2.シェズと面倒な騎士
翌日、工場に籠り依頼の続きをしていた時だった。素材はまだ大丈夫そうだ…
時刻は昼前 面倒な人間がやって来た。
「おーい、居るんだろ?出てこいよ」
「チッ(…また来た…暇なのか)」
道具を箱に戻し、依頼の品を別の箱に入れ、身だしなみを整えて工場を出た。
彼女を待っていたのは騎士の制服をきた茶髪の青年と眼鏡をかけた緑がかった黒髪の青年だった。
この国は魔法使いの国とは言え、普通の騎士や魔法剣士、魔法騎士とかもいる…
何故騎士が魔女シェズの店にいるのだ…昼頃で国の隅にある街に…暇人なのかもしれない。
「何の用だ?此処は時計と魔法具専門の修理屋だ、依頼じゃなければ帰ってくれないか」
「はっ、相変わらず可愛げのない女だよな。男みたいな口調、絶対にモテないな」
「やめないかクラウス、彼女はアレでも職人だ。失礼だ」
「(コイツっ!失礼なのはお前もだ!)
私を馬鹿にしに来ただけか?営業妨害だ、さっさと帰ってくれ」
「可愛くね~!」
「(あー!何なんだ!相手は騎士だ、下手に攻撃したら魔女だとバレてしまう、あと3週間で男達から離れられるんだ…耐えろ…)」
シェズは無礼な男達の前を通りすぎ、出入口の扉を開けて出るよう指示した。
それでも動かない男達…先に痺れを切らしたのはシェズだった。渋々扉を閉じて男達を睨んだ。
「あなたが変な態度を取るからこうなるのですよ…全く。
シェズ=アルスディアさん、住民から苦情が来てます。
何度も言いますがこの店は街の雰囲気を壊してます。速やかに移動するか店を畳むか対応してください。早くしないと国の雰囲気を壊してるとも訴えられますよ」
「あと少しで契約が終わるんだ、住民からの苦情なら文句は言えない。だが今月中には畳むつもりだ」
「はっ、畳むって言っても行く宛あるのかよ?」
「あるさ。君達に心配される必要は無い」
「チッ!」
「……」
このやり取りも何回目だ…
実は苦情が来てるのは半分本当で半分嘘、ようするに、嫌がらせの一種だ。
内容はこの店の見た目、街の雰囲気を壊してるのは確かだが、それなりに客は入ってる。
この男達、茶髪のクラウスと黒髪のナルスはいちゃもんをつけてシェズに何度も嫌がらせをしに来てる。
やっぱり暇だったみたいだ。
しかも客がいないタイミングのみ現れ、客がいる時には入って来ないとか…達が悪い。
真面目なナルスはどうでも良い、問題はクラウスだ。
この男は2年前からシェズに絡んで来た。
やれ女一人で商売は無理だ、こんな店に客は来ないとか…とにかくウザイ。
魔女と言っても元は普通の人間だったシェズにとって時間の流れは周りと同じ、同年代に見えるせいなのか、クラウスは何かとシェズに絡んでくる…。
不動産屋がこの店を紹介してくれた時に出会ったのが始まりだ…まさに最悪なタイミングで最悪な出会いだった。
それからも現れては馬鹿にし、時には女騎士を連れて来ては意味のわからない行動をしたり、部品を作ってる所を邪魔されたりと…とにかくシェズにとって邪魔な男でしかなかった。幸い工場に入られてない…
取り敢えずナルスと話し合い、今回も見逃してもらう事に成功した。
ナルスと話してるのが気に入らないのか、話してる時も横からあーだこーだ文句を言ってるクラウスだった。
それから面倒な騎士2人が去った後、シェズは工場に戻って作業に戻ったのだった。
材料と部品はまだ大丈夫そうだが…大きなモノの修理が来たらヤバい…一気に素材が底につくだろう…素材が無くなったら部品は作れない…あと3週間
☆★☆★☆
それから2週間後、あの時の男性客が取りに来た。
「こんにちは~ 取りに来ました~」
「!少しお待ちを」
シェズは直した魔法具が入った箱を手にして店に現れた。
