34話 金の闇と翠玉の魔力(カナタ視点)

 ※カナタ視点のお話です。

 

前話『見えない執着の悪夢。金の闇と翠玉の魔力』のテラスで眠るハナキを見つけ、助けるところです。



・・・・・・・・・・・・


 明日はリュートの婚約者とハナキが対面する日だったので、カナタは時間を作るため

 前倒しで仕事面の調整していたのだが、


 少々詰め込んでしまい、同じ部屋に住んでいるのに、落ち着いて話をする時間も取れないことに、多大なるストレスを感じていた。


「ただいま戻りました。」


 部屋の灯りはついている。ハナキのお出迎えがないのは寂しいが、

 時間も時間なので仕方がないと諦めていた。


 リビングに入ると夜風が微かに吹き込んで、テラスへ続く出窓のカーテンを揺らしている。


「おや。部屋に戻っていたのかと思いましたが」


 テラスにハナキの気配を感じ、カナタは足を運ぶ。


「ハナ?こんなところで寝てはいけない。風邪ひきますよ」


 薄物の夜着パジャマで無防備に眠るハナキをカナタは優しく揺り起こす。

 触れた肩はすっかり冷えていて、カナタは眉をひそめる。


「……すぅ…すぅ…」


 目の下のクマも色濃く疲れ切った顔で、落ちた様に眠るハナキはなかなか目を覚さない。


「ハナ、何を思っているんですか」


(ここ数日のハナキの様子がおかしい。気づかないわけがなかった。

 玻璃はりの花が、日に日に曇っていく。)


 彼女が無理をして笑う。

 心配をかけまいとして。

 それ以上踏み込んでくれるなと、無言で拒絶されているように。


「私では、力になれないのでしょうか」


(何度聞いてもはぐらかされる。

 明日のために時間を作る。物理的に多忙なこともありなかなか踏みこめないでいたが。)


「このままではあなたが、壊れてしまう」


 夜風に晒され冷えたハナキを温めるように抱き寄せる。


 彼女の意思なんて関係なく無理にでも踏み込んでこじ開けてしまおうか。


「私を遠ざけないで……」


 これ以上カナタの預かり知らぬところでハナキが苦しむ姿など耐えられなかった。


 彼女を抱きしめて、その頬に触れる。


 その時。


「やめ…て」


 苦しそうにハナキの顔が歪む。

 じっとりと脂汗が浮かんできている。


 首元の鎖がシャラ、と音を立てる。

 翠玉の守りが力を発動させるように発光する。



 それでも、ハナキの表情はまだ苦しげなままで。


「私の魔力ではまだ足りない……??」


 彼女を苦しめる他が魔力の気配が強くなる。本来あり得ない展開だとカナタは思うが、


 確かに自分以外の魔力がハナキの中に混ざっている。


 誰が彼女に目をつけたか。

 不快極まりない。


「ハナ、ハナキ…!!」


 汗と夜風で冷えた身体を温めるように

 彼女の不安かくしごとごと受け止めたくて強く抱きしめる。


「ハナキ、起きて。」

「……嫌だ…ちが……」

「ハナキ!」

「…助け…て、カ…」


 夢の中であらがっているのだろうか。

 苦しげにしぼり出すハナキの呼吸ごと、塞ぐ。

 カナタの唇で。



 ひんやり冷たい唇に、自らの熱を移す。



(私に気づいて。

 あなたの苦しみを、私に移して。

 心のかげりごと全部。受け止める。

 夢でもうつつでも、

 1番近くで。あなたのそばにありたい)


「起きて……私の玻璃はりの花」


 さらさらと頬やひたいを撫でる赤みがかった栗色の前髪。


 触れては離れる、優しい口づけが繰り返される。


 口付けに呼応する様にハナキのネックレスの翠玉エメラルドの魔宝石が

 淡く光を放つ。


 カナタの内包する魔力がハナキの中に流れ込み、翠玉エメラルドの魔宝石が力を増幅するよう呼応する。


「もっと強く。他の色は即刻消え去れ」


 彼女をむしばむ何かを、はらえる力を。



 ハナキの玻璃はりの花を覆う金の混じる黒煙を、はらえるように。



 しばらくすると

 姫君の濡れたまつ毛から、うっすら覗く青黄玉ブルートパーズが姿を現し、


 必死の形相のカナタが映り込む。


(こぼれ落ちれそうな瞳に、私が映る。

 蒼穹そうきゅうに。浮かぶように私が)


(囚われたのは私だ。あなたに。)


 今はされるがままの彼女だが、

 徐々に覚醒かくせいしていくハナキは、きっと慌てるだろう。想像するだけでとてもい。



 「目覚めは王子のキスで、御伽噺おとぎばなしの定石でしょう?」



 翠玉エメラルドの瞳が優しく形を変える。


 空に浮かぶ三日月のように。

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