20話 首輪がついた飼い猫は、翠玉の深淵を覗く。

 あれから何日たっただろうか。


 私はかなり自堕落な生活を送っていた。


 カナタは日中は大変忙しそうだし

 リュートもリュートでやることあるのさ!とホテルの自室に篭り気味で、割と1人で過ごす事が増えてきた。


(なりゆきで首輪つけられたからねぇ。)

 無断で逃げるのはまず不可能になった分、


 プライベートタイムは増えた。

 その分やる事が…尽きてきた。


 本を読むかお風呂に入るか、おやつを食べるか散歩するか、気ままに過ごしてはいるが、


(飼い猫って言うか…籠の鳥の気分。)


 夜は可能な限りカナタが私に会いに来るが、

 そろそろ退屈が潰れなくなってきました。


 1人で外出するにも、

 どこまでの範囲なら爆発しないのかわからないので困る。

 カナタ曰くこの街の範囲内なら大丈夫、と言ってはいるが、恐ろしい。


 色々試してみたがどうやっても自分では外せないし物理的な力ではまず壊れない。


 雰囲気に流されてちょっとじゃないくらい凶悪な首輪をつけられたと気付いたのも

 後の祭りだった。


 先日のことを思い出す。


「初めて贈ったジュエリーがそれって…

 とんだジェラキチ野郎だね?カナタ」

 (ジェラキチ野郎…?)


 私のネックレスを初見時、リュートの顔が引ききれないくらい引きったのを見逃さなかった。


「ふふ、綺麗でしょう?よく似合ってる」

 対照的に大層満足げなカナタは上機嫌で。


「これって、そんなにヤバいの?私死ぬ?」

「あはは~…うーん。死にはしないよ、君はね…」


 そっと視線を逸らしながら、リュートは歯にものが挟まった様に明言を避けるのが、かえって不安を煽っていく。


「ただの護符アミュレットですよ、コレがハナの身を守ってくれる」

「そ、それだけ…?」

「ええ」


 にっこり微笑み頷くカナタだったが、リュートは終始私と目を合わせないことに答えがある気がした。



 2人の話からすると私がカナタと一定距離離れたら爆発し、翠玉エメラルドの魔宝石にカナタの魔力が込められていて身を守る護符アミュレットになっているらしい。


(私を守る護符アミュレットなのに、爆発するの…?)


 まだ他にもありそうな気はするが、それ以上は教えてくれなかった。


これ、どうなのよ…


心配性にも程がある。


淡く光を放つ翠玉にそっと触れる。


…綺麗だし

 翠玉エメラルド嫌いじゃないし

 まあ、いいか。

 なんてあっさり流せる

 私もだいぶどうかしている。


先日はなかなか際どいことをされたが、それ以降のカナタは至っていつも通りで。


 スキンシップは多いけど

 変なやつ。


(変と言えば…)


 今、私の部屋のクローゼットには溢れるくらいの服がある。


 小さな服飾店くらいなら開けそうな数である。


 言うまでも無く、カナタからの贈り物で。限度というものを知らないのか。


 ひと月の滞在に必要な量の度を超えている。


手渡しだったり、コンシェルジュが持ってきてくれたり。


「あなたに似合うだろうな、と思ったらつい。気に入ってくれたら嬉しい」


これは勝手な願いですけど、と前置きをして


「できれば…できればですがこれからは

私の贈ったほうを着て、1番に見せて下さい」


照れがあるのか少々目を逸らしながら、そんなお願いをされる。


「これからのハナの初めては全部、私のものにしたいから」


 「えっ?」

 「…覚悟して?」

 

 耳元でこそっと囁いた。

 艶を帯びた声音が耳朶に響き、私の耳まで赤くなる。


 

 (ほんと、物騒なやつ…)

 耳朶に触れた息遣いまでまざまざと思い出してしまい、また熱が集まる。


 カナタの『お願い』で助平な服ばかりだったらどうしようとちらっと思ったが、そんなことはなく


 カナタが贈ってくれる品はどれも良い生地で、刺繍も凝っていたりと、ミズキさんの服と遜色ないレベルのものだったが


 どちらかといえば動きやすい物が多く、私の好みに近い。

 ご令嬢が着るような

 ヒラヒラのドレスやワンピースも憧れるけど、


 いざという時に走れないような服はやっぱり落ち着かないのでありがたい。


 しかし、私は一つ物言いたい。


(何で、どれもぴったりサイズなの…?)


 どれをとっても私のためにあつらえたかの様なサイズ感。


 いや、いいんだけど。いいんだけどさ。


 (ちょっと引くわぁ…)

 裸を見られた覚えもないのに。


 パッと見ただけでサイズがわかるなんて。

 恐ろしい。


カナタの深淵しんえんをまた少し覗いた気がした私だった。

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