相変わらず見た目と口調が合ってない美少女に戸惑ってる男性客…
「依頼したモノは直りましたか?」
「頼まれた所はな、そこ以外にもダメになってた所が有ったので修理しておいた。試した方が良い」
「はい。では…っ!」
男性客は壁に飾られた的に向かって光魔法を放つと魔法を受けた的は粉々になった。これを見た男性客は、満足してくれたようだ。
「凄い!この間まで効果が弱まってたのに、初めて使った時と同じみたいだ!ありがとう修理士さん!」
「どういたしまして。それじゃあ支払いだが…」
「ひぇっ!で、でも納得の値段です。ギルドよりは高くても王都の店よりは安いし早く直してくれたので文句無しです」
勿論、普通の時計よりも魔法具の修理はかなりの高額だ。でも納得の値段だから此処を利用する者達は文句を言わずに払ってくれる。
これなら次の場所に移れるだろう。それなりに金銭も貯まった、予定よりも早めに店を畳んで移動するのも有りだ。
あとは不動産屋に話をつける…それと素材の確認を…
その後、男性客は満足な様子で店を出ていった。
笑顔で店を出る男性客を見たクラウスは信じられないモノを見たような顔をして店に入った。
「ぼったくりめ!詐欺して楽しいか!?」
「はぁ、文句を言えるのは依頼した客だけだ。君に文句を言う資格は無い」
「ある!オレは此処の担当だからな!怪しいヤツを捕まれる義務がある!」
「はぁ…(何を焦ってるんだ?)」
シェズの行動が気に入らないのか…何処か焦ってる様子なクラウスだった。
☆★☆★
それから数日後、不動産屋で手続きをした。クラウスに邪魔される事なく無事に事を終えられたので良かった。
店に戻り素材の確認をした。そろそろマズイ…余裕はある方だが次に依頼が入ったら使いきるだろう…。
集めながら移動するのが良いだろう…。それでもあまり採れないかもしれないが、底をつくよりは良い…。
正直、今すぐにでも此処を離れたい。しかし手続きを完全に終えてからじゃないと離れる事は出来ない。
客足は悪くもない、でもクラウスの相手に疲れたのが本命…定休日を多くしたら、それを理由に絡んで来そうだ…。
渋々店を閉じ、工場に籠ってウィアの懐中時計の修理に集中した。
この懐中時計の修理に時間がかかる理由はいくつかある。
その一つに、この懐中時計に適合する素材が希少モノで在庫が無い。
大きさは色々あるが全ての歯車の素材は同じ。ネジ、針、その他の部品…歯車の一つ一つが違う素材って訳ではないのでそこは楽、ネジはネジで一種類の素材から作られてるが、その素材が希少で入手困難…ウィアの手元に有ったのもそんなに量が無かった。
それぞれが一つの素材から作ってるということは、かなりの量が必要と言う事…これが一番の理由だ。
他の素材が適応してるけどダメだ、その素材から作られた部品しか完全に動かない仕組みだ…
その次は…部品の形作りが困難な事
普通の時計、懐中時計の修理をマスターしてもウィアの懐中時計はかなり特殊、中の作りが全く違うのでかなり難しい…。
普通の歯車の形では型にはまらないし動かない。下手したら1ついじったら全てがダメになってやり直し…
この希少素材で出来た部品は傷も付かないし壊れない、何度もやり直しが出来るからありがたい。
しかし、素材がわかってても量が無いと意味がない。シェズの手元に有るのも少ない、でも何処で採れるかはわかってる。
希少素材もそうでない素材も、採れる場所さえわかればいい…部品はシェズが作るのだから…。
ウィアの懐中時計の修理に区切りを付け、今度は本と地図を取り出してペンで印を付けだした。
次の目的地は既に決まってる、後は離れる準備をするだけ…
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