず、無詠唱で加工魔法を発動させた。

 直後に青白い光が広がり、素材が青白い光を纏った。

 この魔法の使わないと一部の鉱石が綺麗に削れない。良い部品を作るには素材の品質を落とさずに作ること、シェズは精密ヤスリを手にして削ったり、ハンマーを操って壊したりした。大雑把な作業は魔法を使って、細かい作業は手間だがシェズの手で行う…だから良い部品が出来、良い品となるのだろう…。


 急ぎの場合はこの加工を使わなくても良いが、職人として良いものを依頼主に届けたい…嫌な顔せずに真剣な様子で取り組むシェズだった。


 今日削ってるモノは『カジャ石』と呼ばれるモノ


 ☆カジャせき

 主に普通の時計、普通の懐中時計に使われる素材 石(せき)と着いてるが鉄鉱石と同じ仲間の鉱石。今は石っぽいがしばらくすると金属になる。

 魔法具に使うと魔法具がダメになるので注意

 これはネジと針になる。とても硬くて壊れにくいが、乱暴に扱うと砕ける。

 硬くて丈夫なネジが作れ、金属になる前から鋭く丈夫な針が作れる。

 服屋や手芸屋で取り扱われる手芸針も同じように扱われてる。普通の金属の針よりも長持ちするし錆びない


 1つのカジャ石から50個程しかネジが作れない。針も30本もいかない…在庫としてはどちらも1000個は欲しい…

 カジャ石はそれなりに大きい鉱石だが丁寧に扱わないとそれ以下の数しか出来ない。


 このカジャ石はシェズの手元に有ったモノだ、新しいモノを手に入れるまでは手元に有るので部品を作るしかない…


 ★☆★☆★


 数日後、ある鉱山にて鉱夫になったシェズが採掘に参加していた。


 此処で採れるのは『紅玉石』だ。宝石の名前に似ているが宝石ではなく、鉄鉱石と同じ種類の鉱石だ。



 ☆紅玉石こうぎょくせき

 主に普通の時計、普通の懐中時計に使われる装飾用の鉱石 一部の魔法具には使えない。

 宝石のルビーと瓜二つな名前だが鉄鉱石と同じ種類 磨いても美しい宝石にはならない。

 名前は紅玉だが、粉末にして溶かすと金色の液体金属になる。

 時計全体や中の部品の染色加工に使われる。

 いじっても剥がれにくく傷が目立たなくなる液体。これを塗ると酷い傷も綺麗に消える。

 また塗ったモノを丈夫にする効果もあるとの事

 アクセサリーにも使われており、多くのジュエリーデザイナーが欲しがる代物。  



 これはかなり欲しい鉱石だ、沢山あった方が絶対に良い!何せ液体にするのにかなりの手間がかかる…が絶対に失敗しない、焦がそうが爆発させようが最後は必ず金色の液体になるから。


 シェズが採った分は全部貰えるという契約で臨時鉱夫として参加した採掘…無我夢中でツルハシを振り回すシェズだった。



「うぉぉぉ!」


「ヤバいなアイツ…」


「臨時助っ人って変人ばっかりだよな~」

 


 数時間後、採掘が終わった。


 1人で山のような紅玉石を採ったシェズは満足していた。

 かなり無理がある契約だったが、自分は職人だと伝えたから責任者が許可を出してくれたのだ。


 実際、1人で山のような量を採ったシェズだが、鉱夫達はシェズの倍は採っていた。シェズが採った分が無くても大丈夫そうだった。 


 その後、シェズは瞬時に紅玉石の山を収納して立ち去った。この動作を誰にも見られなかった。

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