32話 貴人のショウタイと繋がる縁。
全力鬼ごっこをする羽目になったり、
カナタに求婚めいたことを言われたり
自分の気持ちを引っ掻き回れるような
忙しい日を送った後に、
いつもの食後のティータイムにリュートから一つ提案があった。
「僕の婚約者、ミズキに会ってみない? 」
「ミズキさんに? 私もあってお礼が言いたいと思っていたの。ぜひ会いたい! 」
二つ返事で飛びついた。
なぜ私にそんな話が来たのかは不思議だったが、
リュート曰く『国家機密の保護猫を見つけたから』としれっと返された。
みんなして私を猫に例えるね。
多分ミズキさんに似ているのが1番の理由っぽいね。
明かされたリュートの本来の身分はスコアリーフ王国の第2王子、らしい。
この国の王子様。というやつ。
「王太子殿下だったのか。言われてみれば納得」
適当で軽薄なノリに隠された気品と観察眼は、やはりただものではなかったらしい。
王子様の婚約者、ということは、ミズキさんは高位貴族なのだろう。
そんな方にお目通りしていいのだろうかと怯んだが、それ以上に嬉しさが込み上げる。
懐かしさ、とでもいうのだろうか。
お会いしたこともない方なのに。
ただ、心が磁石のように引き寄せられる。
会わなければいけない。
隙間だらけの私の一部を満たしてくれるのではないか。
そう思わずにはいられないのだった。
「ミズキもハルちゃんに会いたがっていたから、気楽にね? 仲良くしてくれたら嬉しい」
「私も、お会いできるのを楽しみにしているね。きちんとした振る舞いができるかは自信ないけど」
「そこら辺は心配しないで、人払いもするしミズキはそんなことで怒りはしないから。
もちろんカナタにも相談済みだよ。
その時は一緒に来てもらおうと思っているから安心してね」
「ハナが決めたのなら、私はそれに従うよ」
「うん、ありがとう」
最大限私を気遣う姿勢を見せてくれるリュートで、ずっと静観していたカナタも笑顔で私の決断の背中を押してくれたので、心強くその日を迎えられそうで、嬉しい。
・・・・・・・・・
その方向で話しがまとまると、ミズキさんとの対面の日を待つばかりとなる。
彼女の体調が
それまではなるべくホテル敷地内で過ごす様にと言われている。さりげに護衛もつけられているそうだ。
まだ姿を見たことはないんだけど……リュートの専属の方がつけられている、らしい。
「私1人に随分大袈裟な気もしないことはない。けどねぇ」
危ない目に遭っているしとカナタもリュートも敏感になっている。
逆らうこともないし私はリビングや部屋内でゆっくり過ごしていた。
先日の不審者の一行は、
どうやらカナタ絡みの
優秀な
組織的犯罪というか、カナタに恨みを持つものが集められて、
主犯になるのが先日取引を切られたことで逆恨みをした男で、彼が主導で動いたとされている。
その中には貴族の手の者も混じっていたが、
実害が出ていない犯罪にお貴族様が絡むと処罰も表立ってはできないそうで、
そこはカナタが裏で手を回して色々と
それはもう色々と手を尽くし………
今回の事件には私も絡んでいたのでカナタは怒髪天をつく勢いだったそうで…
緩やかにだが確実に没落の一途を辿ることになるだろう、と目を逸らしながらリュートはため息をついた。
『
莫大な財と人脈を持つカナタ・イグニードは国内外にも多大な影響力があり、爵位以上の権力を有しているのをこの一件で知る。
(思った以上におっかないやつだった。カナタ)
背筋が冷え冷えといたします。
今回の一件は、少々の違和感を感じるとカナタは首を捻っていた。
彼らを結ぶ接点がないのだ。
寄せ集められた群勢で、誰かが手を貸さないとここまで絞った人選ができないだろう。
だが誰も彼もが口を破らない。
皆一様に嘘の『色』も見えなかった。
表立っては解決済みではあるが、まだ何かあるとカナタは踏んでいる。
その為、私に対しての警戒も緩めることは出来ない、と。
(うーん、なんだかすごいことになっている……)
全力鬼ごっこにはそんな背景があったとは。
私も巻き込まれたはずだが、なんだか遠い話の様にも感じる。
(個人的には無くした
カナタにとっては痛くも痒くもないのだろう。
捨ておけと彼はいう。
それでもずっと抜けない棘のように私の中に残ってる。
(細い糸の先に繋がっているみたいに感じる。
どこかでひょっこり戻ってくるんじゃないかな、と)
なぜだか、執着してしまう。
そんなことをソファに腰を沈めながらぼんやり考えていた時。
目の前が暗くなる。
(え!? )
私の視界を乗っ取る闇に、頭に直接流し込まれる
「ーーーー見つけた。」
「劇のフィナーレは、まだ先だよ? 」
「小さな綻びが、小さな違和感が、針の先のような穴を
「あなたに届いたね。
「俺とあなたは繋がっているよ。
だから。もう。
ーーーーー逃さない」
闇に紛れて顔も姿もわからないが金色の
・・・・・・
一気に視界が開け、いつもの部屋の風景が飛び込んでくる。
(え?)
白昼夢だろうか。
意識の向こうで、誰かに呼びかけられたような。
(気のせい…?)
ざわざわ、心の
得体の知れない心細さの波紋がいつまでも残る。
きっと気のせい。無くした罪悪感が見せる妄想みたいなもの。
(そうに違いない)
自分の両腕を掻き抱く様に抱きしめる。
見つけたと。
獲物に喰らいつくように。
(
(あなたは誰なの? )
「カナタ…怖いよ……」
ここにはいない彼の名を呼ぶ。
不安を拭うように抱きしめて。
大丈夫だよって笑って。
金の鷲にジリジリと詰め寄られる不快な感覚が、ずっと消えず残り続ける。
深い爪痕の様に。
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